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演題 「桜舞う季節」

弁士 岩田弘雪(法2)

【導入】
  春とは新たな門出の季節だ。
 皆さんが大学に入学したときのことを思い出してほしい。
 新しい友人、新しい生活、そして新しい学校。待ち受けるすべての期待に胸を膨らませ、きっと皆さんは笑顔だったはずだ。
 もちろん、私は皆さんが卒業するときも、笑顔で希望を持って社会へと旅立っていって欲しい。
 しかし、社会へと旅立つ若者の未来を暗く閉ざしかねないものがある。
 彼らから笑顔を奪うもの。
 そう、それは奨学金という名の重い、重い借金である。


【奨学金の意義】
 そもそも、奨学金は、教育を補助するためにある。
 教育の目的とは、いろいろな可能性を持つ人間の能力開発を通じた社会貢献である。
 その重要な教育のチャンスを、教育費の負担軽減という形で多くの人間に提供するのが奨学金制度である。
 特に、この場にいる聴衆のみなさんが通っている大学という教育機関は研究、スポーツ、就職、人との交流など、様々な可能性を提供してくれる。自分の能力を高める上で、とても大事な場所なのだ。
 つまり、大学とはその人が将来、社会に羽ばたいていく際に必要な能力を身につける機会を提供してくれる場所なのである。
 しかし、それには大変なコストがかかる。
 高校よりも高い入学金や授業料に加えて、一人暮らしならば更に生活費までもがかかるからだ。
 この金銭的負担を軽減して、教育の機会を提供し、教育の目的を達成するための制度。それが奨学金なのである。


【奨学金の現状】
 この目的を果たすために、奨学金制度は元々教育事業として行われていた。
 すべての奨学金が無利子で貸し付けられており、有利子の奨学金は一切存在しなかった。
 しかし、教育事業である奨学金制度に大きな変化が起こった。
 教育事業としての奨学金制度に、金融事業的な考え方が取り入れられたのである。
 この結果、プラスの変化とマイナスの変化が起こった。
 まず、プラスの変化として、事業規模の拡大が起こった。
 財政投融資や民間資金の活用により、大きく奨学金の規模が拡大したのである。特に有利子の奨学金に関しては、15年間で利用者の数が9倍、事業費が14倍とめざましく拡大した。
 しかし、その一方でマイナスの変化も起こった。奨学金制度の利用者への負担が以前よりも重くなってしまったのだ。
 先ほど述べたように、奨学金の金融事業化によって誕生した有利子の奨学金の割合が大きく増加した。それにより、以前と比べて奨学金の返済者の金銭的な負担も増加してしまったのである。
 加えて、返済金の回収強化などの厳しい取り立てが行われ、奨学金制度の利用者の負担はますます増加している。
 このような制度の変化によって、生活が破壊された人々が急増してしまっている。
 奨学金問題対策全国会議の調査によれば、平成24年度に奨学金によって破産に追い込まれた人の数はおよそ1万件であった。この件数は、15年前と比べて割合にして30倍、実数にして50倍にまで膨れ上がっているのである。
 この状況が放置されれば、奨学金返済の重い負担によって利用者が苦しめられるだけでなく、返済困難者が増加することによって、奨学金の財源が減少してしまう。その結果、奨学金制度自体が崩壊しかねないのである。
 そもそも奨学金制度は教育の目的を達成するために存在している。
 つまり、いろいろな可能性を持つ人間の能力を引き出し、社会貢献を果たすために、奨学金は存在しているのだ。
 しかし現状では、奨学金は大学生から将来の可能性を奪ってしまっている。若者の可能性を広げるための奨学金が、若者の夢を奪いかねない制度となっている。
 そう、もしかしたらそこのあなたも、奨学金によって、将来の夢も、希望も、そして生活までもが、奪われてしまうかもしれないのである。


【システムの不備】
 では、なぜ奨学金制度によって生活の破綻という事態が起きてしまうのだろうか。
 原因は救済制度の不備に存在している。
 その不備とは、個人の困窮具合に目を向けた救済制度が確立されていないことである。
 現在、奨学金返済にあたっての救済制度には様々なものがある。
 たとえば、返済金の金額を減らす制度や返済が困難な利用者に返済の猶予期間を設ける制度などがそれにあたる。
 しかし、これらの救済制度が適用される基準は本人の所得であり、個人の抱える様々な状況に目が向けられていない。
 1人1人の困窮度に目を向けていない画一的な救済制度では、その人の抱える様々な状況に対応することができないのである。
 では、1人1人の状況に対応できない救済制度によって、どのような問題が生じてしまうのか。
 たとえば、所得が同じでも家族構成や資産状況、その他の負債などがあるかどうかで、同じ内容の救済措置でも実質的な効果が変わってしまうのである。
 このような救済制度のままでは、適切な救済措置が与えられない返済者はますます人生の破壊という脅威にさらされ、奨学金制度側は破産者の増大による財源の減少から制度自体の崩壊という脅威にさらされてしまう。


【解決策】
 これらの問題を解決するためには、奨学金制度による利用者の生活の破壊を防ぐと同時に、奨学金の財源減少をも防ぐ新たな救済制度を作らなくてはならない。
 そこで、私は1つの解決策を提案したい。
 それは、「個別型救済制度」の導入である。
 それではまず、「個別型救済制度」とは何かを説明したい。
 「個別型救済制度」とは、現状の制度では含めることのできなかった返済者1人1人の状況に目を向け、救済する制度である。
 具体的には、横軸と縦軸の表をつくり、横軸には所得を、縦軸には生活状況をポイント化した数値の合計を定める。このポイントというのは、たとえば扶養家族が一人いれば5ポイント、何らかのローンがあれば4ポイントという風に、様々な標本データにポイントを割り振っていく。
 この合計のポイント数とその人の所得が交わる表の部分の救済措置を利用者に与えるという制度だ。
 この制度は、個人の様々な状況を標本データとポイントから数値化することができる。
 判断が難しい個人の状況と照らし合わせて、その人の困窮度に合わせた救済措置を適用することができるようになるのである。
 更に、この柔軟な制度は様々な人の状況に合わせて、返還額を減らしたり、猶予期間を設けたりする。その結果、生活に困っている人だけでなく、これから将来、奨学金の返済が困難になってしまうかもしれない人の発生を防ぐこともできるのだ。
 このように、奨学金制度の利用者を生活の破壊から守り、なおかつ、その人にあった返済を促していける。その結果、奨学金制度の利用者と実施側、そのどちらも共存できるのである。

 以上の解決策により、すべての利用者が、様々な状況を踏まえた救済制度を受けられるようになる。
 すべての奨学金制度の利用者が生活を破壊されることなく、奨学金制度の実施側も財源を回収できるようになる。
 日本の奨学金制度は、真の意味で、教育を通じた社会貢献を支える制度となるのである。


【展望】
 私には弟妹が二人いる。一人は報道関係の仕事を、もう一人は看護の道を志している。
 そして、どちらも大学進学の際には奨学金制度を利用する予定だ。私の弟妹たちは本当に笑顔で大学を卒業できるのだろうか。いや、私の弟妹だけではない。今日ここに集った聴衆の皆さんは、本当に笑顔で大学を卒業できるのだろうか。

 桜舞う季節。
 それは新たな門出の季節である。
 四年前に味わった桜と春の香りの中で、どうか、どうか笑顔で社会へと巣立ってほしい。それが私の切なる願いです。
 ご静聴ありがとうございました。



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