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演題 「心安らぐ」

弁士 村上大希(法1)

【導入】
 貴方にとって、一番心が安らぐ場所はどこですか?
 思い浮かべる場所は人によって様々だと思います。
 私にとっての心安らぐ場所は、家族と過ごす家です。
 私にとって家族は、友人には明かせない、人間関係の悩みや不安を心置きなく打ち明け、相談できる特別な存在です。
 そんな自分の全てを受け入れてくれる環境が、私の心を安らげてくれるのです。
 しかし、そんな環境に恵まれない子供が存在しています。
 彼らにとって家庭は、ただ殴られ、けなされる場所なのです。
 そこには、心安らぐ空間などなく、あるのは終わりの見えない恐怖。
 児童虐待。それは、子供から安らぎを奪う恐ろしい暴力です。
 本弁論は、虐待をなくし、一人でも多くの子供が心安らぐ社会を目指すものです!


【定義】
 児童虐待とは、児童の保護者やその周囲の人間が行う、児童の健全な心身の発育を妨げる恐れのある行為を指します。
 具体的には、暴力を用いて行う身体的虐待、暴言を浴びせる等の心理的虐待、育児放棄、性的虐待がこれに該当します。
 そして、児童虐待は子供に重大な身体的・精神的被害を与えます。
 身体的な被害として、暴力によって負った障害や、食事を与えられなかったことによる発育不良が挙げられます。
 また精神的被害として、親から正常な愛を受けられなかったことに起因する愛着障害や、親から受けた暴力を無意識に模倣して強い攻撃性を持つに至ることが挙げられます。
 愛着障害や強い攻撃性を持った子供は人間関係の構築が難しくなり、社会から孤立します。
 そして自暴自棄となり、自らの身を滅ぼしていくのです。
 法務省の調査によると、少年院に在籍する子供の約七割が過去に虐待を受けた経験を持ちます。
 児童虐待は子供の人生を大きく変えてしまうのです。


【虐待の原因】
 ではなぜ虐待は起こってしまうのでしょうか。
 虐待の動機は、夜泣きなどの子育ての悩みや、夫婦の不仲などの家庭の悩みです。
 しかし、この悩みが虐待に発展する要因は別にあります。
 それは、家庭の悩みを相談できる人がいないことです。
 大阪人間科学大学の調査によると、「周囲に悩みを相談できる人がいるか」という質問に、「いない」と回答した割合は三分の一を占めました。
 このように親が孤立した結果、虐待が起こってしまうのです。
 児童虐待防止調査委員会の報告によると、虐待を行った親の内、周囲に悩みを相談しなかった人の割合は6割以上に上りました。
 虐待を防ぐ上で最も大切なのは、親を独りにしないことなのです。


【現状の対応】
 現状、児童虐待に対しては児童相談所が対応を行っています。
 児童相談所は、予防策として「相談対応」、事後策として「虐待対応」を行っています。
 まず相談対応について説明します。
 相談所では、乳幼児の世話に関することや、DV被害に関することなど、さまざまな家庭の悩みを受け付けています。
 こうして親の悩みを聞くことで、悩みが虐待に発展することを防いでいるのです。
 次に虐待への対応について説明します。
 虐待が発生してしまった場合、児童相談所は、学校や警察等と連携しつつ、虐待を受けた子供の一時保護や、親権の停止を裁判所に求めるなど、強力な権限を使って対応をします。このような強力な権限を使える虐待対処機関は、児童相談所のほかにはありません。
 つまり、児童相談所は、児童虐待の予防・発見・対処を包括的に行うことが出来る唯一の機関なのです。


