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演題 「最大格差」

弁士 高島洋和(法1)

【導入】
 今から40年後の生活を想像してみてください。その時、みなさんはどのような生活を送っているでしょうか?
 成長した子供や孫の姿を誇らしく眺めているでしょうか。
 長年連れ添ってきた妻とのんびりした時間を過ごしているでしょうか。
 趣味に没頭した時間を過ごしているでしょうか。
 皆さんが今想像した老後の生活。その生活の根底を支えているものこそが、年金であります。
 現在、日本の高齢者のほとんどが、年金に支えられて生活をしています。安定した年金なくして、安定した老後の生活は存在しないのです。
 しかし、この年金は、時代の変化とともに限界を迎えています。私たちの夢みる老後の生活は果たして実現するのでしょうか?
 本弁論は、持続可能な年金を訴えるものであります。


【年金制度とは】
 そもそも年金とは国民の老後の生活を保障するためにあります。
 現在日本の年金制度は、国民全員が受け取れる国民年金と、労働者が受け取ることのできる厚生年金の2種類で運営がなされています。
 この年金を維持する方法として、日本は賦課方式という手段をとっています。 
 賦課方式とは、現役世代から保険料を徴収し、それを年金受給世代へと引き渡す方式です。
 日本は年金の50パーセントを国庫から、残りを保険料と、その保険料で足りない分をこれまで貯めてきた年金積立金から支出しています。
 しかし、この制度は1つの問題を生み出しました。
 年金制度の持続可能性という問題です。


【年金制度の現状・問題点】
 賦課方式は現役世代の稼ぎを財源としているため、その財源の大きさも現役世代の人数に依存します。つまり、人口に占める現役世代の割合が下がれば下がるほど、保険料の増額という形で現役世代の負担が重くなるのです。
 現在の日本社会は高齢者が3000万人以上という少子高齢化社会です。そのため、昔よりも現役世代の負担が重くなってしまっています。いわゆる世代間格差の問題です。
 内閣府によれば、1960年代ではおよそ17人の現役世代が1人の高齢者の負担を背負っていました。しかし、2010年度では2人の現役世代が1人の高齢者を、2070年にはなんと一人で一人の高齢者の負担を背負っていかなければならないというのです。
 受給額と支払額の最大格差は、およそ6倍とも言われています。
 そして、この格差が原因となって、年金の運営に余裕があるときに貯めてきた積立金を切り崩してしまっているのです。
 ある試算によれば、2038年にはいままで政府が積み立ててきたお金が枯渇するといいます。
 積立金が枯渇すれば、ギリギリの均衡を保ってきた財源は傾くことになります。
 現行の制度では年金が賄えなくなってしまうかもしれないのです。


【人口動態への対応の必要性】
 このような事態が起こってしまった原因は一点。それは、制度と人口構成のミスマッチです。
 賦課方式の財源は現役世代の稼ぎなので、現役世代の比率が少なければ少ないほどその財源は枯渇していくことになります。
 しかし、先程も申し上げた通り、その財源たる現役世代の人口に占める割合はどんどん減少しています。
 この結果、年金の財源は、積立金を切り崩す自転車操業状態に陥ってしまったのです。
 現行制度でこの財源不足に対応するためには、保険料を上げなければなりません。
 しかし、そう簡単に保険料を上げることはできないのです。
 それは、保険料に逆進性があるためです。
 日本は原則的に、現役世代の国民全員が年金を支払うことになっています。そして、保険料が定額であるため、所得に占める保険料の割合が低所得者になればなるほど上がっていってしまいます。つまり、無理な 保険料引き上げは、現役世代の低所得者に打撃をあたえかねないのです。
 現に、厚生労働省も、保険料に引き上げ上限を設けて、これ以上の保険料引き上げがないように対応しています。
 日本は、保険料値上げという選択肢以外の方法で、年金の財源確保という難題に対応していかなければならないのです。


