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演題 「技能実習制度の転換期」

弁士 小川恭弘(文1)

【導入】
 今年8月、岐阜県の労働基準監督署が、フィリピン人のジョーイ・トクナンさんを労災認定しました。
 彼は、岐阜県の鋳造会社で働いていましたが、おととし4月、心疾患のために27歳の若さで亡くなりました。
 彼は、日本で技能実習生として働き、家族を養うため、お金と、母国で使うための技術を得るために希望をもって日本にやってきました。  しかし、彼を待ち受けるのは地獄のような毎日でした。
 見知らぬ土地で、誰の助けも得られず、1カ月におよそ80時間から120時間もの時間外労働をさせられていたために、命を落としてしまったのです。
 その命を奪ったものこそ、技能実習制度でした。


【現状分析】
 技能実習制度とは、外国の企業から送り出された外国人が日本の企業に受け入れられ、そこで働きながら技能を学ぶ制度です。
 技能実習制度を利用して日本にいる外国人は、昨年末19万人いました。
 技能実習生は各々目的をもって日本にやってきています、それは、「技能を学びたい」だけではなく、「お金を稼ぎたい」などもあります。
 その様な外国人を支えるために、技能実習制度があります。
 しかし、この技能実習制度は大きな問題を抱えています。
 労働基準監督署の調査では、技能実習生の80%が労働基準法に違反している事業所で働かされており、日本人労働者と比べると15%ほど割合が高くなっています。
 こうした技能実習生の違法な労働環境は国際的な非難も浴びており、アメリカの「人身売買報告書」の中では、強制労働のための人身売買制度とまで言われています。
 つまり、現状、技能実習生は日本人労働者よりも違法な環境下で働かされているのです。


【問題点】
 技能実習生は、働きながら技能を学んでいます。
 働いている以上は労働者です。
 労働者である以上は、日本人労働者と同じく労働基準法が適用されますし、労働基準法のもと、技能実習生は保護されるべきなのです。
 しかし、現状ではそれがなされているとは到底言えません。


【原因分析】
 これは技能実習生の立場の弱さが原因にあります。
 日本の労働者と比べて、語学力も劣り、労働法制に対する知識も少ない技能実習生たちは過酷な労働環境で働かされても助けを求めることは出来ません。
 事実、技能実習生の80%が労働基準法に違反した状態で働いているのにもかかわらず、その状態を労働基準監督署などに通告する件数は100件にも達しません。
 技能実習生が、このように弱い立場でいる限り、彼らは不当に酷使され続けます。
【理念】
 本来は外国人を技術や給与を与えることで支えていく制度であるべき技能実習制度が、彼らを過酷な労働環境で働かせることで苦しめているのです。
 この状態を放置することは出来ません。技能実習生の待遇を改善することは、外国人を受け入れてきた国家としての責務であるからです。
 だからこそ、日本人より弱い立場である技能実習生には、彼らの労働環境を改善するための支援を行っていく必要があるのです。


【改正案】
 政府も技能実習生に対する支援の必要性を感じており、技能実習制度の改正案を議会に提出しました。
 その中で、監査の強化を打ち出しており、技能実習生を受け入れている企業を法的権限に基づいて監査できる監督組織、外国人技能実習機構を創設しようとしています。
 しかし、この法案には大きく不足している視点があるのです。

 本来、労働環境とは、政治や行政など、上からの監査のみで守られるものではありません。
上からの監査と、労働者が力を合わせて企業側に圧力をかけること、この二つの方向性が必要となってくるのです。
 特に、弱い立場に置かれている技能実習生たちは、自分たちの待遇改善を訴える手段が少なくなっています。
 そんな彼らに寄り添い、ニーズを把握し、相談に乗るような存在こそが必要なのではないでしょうか。
 また、労働者が力を合わせれば訴訟や争議など個人ではできなかったことも可能になります。
 皆さんも自分の立場に置き換えて考えてみてください。異国の地で、言葉も通じず、法律もわからず相談相手もいない状態で働くことになることを。
 そんな時に、親身になって支えてくれる場所があったら、いかに救われることでしょうか。
 しかし、技能実習生にはそのような親身になって彼らの立場の改善を訴えてくれる組織が存在しないのです。
 監督の強化には限界がありますし、抜け穴もあります。それを補うためには、監督の強化以上に、技能実習生に寄り添い、企業に対して圧力をかける組織が必要なのです。


【解決策】
 監督の不備を補い、技能実習生に寄り添った保護を実現するためには、技能実習生の利益集団を創設しなければなりません。
 この組織は、技能実習生の利益を守るために組織される社団法人です。全国各地にいる技能実習生がまとまって参加します。技能実習生に関して、簡単な相談から、企業に対する労使交渉、訴訟などの団体争議までできる圧力団体です。
 この組織自体は技能実習生が主体となって行います。
 しかし、技能実習生は、外国人であり、言葉や習慣・法律に関する認識の違いによって、主体となって自らの権利を主張する組織を作ることは、相当の困難が予想されます。
 そのため、技能実習生がこのような組織を自力で運営できるようになるまで、国がサポートを行わなければなりません。
 ここで、私は政策を一点提案します。
 外国人技能実習機構への支援と、将来に向けた民間組織化です。
 現状の政策で新しく設けられた外国人技能実習機構は、技能実習生を守るために、労働基準監督署の代理となって調査・監督を行う組織です。
 ここに、技能実習を経験した人や、送り出し国の人を雇い入れることとします。
 外国人技能実習機構では、彼らを雇入れることによって調査・監督のノウハウを伝授していきます。
 こうしてノウハウを伝授していくことによって、最終的には日本人の割合を減らしていき、技能実習を経験した人たちのみにしてくことを目標とします。
 技能実習生経験者を増やしていけば、実習生にとって外国人である日本人にはなかなか話しにくい話や、何気ない話をすることによって、見えてくる問題点もあるからです。
 これこそが、労働基準監督所など公的な機関ではなかなか補えない観点です。


【結び】
 「日本になんか来なければよかった」
 ある技能実習生の言葉です。
 多くの夢を抱えて、はるばる日本を目指してやってきた技能実習生。
 彼らがこのような思いを日本に対してこのような思いを持ってしまうことをとても哀しく思います。

 本弁論を書き上げているさなかの10月21日、衆議院の法務委員会で審議されていた技能実習制度の改正案が、与野党の賛成多数により可決されました。
 この改正案は衆議院本会議を経て参議院に送付され、今期の臨時国会で成立する見通しだそうです。
 これで、官による保護は準備万全、残るは民が主張することのできる地盤をつくることのみです。民と官、両方の支援で技能実習生がのびのびと働ける日が来ることを願い、本弁論を終了致します。

ご清聴ありがとうございました。


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