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演題 「早期発見の徹底」

弁士 村田知亮(1)

【導入】
 (咳の音)
 最初はこのように咳がしただけでした。
 咳止めの薬を飲めば治るだろうと思っていましたが、一時的に止まることはあっても、 再発してしまいました。……気づけば、けたたましい咳の音は、日常に溶け込んでいきました。
 周りから、病院へ行くことを勧められましたが、診察結果は想定外のものでした。
 ――肺がんです。
 医師から告げられた。重い、重い言葉でした。
 それから、入院生活が始まりました。手術や抗がん剤治療を処方し、副作用に耐えながら闘病を続けてきました。しかし、がんは刻々と悪化し――彼はこの世を去ってしまいました。  
 これは、私の祖父の話です。
 最初の咳でがんとは気づかず、知らずのうちに悪化していき、治療ではどうしようもなくなってしまったのです。 しかし、もし祖父が早めに検診に行っていたら、どうなっただろうか。
 深刻な状態になる前にがんをやっつけることが出来たのではないか。
 そう考えるようになりました。
 がんは、不治の病ではありません、治療し、多くの人が最悪の結果を回避することが出来るのです。
 早期発見をすることさえできれば。
 がんの早期発見、これによって祖父のようなひとを一人でも減らすための弁論を執り行います。


【がんのおそろしさ】
 がんは国民病とも呼ばれ、日本人の半分が一生の中で経験するといわれています。 
 がん患者は、2016年現在、約162万人います。 死亡に至るケースも多く、そのうちの37万人が死に至っています。この人数は、日本人の死因の第一位です。日本の死亡者数の3分の1ほどががんで亡くなっており、 死亡リスクの高い病気であることがわかります。


【早期発見の重要性】
 しかし、がんは、早期発見さえできれば、死なずに済む確率が非常に高いのです。早期がんの5年経った後の生存率は、肺がんや膵臓がんなどを除けば、ほとんどのがんは 90%を超えます。
 一方、進行したがんの生存率は50%まで落ちます。一番状態が悪い場合では、20%にも満たないのです。
 また、早期発見は死亡リスクの軽減以外にも様々なメリットがあります。

 治療内容に関しては、がんが悪化していくにつれて、抗がん剤治療でしか処方できなくなってしまい、がんの転移や再発を防ぐことしか効果が期待されません。
 また、抗がん剤治療は副作用も伴います。副作用は、吐き気や下痢、体の痛みが発生し、体に自由がきかなくなって しまいます。
 しかし、早期がんは基本的に手術で済み、放射線療法を行えば手術をしなくても治療することができます。
 以上をまとめると、早期発見は死亡リスクを軽減し、治療のコストも最小限に抑え、治療による副作用も軽減させます。早期発見の重要性は明白です。


【問題点:受診率の低さ】
 しかし、その早期発見が現状はできていないのです。
 がんの早期発見には、定期的ながん検診が不可欠です。がん検診とは、まだ症状が顕著に出ていない状態で検査し、がんを発見することです。  がんは、体に症状が出てからの治療では手遅れのケースも多く、定期的ながん検診により、症状が出る前の早い段階で発見することが大切です。
 しかし、早期発見のために必要ながん検診は徹底されていません。現在、日本のがん検診の受診率は平均で40%前後にとどまっています。海外では80%を超える国もあり、OECD加盟国の中で日本の受診率は最低レベルに位置しています。


【原因分析】
 では、なぜ、日本のがん検診の受診率はこれほど低くなっているのでしょうか。
 それには、日本が今までがん検診を個人の自由裁量、いわば本人の意思に大きく任せていたからです。
 国民皆保険のないアメリカなどでは、がん検診を受けることが、保険に加入する条件となっている例があります。
 対して日本では、がん検診に保険適用はされず、検診も強制されていません。
 そのために、がん検診に行かなかった人に対しその理由を聞いたアンケート結果として、「受ける時間がないから」「経済的な負担が重い」、「健康状態に自信があり受ける必要を感じない。」が上位を占めています。
 現状ではがん検診を受けるかどうかは本人の自由裁量に任されているために、このような消極的な理由で、がん検診を受けに行かない人が多いのです。
 わたしはこのような価値観そのものを変える必要があると考えます。
 確かに、一見すると個人の体調管理は個人の裁量に任せられるべきもののように見えます。
 しかし、がんに関してはそうとも言えません。
 がんは、国民の二人に一人が発症し、対処が遅れれば、高い確率で死に至ります。
 また、治療を行えば、200万から600万円もの医療費を保険から支出しなければなりません。
 国民にとっても、政府にとっても、がんの早期発見ができないことは、不幸な結果を生むだけなのです。
 今後、高齢者人口が増え、保険料の支出が増えることが予想される日本。これからの課題は、限られた保険料をいかに効率よく使うかにあります。
 がんの早期発見は、社会全体の課題としてとらえることが、国のためのみならず、個人一人一人のためになるのです。
 がんの早期発見は自己裁量ではなく、社会保障の一環として取り組むべきなのです。


【解決策】
 そこで私は、がん検診を促進し、早期発見を行うための、1点の解決策を提示します。
 それは、がん検診の実質無償化です。
 この政策は、がん検診を社会保障の一環としてとらえ、それにかかる費用は原則、国が負担するものとする政策です。
 国の負担額は、がん検診の最低額に合わせ、検診一回当たり4万円とします。65歳未満は2年に1回、65歳以上は1年に1回の検診に適応されます。
 この政策によって、実質だれでも無料でがん検診を受けることができるようになるのです。

 しかし、私はすべての国民にがん検診を受けてもらいたい。
 そのためには、ただ無料にするだけでは、その制度を知らない人にアプロ―チをすることができません。そのため、がん検診の補助は、クーポン券の制度を導入します。
 これは、がん検診の補助が受けられる年になれば、すべての国民に4万円相当のクーポン券が届くという制度です。クーポン券にはIDをつけ、本人以外の人には使用できないものとします。
 このクーポン券はがん検診の周知と同時に、がん検診に対する適切な知識の付与も兼ねています。
 実際、大阪府池田市では、無料のクーポン券を配布し、受診案内の通知を送ったところ、がんの受診率が20%も上がっています。


【施行後の展望】
 これらの政策によって、がん検診受診のハードルを下げ、それを周知し、検診に対する適切な知識を付与することで、国民のすべてががん検診を受診するようにするのです。
 より多くの国民が検診を受診するようになれば、早期発見の徹底ができるのです!


【結び】
 がんは恐ろしいです。
 私はその恐ろしさを目の当たりにしました。寝たきりで、副作用に苦しみ、体が衰え、 やせ細っていく祖父の姿を。
 もし早い段階でがんと気づき、がん検診へ行っていたら……もしかしたら、祖父は健康 に過ごしているかもしれません。
 私はもう、がんで苦しむ人が増えて欲しくありません。がんは進行するにつれて、手が つけられなくなってしまいます。
 それを防ぐために、早期発見です!  
 早期発見を徹底し、がんを完治できる段階でやっつけるのです!  
 がんの苦しみを知ることなく、健康的で過ごせる社会が出来上がることを願い、本弁論 を終了させていただきます。  
 ご清聴ありがとうございました。



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