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演題 「車輪の上」

弁士 森田礼(商1)

 皆さん、自転車を使いますか? 私は、飛行機を見るのが好きです。だから、羽田空港まで3時間かけて、自転車で行くことがあります。
 自分の力でペダルを漕ぎ、心地よく汗をかきながら、私は風になるのです。3時間などあっという間に過ぎてしまいます。
 そんなサイクリングの間、私はヒヤッとする瞬間があります。  車道を走ればごうごうと音を立てて私を抜き去るトラック、歩道を走れば足元のおぼつかないおじいさんおばあさんがいて、常に周りに注意し、交通ルールを守らなければ、殺し殺されることになるかもしれません。
 実際に私は、幼い頃自転車に乗っていて死角から出てきたワゴン車に轢かれた経験があります。
 また、青信号を渡っていた時に横から来た自転車に跳ね飛ばされて大けがを負った経験もあります。

 自転車事故は、交通ルールさえ守ればその多くを減らす事ができます。
 自転車事故で亡くなったり大怪我を負ったりする人を限りなく減らし、安全な自転車社会を目指すことが、本弁論の目的です。

 まず皆さん、自転車は危なくないんじゃないか、自転車事故は自己責任だと思っていませんか。
 いいえ、そうではありません。
 自転車は日本人の約70%の人が利用していて、日本で最も普及している乗り物と言えます。ですからその分、たくさんの事故が起きます。
 年間約11万人の人が事故に巻き込まれています。
 さらに、自転車事故で死亡する人は、年間600人に上ります。
 事故にあった際の死亡率は自動車よりも高い割合になっています。
 自転車は事故にあうことが多く、さらには事故によって死亡する可能性も高いのです。
 それほど危険な自転車にもかかわらず、自転車の安全に関する政策は徹底されておらず、自転車事故によって死亡する人もここ数年でほぼ減少していません。
 自転車事故は見逃してよいものではありません。たくさんの人が事故に巻き込まれる可能性があり、それによって重大な被害をこうむる可能性があるのです。

 ではなぜ、自転車事故は減らないのでしょうか?
 その原因には安全意識の不足があげられます。
 例を挙げますと、「自転車が歩道を走って良い場合は、運転者が13歳未満または70歳以上であること、もしくは車道通行の安全が取れない場合のみである」と言うルールについての遵守度は19%で、認知度は43%しかありません。
 よって歩道を走る自転車が多くなり、結果的に対歩行者の事故で一番多いのが歩道となっています。
 また、前方不注意や交差点侵入時の確認不足などによっておこる、事故の割合が多いことからも安全意識の不足が、多くの事故を生んでいるとわかります。
 実際に自転車安全利用対策懇談会は、警察が取り締まりを行うのが望ましいが特に都市部で人手が足りない。
 また、処罰が不十分であることによって運転者の安全意識が低下、ひいてはモラルハザードが引き起こされ事故につながっていると指摘しています。
 そもそも、自転車事故が多いのは人や車で混雑している都市部です。危険性の高い都市部こそ取り締まりを強化しなくてはなりません。
 しかし、都市部では人手不足は深刻で、自転車事故に割ける警察官の人数の割合は地方に比べて4分の1程度に下がります。

 また、近年行われている取り締まりとしては、指導警告票というものがあります。
 違反行為を行った運転者に対し、それが刑罰に該当することを警告し、交通ルールを遵守するよう促すものが利用されるようになっています。
 警告の強化が進んでいるとは言え、違反行為1つ1つに対しての注意にとどまっており、処罰が成されておりません。
 実際に、自転車に乗っていて指導警告票をもらった経験のある人も多いと思います。
 しかし、注意をされただけで改善するでしょうか。
 単なる注意だけでは安全意識の向上には不十分なのです。
 つまり安全意識の向上には、交通違反を取り締まる人員の確保と厳罰化こそが必要となるのです。

 人員確保と厳罰化が政策効果をもたらした例として、駐車違反の取り締まりがあります。
 2000年代中ごろに、違反駐車の車を取り締まる、駐車監視員の制度が導入されました。
 すると、多くの場所で違反駐車の数が半減しました。このことから、取り締まりの強化を行えば、違反を減少させることが可能だと言えます。

 平均すると一日におよそ二人の人が自転車事故によって亡くなっているのです。
 自転車事故は看過されるべき問題ではありません。


 そこで私は自転車事故の減少のための政策を二点提案します。
 
 一点目は、自転車ルール取り締まりの強化です。
 二点目は、自転車講習会への呼びかけです。

 まず、取り締まりの強化に関して説明します。
 交通反則通告制度、通称“青キップ”制度を導入します。青キップは、違反行為に対しての反則金を支払う代わりに、刑事手続きを回避することができるものです。
 この制度は自動車に対しては既に利用されているものです。自転車に関しましてもニューヨークやロンドンで導入されて事故が減少したという結果も出ています。
 しかし、キップを切ることができる警察官の数は2010年頃を境に減少傾向にあることから、このままでは、違反運転者を裁き切ることは難しくなるでしょう。
 そこで、自転車巡視員を新設します。自転車巡視員とは自転車事故に関して行政処分を行う権限を持つみなし公務員のことです。
 みなし公務員は、駐車禁止の取り締まりを行う人員などで利用されています。
 平均の反則金を4000円、青キップによる摘発数を指導警告票のデータからとって180万件、自転車巡視員の平均年収を300万と仮定し概算してみたところ、自転車巡視員を2400人雇えるとの結論がでました。
 多少少なく見えるかもしれません。  しかし、事故が圧倒的に多い東京や大阪の都市圏に人手を集中させ、逆に事故が少ないところでは今まで通り警察官が行うことにすれば、実現が可能です。

 しかし、ただ厳罰化を行うことは、「突然厳しくなった」として多くの不満を生みかねません。
 厳罰化と同時に自転車に関するルールをしっかりと知ってもらう場を確保する必要があります。
 特に、小学校の頃などには交通安全講習などがなかった今の高齢者世代には講習会が必要になります。
 そのために、二点目の政策、自転車講習会への呼びかけを提言します。
 講習会は教室内で交通ルールについて、グラウンドで安全な運転の仕方について教えるものとします。
 対象は自転車の所持者とします。
 自転車には防犯登録と言うものがあります。
 防犯登録は、必ず自転車を購入したお店で500円払って行われていますし、その登録用紙には住所を記入する欄がありますので、高齢者世代100%に近い自転車運転者に呼び掛けることは可能です。
 これは、自転車運転者が交通ルールに関しての知識を増やすことを目的としていますが、同時に自転車事故での死者数で約7割を占めます高齢者が、運転に十分な体力を持っているかを見極めるなど、他の作用も考えられます。
 そして、先ほどの講習会の紹介をするとともに、違法摘発の強化の通告も行います。


 自転車は使い方を誤らなければ非常に便利な乗り物です。通勤・通学・近所のスーパーに買い物に行くときなど、自転車によってより豊かな生活をもたらされています。
 しかし、誰でも乗れるその簡単さ、広く普及したその身近さに人々はつい、油断をしてしまいます。

 絶対に忘れてはなりません。
 小さな判断を誤れば、その車輪の上で、命を奪うことがあることを、小さな判断を誤れば、その車輪の上で、命を落とすことがあることを。
 だからこそ、今こそ、車輪の上にいる人たちの意識を変えなければならないのです。

 ご清聴ありがとうございました。


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