このページを閉じる
演題 「消えた有権者」

弁士 新井一真(情コミ1)

【導入】
 「戦時中は西宮の甲子園近くに避難して、埼玉に帰ってきてから初めての選挙に行ったなぁ・・・」これは私の曾祖母がよく口にした言葉だ。男女普通選挙が認められ初めての投票。その一票は言葉では言い表せなかったという。
私にとって初めての選挙は去年の参議院選挙、私は投票所にいって、自分の意思を反映する一票を入れた。
しかし、曾祖父と曾祖母は投票がしたくてもできなかった。
なぜなら、彼らは投票所に行くことができなかったからである。
実は、曾祖父と曾祖母は足が不自由で、要介護認定2と認定されている。
外出に困難がある人に対して、国が何も政策をしていない現状!
彼らは「消えた有権者」になってしまったのだ!
そして、ここにいる私たちも将来その「消えた有権者」になりうるのだ!
政治の影響を受けても、政治に影響を与えることができない。
(間) 本弁論の目的は、要介護認定者の権利が保障される日本を作ることである!!
【現状および問題性】
現在、我が国は18歳になると性別または納税額問わず「選挙権」あるいは「投票権」が与えられる。「選挙権」というものは国民主権を謳う我が国にとって欠かせない権利である。その権利を保障するために、6種類の投票方法が存在している。そして、その中のひとつには重度の障害がある人のために設けられた制度、郵便投票が存在する。
その制度の対象者は要介護認定者、約600万人の中で最も深刻である要介護認定5の約60万人である。
この郵便投票制度を利用している方はこう言っている。「政治がとても身近なものになっています。でも選挙に行けないと自分の意思を反映することができません。それがこの制度ができたことによって、自分の意思の表明が選挙によって実現できるようになりました。」
このように郵便投票は投票所へ行くことができない要介護5の方々を救っている。
しかし、これは十分ではない。現状、投票所にも行けず、郵便投票も認められていない要介護認定者がいる。
それは、要介護2から4の方々である。具体的に言えば、要介護2の6割、要介護3、4に至っては9割の人が寝たきり若しくは準寝たきりの状態で外出困難である。
「寝たきり状態」というのは、「生活のすべてにおいて介護が必要な状態」、
「準寝たきり状態」というのは、「外出の頻度が少なく、介護者がいたとしても稀にしか外出しない状態」である。
このように現状、要介護2から4の人は外出が困難にもかかわらず、郵便投票が認められていないため彼らは「消えた有権者」になってしまったのだ。
実際、2009年に行われた衆議院選挙の際に、電話相談「介護保険ホットライン」には次のような意見が寄せられた。「歴史的な選挙になりそうなのに投票所に行けない」といった声である。また要介護認定2の方が苦しんでいる実例もある。例えば、ある男性は病気の後遺症のために脚が不自由で5メートル先に行くにも2分の時間を有するという。夫婦ともども要介護認定。こういった状況が重なり昨年の参議院選挙の投票は諦め・・・
「私の選挙権、どこへいったんやろ」と口にしたという。
このように、投票所にも行けず郵便投票の対象にもされていない現状は、ますます「消えた有権者」を生み出しているのだ。
【理念の強調】
日本は国民が主権を持つ民主主義国家である以上、国民に選挙権を与えるだけではなく、行使ができることまでも保障しなければならないのだ。
現状のように投票の権利が保障されておらず、消えた有権者が増えつつある日本を!これ以上見過ごしてはならない!!
【原因分析と政府の方針】
それではなぜ、このような事態が起きているにも関わらず郵便投票の対象は要介護5にしか認められていないのいるか?
これは過去に起きた郵便投票の悪用によって政府が懸念を持っているからである。
実際、以前まで郵便投票は幅広く保障されていた。 しかし、敗戦から数年後、投票人の親族による不正投票が起きた。それは選挙人が知らない間に、親族が投票用紙の請求と提出を行い、また信憑性が低い医師の証明書を用いて選挙に大きな混乱を招いた。 そのため、政府は一時的に郵便投票制度をやめていた。
その後、重度身体障害者などに対象を限り、また「親族代行を認めない」という条件付で復活。2003年になると、最も深刻な要介護認定者5に限定して郵便投票が認められた。現在、政府は郵便投票に対して、要介護4は積極的に認め、要介護3は何らかの形で認めていくとし、要介護2に関しては認めないと方針を示している。
確かに選挙違反を懸念し、慎重に郵便対象を拡大するという政府の顧慮も理解できる。しかし、あまりにも慎重すぎて、現状国民が権利を行使できない事態が起きている。要介護2から4の方々は、物理的に投票所に行けないということがある以上、要介護5の方と同じように郵便投票を認めるべきだ。
(間) もちろん、これによって悪用事件がまた起きるのではないか、と皆さんは思っているかもしれない。
(間) 確かに悪用事件を完全に防ぐのは難しい。
しかし現在の郵便投票のプロセスは悪用事件以後、第三者の不正投票を防ぐために厳重になった。投票用紙の送付から、請求、記載までの各段階で本人の署名を求めている。そのため、過去のような悪用事件が現在の郵便投票制度からして起こる可能性は低い。
また2003年の要介護5の方々を対象にして以降、不正事例は見当たらないため、、郵便投票の対象拡大は十分可能なのだ。
【改善策】
以上を踏まえ、国民主権に基づき国民の権利や重要かつ基本的な機会を日本国民が一生涯、失わない国にするために、私は1点の政策を提案する。
それは、要介護2、3、4の方も郵便投票の対象にすることだ。
ただし要介護2に限っては条件付きにする。
要介護2は寝たきり状態方が2割と少ない。そのため私は要介護2に関して、物理的または家庭事情により投票所へ行くことが困難であると示す付加条件を必要とする。
また信憑性が高い、医師の診断書の提出を義務づけ、要介護認定2にも郵便投票を許可する。
環境が整っている現在、権利保障として・・郵便投票を広く認めていく!
【展望】
私の政策が実現すれば、曾祖父や曾祖母、投票できない要介護認定者が投票権を行使することができる。私の曾祖父と曾祖母も年齢や体調からして投票する機会はあと数回だろう。いや、もしかすると10月の衆議院選挙が最後になってしまうかもしれない。
時間の流れは早い。つい、この間まで家族に付き添い、小学校の体育館で投票している姿を見ていた私も、気が付けば19歳。投票権を得た。
しかし、現行の制度の下では、いつか私も消えた有権者になりうる・・そういった事態に歯止めをかけよう。そして一生涯投票権が保障される民主主義の国、日本にしよう。
私は一票を投じる機会、権利が失われないために郵便投票の早期見直しを願うのみだ。
ご清聴ありがとうございました。



▲ページトップへ
このページを閉じる