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演題 「新たなる希望」

弁士 上野佑樹(法1)

【導入】
 私は幸せ者である。一人暮らしを始めてから、およそ半年。私は両親のありがたさをつくづく感じている。
 自分のことを励ましてくれ、道に外れたことをした時には叱ってくれた。時にやさしく、時に厳しく。私のことを長い間見守っていてくれた両親のおかげで、私はこうして将来に希望を持つことが出来るのだ。
 私は、本当に幸せ者である。
 だが、この幸せは誰しもが自然に得られるものであろうか。
 答えは否である。虐待を受け親への信頼を失ってしまった子供。人生で最も頼りにしてきたはずの親を、不慮の事故で亡くしてしまった子供。この日本には、さまざまな理由で、親と呼べる存在を失ってしまった子供たちがいるのだ。
 では、そのような子供たちが信頼できる親を新たに得ることは、できないのであろうか?
     この答えも否である。
 私は親のいない子供たちが新たな希望を持てるような社会を作りたいのだ!


【現状分析】
 親からの虐待、親との死別などの事情により親元で生活をすることができなくなってしまった児童のことを要保護児童と呼ぶ。
 要保護児童は日本に約5万人存在する。要保護児童は施設、里親の二種類の養育手段がある。
 彼らは現在、その9割が施設で暮らし、そのほかの1割が里親の下で暮らしている。


【問題点】
 そしてとくに、施設で暮らしている子供たちに、ある問題が発生している。
 それは、愛着障害である。まず、愛着障害の発生について説明する。
 愛着障害とは親からの愛を十分に受けられないことによって発生する精神疾患である。愛着障害患者の特徴は、他人との距離感を掴めなくなってしまうことにある。彼らは、他人に対して過度に敵対心を抱いてしまったり、逆に、まったく警戒心を無くしてしまったりする。
 つまり、人と適切なコミュニケーションがとれない人間になってしまうのである。
 そして、児童養護施設は、子供に愛情を注ぐことができにくい環境であり、このような精神疾患を発症するリスクが高まってしまうのである。
 イギリスで行われたある調査によると、施設に預けられる前の乳幼児は、およそ27%が何らかの障害を抱えていたが、施設への委託後悪化し、3人に1人の人が障害を抱えるようになってしまった。
 このように、児童養護施設は子どもの成長にとって良い環境とはとても呼べないのである。


【原因】
 では、児童養護施設がこのような環境になってしまっているのはなぜか。その原因は二点存在する。
 一点目 児童養護施設の管理体制
 二点目 児童養護施設の職員の離職可能性
 以上二点である。
 では、まず一点目の児童養護施設の管理体制について説明する。
 厚生労働省の調査によれば児童養護施設で暮らす児童の約7割が20人以上の要保護児童が集団で生活をする形式の児童養護施設で暮らしている。
 そして、児童養護施設は労働基準法に則り八時間交代性を取る。単純に考えて、要保護児童を担当する職員が一日に3度も変わってしまうのだ!
 そもそも、子供が愛着障害を抱かないためには個別的な養育環境が大切である。
 WHOの調査でも、愛着をはぐくむためには、特定の人物との個別的なかかわりが重要である、と結論付けられている。
 しかし、現在の児童養護的施設では、大勢の子供を管理しなければならないし、勤務時間にも上限がある。そのため、どうしても大勢の子どもと個別的な関係を築くことは難しい。愛着障害を克服するために必要な、個別的という観点は損なわれざるをえないのである。
 次に、二点目の児童養護施設の職員の離職可能性について説明する。児童が愛着を持つためには、信頼関係の構築が重要である。それには、個別的に養育をするだけではなく、長期にわたって児童を養育する必要がある。
 しかし、施設ではこの長期的な養育が難しい。施設職員の離職の可能性をなくすことは、法律上出来ないからである。
 実際に、厚生労働省の調査によると、児童養護施設の職員の離職率は15%である。
 このような「離職が可能」という状況こそが、要保護児童の愛着障害の発生を助長しているのである。このような、個別的かつ長期的な養育に限界があるという施設の特性により、愛着障害の発生を防ぎ、和らげることのできない環境がつくられてしまっているのである。
 実際に、イギリスの調査によると、施設に預けられる前は乳幼児の27%が何らかの障害を抱えていたが、施設への委託後悪化し、3人に1人の人が障害を抱えるようになってしまった。
 この特性を変えようと、政府も努力してきた。だが、このような特性の改善は難しいのが現実である。
 まず、児童養護施設の管理体制の問題では、児童養護施設の小規模化という形での対応が進められている。
 しかし、財政的問題や人材確保の点からこの政策は中々進んでいないのが現状である。
 また、1日三回の交代制を無くそうとすれば、職員に過度の労働を課さざるを得ない。
 管理体制の問題を根本的に解決することは不可能なのである。
 次に、職員の離職率の高さだが、その一番の理由に挙げられたのは結婚での退職や引っ越しすることによる退職などの個人的な事情である。
 個人的な事情を挙げる人が多いことから、ただ単に労働環境を改善すれば職員が定着するというものではないことがわかる。
 そもそも、離職する権利を厳しく制限することは出来ず、離職率の改善は困難である。このような現状を鑑みれば、もう一つの養育手段である里親制度を代替案として利用すべきなのである。