【解決策の検討】
 賦課方式以外にも、年金の財源確保の方法は2つあります。
 1点目、税方式による方法
 2点目、積立方式による方法
 以上の2点です。
 1点目の税方式による方法をご説明します。
 これはまず、現役世代が支払う保険料の負担を一切なくします。そのかわりに税金によって受給世代に年金を供給する方法です。
 これは『世代』という観点で財源を徴収するのではなく、国民一般から税という形で財源を確保する形態です。ですから、この方式は人口の変動による影響を受けません。
 次に2点目の積立制による方法についてご説明いたします。
 これは現役世代が将来老後のために積み立てる年金、つまりは貯金のようなものです。
 この方式も『世代』という観点で財源を徴収するのではなく、『個人』という観点から財源を徴収するものです。
 ですから、この方式による財源は人口変動による影響を受けないのです。
 以上の、少子高齢化に影響を受けない財源から年金を支出することが、これからの日本社会には適しています。
 この2つをうまく組み合わせた新たな年金制度を、作らなくてはならないのです。


【解決策A:少子高齢化に対応できる年金制度】
 そこで私は現在の年金制度に2つの抜本的な改革を提案いたします。
 1点目、国民年金の税方式化
 2点目、厚生年金の積立方式化
 以上の2点です。
 まず1点目の国民年金の税方式化についてご説明いたします。
 これは、現在現役世代が負担している国民年金の保険料をなくし、代わりに税金を財源とする政策です。財源には、新型の相続税を導入して対処します。
 そもそも日本では毎年100兆円にも上る相続が発生しています。
 しかし、今の相続税制度では毎年1兆円しか徴収できていません。
 相続税に多くの非課税項目が定められており、額面通りの徴収ができないからです。
 そこで現在の相続税の課税ベースを、すべての相続分に拡大します。
 その代わり、現在では最高55パーセントの税率を一律20パーセントに固定します。
 この相続税を現在約20兆円かかっている国民年金の財源とします。
 これにより、国民年金の財源は少子高齢化の影響を受けなくなります。
 こうすることで、国民年金の持続可能性を確保します。
 次に2点目の厚生年金積立化についてご説明いたします。
 これは、厚生年金の保険料を積立方式化することにより、老後のための年金の財源を個人が積み立てられるようにする政策です。
 先程も申し上げた通り、積立方式は財源を『世代』ではなく『個人』から徴収する方式ですので、現役世代が受給世代へ保険料を支払うという構図はなくなることになります。
 つまり、人口構成の変動に影響されることがないということです。
 この結果、たとえ少子高齢化が進もうとも、安定した厚生年金の供給を受給世代へ行うことができるのです。


【解決策B:二重の負担問題への対応】
 しかし、積立方式を導入すると、ある問題が発生してしまいます。
 その問題とは、『二重の負担』問題です。
 『二重の負担』とは、賦課方式から積立方式へと年金制度を移行させたときに起こる負担のことです。積立方式導入時の現役世代は、自分の厚生年金の積立をしなければなりません。
 しかし、その時点ではまだ旧制度が対象とする年金受給者が存在しています。
 彼らに支払う年金の財源は賦課方式で運営されてきたので、現役世代は旧制度の受給世代の年金を肩代わりすることになります。
 つまり制度導入後の現役世代は、賦課方式と積立方式の、2つの負担を負うのです。
 この二重の負担は制度改革時にどうしても出てしまう負担であり、消滅させることはできません。ですから、この負担をいかに無理なく解消していくかが重要となります。
 そこで、積立年金の保険料を上増しすることにより、この問題を解消します。
 旧制度利用世代に支払わなくてはならないお金の総額はおよそ320兆円と試算されています。
 このお金を長期に分散して支払います。
 具体的には、まず、現役世代の所得のうちに占める厚生年金の保険料を13パーセントとします。
 この13パーセントの保険料のうち8パーセントを積立に、のこり5パーセントを負担の解消に回します。
 試算では、およそ80年で二重の負担問題が解消するといわれています。
 こうすることによって二重の負担は軽減され、厚生年金を無理なく積立方式へ移行することができます。
 こうして、将来世代への負担は解消され、少子高齢化社会にあった年金制度として、持続可能な運営が可能となるのです。


【展望】
 今一度、皆さんに問いたいと思います。
 皆さんが思い描く老後の生活は、どのような形ですか?
 皆さんの思い描いた幸せな老後生活は、誰かの犠牲の上に成り立っていてもいいのでしょうか?
 断じて、断じてそうではありません!
 「最大格差」、この言葉が表す年金制度は、受益者と負担者の格差が大きく開いた歪な年金の形です。
 今こそ、この歪な制度を変えようではありませんか!
 ご清聴ありがとうございました。


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