【問題点】
 しかし現在、児童相談所には二つの問題があります。
 1職員の過重労働
 2親の孤立を防げていないこと
 以上の2点です。
 まず、1点目の「職員の過剰労働」について説明します。
 全国の児童相談所に寄せられる相談・通告件数は年間約50万件に上り、10年前と比較して10万件以上増加しています。
 そして、通告・相談の急激な増加は、児童相談所に負担を強いることになりました。
 現在、児童相談所職員一人が抱え持つ案件数の全国平均は年間88件になります。中には、100件を超える案件を担当していた例も報告されています。
 そして、このような職員の過重労働は、虐待への対応を遅らせてしまうという問題を生み出すのです。
 今年7月に沖縄県で起きた虐待死事件をみてみましょう。亡くなった子どもに対しては再三、一時保護を行うことが検討されていました。しかし、職員が各々80件以上の業務に追われていたために、一時保護を行うことができなかったのです。
 このように、児童相談所が過重労働の状態では虐待対応が十分にできないのです。
 政府はこの問題に、児童相談所の職員を増やす事で対応しています。職員は5年間で200人以上増え、今後も人員の増強が図られる見込みです。
 しかし、単なる増員だけでは、改革は不十分なのです。というのも、現状の児童相談所の過剰労働は、人員の不足だけでなく、システムの効率の悪さにも原因があるからです。
 現在、児童相談所では、相談と虐待対処の両方を同じ職員が一括して行っています。この結果、業務の中で多くの割合を占める相談対応が職員を圧迫し、緊急の虐待対応を困難にしているのです。このように業務の専門化が進んでいない状況が、職員の負担を助長しているのです。
 次に、2点目の「親の孤立に対応していないこと」について説明します。
 既に述べた通り、虐待の原因は親の孤立です。
 そして現状、親の孤立状態を防ぐことが出来ていません。
 子育て支援実態調査によると、虐待を行った親の内、児童相談所に相談しなかった人の割合は9割を超えます。
 また、児童虐待を行った親の内、誰にも相談しなかった人の割合は6割以上に上ります。
 つまり、児童相談所は親の孤立を防げず、虐待の発生を防ぐ機能を果たせていないのです。
 ではなぜ児童相談所は親の孤立を防げていないのでしょうか。
 その原因は業務内容の認知度の低さにあります。
 子育て支援実態調査によると、児童相談所を家庭の悩みを相談する場所として認知している人は3割未満でした。
 つまり、児童相談所は、家庭の悩みを相談できる機関として認知されていないのです。
 これでは相談対応が機能せず、親の孤立を防ぐことが出来ません。
 このような問題を抱えている児童相談所では、虐待に効果的に対処することは出来ません。児童相談所を、より効率的に改革し、親に周知と理解をさせることが、虐待に苦しむ子供を救うことにつながるのです。


【解決策】
 以上を踏まえて、私は2点の政策を提案します!
 1点目、相談対応と虐待対応の分離
 2点目、育児アドバイザーの産婦人科への派遣
 以上の2点です。
 まず、1点目の「相談対応と虐待対応の分離」について説明します。
 先ほども述べたように、児童相談所は、職員が一括して相談と虐待対処の両方にあたる体制を取っております。
 この状態の改善のために、相談対応・虐待対応を専門化させます。
 まず、相談専門職員である「育児アドバイザー」を新設します。「育児アドバイザー」は、育児を経験した者や子供に関わる仕事を経験した者を対象に募集します。
 その上で、児童相談所の職員を相談チームと対処チームの2つに分割します。
 育児アドバイザーは相談対応を専門に、現在の相談所職員は虐待対応を専門に行います。
 この結果、児童相談所の過重労働が解消されるのです。
 次に、2点目の育児アドバイザーの産婦人科への派遣について説明します。
 親の孤立を防ぐには、親が児童相談所に気軽に相談できる体制が必要です。そこで、出産の際にほぼ全ての親が利用する産婦人科に育児アドバイザーを派遣し、児童相談所の周知活動や子育てに関する助言を行います。
 この政策によって、親が児童相談所に相談しやすい体制が作られます。そして、虐待の原因となっている親の孤立を防ぐことができるのです。


【展望】
 心安らぐ場所。それは私だけでなく子供にとっても、家族の住まう家でしょう。外で辛いことがあっても、家に帰れば、そこには自分を苦しめるものなど何もありません。
 大人ほど世界が広くない子供にとっては、大人以上に家族の住まう家が、心安らぐ場所として、大切な存在なのです。
 子供から心安らぐ場所を奪う虐待をなくし、全ての子供が心安らぐ社会が実現することを、私は願って止みません。
 ご清聴ありがとうございました。


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