【施設の代替案としての里親制度】
 里親制度は、その性質上、施設よりも要保護児童の養育に適している。
 個別的・長期的な養育がしやすいからである。
 まず、個別的な養育という面に関しては、里親が持つ平均の養育人数は1.3人であり、個別的な養育が可能である。
 また、長期的な養育という面で見ても、約8割の里親は子供を預かった時から18歳までを継続した養育をしており、長期にわたる養育期間を保証できる。
 里親制度は個別的・長期的な養育環境であり、子供の愛着障害を防止することが可能である。
 だが、この里親制度の普及が進んでいないことは、前にも述べたとおりである。現在要保護児童で里親の元へ行けるのはわずか1割に過ぎない。


【里親制度が普及しない原因】
 では、なぜ里親制度が中々普及しないのであろうか?その原因は一点。
 里親支援体制の不備である。
 そのことについて詳しく説明する。
 例えば、里親になった家庭の元には児童相談所の職員が定期的に家庭訪問をするべき、という里親に対する政策などをまとめた厚生労働省作成の里親委託ガイドラインなるものが存在する。
 しかし、現状児童相談所の職員は2000年に施行された児童虐待防止法のために緊急性の高い虐待の対応に追われている。
 そのような事情もあり、里親に対する家庭訪問はできていない。このような現状に不安を唱える里親は東洋大学の調査で6割を超える。
 このような現状では里親の総数は中々伸びない。


【政策】
 私は、このような現状を改善するために一点の政策を打つ。
 里親専門職員を全国の児童相談所へ配備することである。
 この政策について詳しく説明する。
 まず、里親専門職員だが保育士経験者が適任である。
 なぜなら保育士経験者は子供を専門的に育てた経験があり、子育ての専門知識を持っているからだ。
 厚生労働省の調査によれば、保育士経験者で仕事をしていない人間は約60万人おり、人材確保も困難ではないだろう。配置は各児童相談所に1名ずつとする。
 なぜなら、現状里親の数はあまりおらず、一人で賄える範囲であるからである。
 そして、里親専門職員が行う業務としては、主に二種類存在する。
 まず、里親になった人に対する支援活動である。具体的には、里親の下への一か月に一回の家庭訪問、里親専門職員を交えての里親同士の交流会の積極的開催、里親への定期的な回診電話といったものである。そして、もう一種類は、新たに里親になりたい人のための里親相談会や里親周知のための広報活動などである。
 この政策をすることで、里親に対する不安は解消され、里親委託率、登録里親数は大幅に伸びるのである!
 実際、大分県、栃木県、そして福岡市といった自治体では、この政策を打つことにより、里親委託率、登録里親数は伸びているのである。
 この共通点が無い3つの地域で里親委託率、里親登録者数が伸びたのは、里親専門職員の配備による不安の解消によるところが大きいと分析できる。


【展望】
 私は、幸せ者である。
 この幸せは、本来、すべての子どもたちが享受できるはずだった、当たり前の幸せである。
 このような幸せを、子供たちが受けることのできない社会は間違っていると私は思う。
 今こそ、子どもたちに、里親という新たな希望の光を!
 ご清聴ありがとうございました。



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