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演題 「後ろに気を付けて」

弁士 釜田みのり(法1)

【導入】
 夜道を歩いていると、後ろから足音がしました。
 怖くなって、足を速めましたが、足音はどんどん近づいてきます。

 次の瞬間! 腕を掴まれ、車に連れ込まれました。
 「動くな、静かにしろ」という男の声。
 男の腕を振り払おうとしました。

 何かが弾けるような音がしました。
 叩かれたのです。
 そのあとのことは詳しく覚えていません。

 次の日、警察の相談窓口に電話を掛けました。
 すると、「加害者の方のお話は伺えません」と言われ電話を切られてしまったのです。

 これは、ある犯罪の被害者男性の体験談です。
 年に約6000件、検挙されるこの犯罪。
 精神的ダメージが大きいこの犯罪。
 被害にあうのは女性のみであると勘違いされてきたこの犯罪。
 一体、どんな犯罪でしょうか?

 …それは…性犯罪です。

 本弁論は、性犯罪のサポート体制においての男女不平等を是正し1人でも多くの被害者を救うことを目的とした弁論です。


【現状分析・問題点】
 性犯罪とは、性的行為が、相手の合意なしに行われることを言います。
 たとえば、わいせつ行為や強姦が代表的です。
 この犯罪の検挙数は年間約6000件。
 これは、強盗事件の約2倍にも当たります。

 件数の多さもさることながら、最も注目すべきは性犯罪の被害の大きさです。
 政府によると、被害者のうちで約60パーセントもの人が肉体的・精神的に大きなダメージが残ってしまったといいます。
 この60パーセントという値は、調査対象の犯罪のうちで、最も高い数字となっているのです。

 また性犯罪は、外傷後ストレス障害すなわち、PTSDを引き起こします。
 強姦被害者においては、約90パーセントもの人がPTSDに苦しんでいるのです。
 このPTSDによって、自傷行為はおろか、自殺行為に追い込まれてしまう人もいるのです。
 またこのPTSDによってうつ病や不安障害を引き起こしてしまう人も多くいます。
 まさに性犯罪のダメージは、被害者の肉体と精神を広く、深く蝕んでいくのです。

 このように、性犯罪は被害者に与えるダメージが非常に大きい犯罪であることが分かります。
 これを受け、政府は、平成24年に女性のための性犯罪サポート体制の充実を5年計画で始めました。
 この政策によって、被害者女性の負担やダメージは軽減していると言えます。
 例えば、PTSDを発症しても、適切な治療を受けられるため、約50~70パーセントの確率で回復の傾向を見せています。

 しかしその一方で被害者男性においては回復の傾向を見せる可能性が格段に低くなっています。
 それどころか、50パーセントの確率で、その症状が悪化してしまうのです。
 他にも、トラウマから結婚生活にひびが入り、家庭内暴力に至ってしまう被害者男性も多くいます。
 被害者男性の半分は、その後の結婚生活をうまく送ることが出来ないという国際的研究結果もあるのです。


【原因分析】
 何故このように男女の間でこんなにも差が出てしまうのでしょうか。
 性別にかかわらず、あらゆる人が被害にあう可能性があります。
 けれども生まれてしまうこの格差。何が違うというのでしょうか。

 それは、政府のサポート体制の男女間格差です。
 現在のサポート体制は、決して男女平等であるとは言えません。
 例えば、各都道府県に設けられている警察の相談窓口。
 そのうち、75パーセントが、男性の相談受付を拒否しています。
 特に、神奈川県警のホームページには「男性の方はお断りいたします」と書かれているのです。

 性犯罪において、性別は関係ありません。
 同じように被害にあい、同じように苦しみます。
 彼らも同じ被害者なのです。
 それにも関わらず起きている不平等。
 このようなことは、許されてよいのでしょうか?


【解決策】
 たしかに、近年では、法改正の動きも見られ、事前策の面では男女平等になりつつあります。
 性犯罪において、女性、男性という考え方は、区別ではなく差別だと考えるようになったのです。
 例えば、法律の面では、男女は平等に扱われるようになってきました。
 けれども、未だサポート体制は不平等なままなのです。
 男性も同じように被害にあっているにもかかわらず、サポートが受けられない。
 性別など関係ないのに男性だというだけで差別されてしまうのです。

 このような状況を打破するべく私は、被害を受けた直後における支援と、その後の、中・長期的な支援の2つの観点より、それぞれ1点の政策を打ち出したいと思います。
  1点目、警察の相談窓口の男女平等。
  2点目、ワンストップ支援センター制度における男女平等。
 以上の2点です。

 1点目、警察の相談窓口の男女平等について。
 これは被害を受けた直後における支援の充実を目的としています。
 内容は、警察の相談窓口を男性にも広げる、というものです。
 先ほどもお話しした通り、警察の相談窓口の75パーセントは、男性はサポートを受けることが出来ません。
 しかし、この警察の相談窓口は大切な役割を担っているのです。
 その役割は、公的サポート施設や病院の紹介などがありますが、もっとも大きな理由は、ほとんどの被害者男性が最初に相談をするのが警察であるということです。
 先ほども述べました通り、警察の相談窓口の75%が被害者男性に対応していません。
 もっとも最初に相談をする公的な窓口が男女不平等であっていいはずがない。
 この警察の窓口を、男性にも門戸を広げることで、すなわち、男女平等にすることで、全ての被害者が、カウンセリング、通院、裁判といった次のステップに、円滑に、確実に移行できるようにします。

 2つ目は、ワンストップ支援センター制度における男女平等について。
 これは、全ての被害者に社会復帰の可能性を与えることを目的としています。
 ワンストップ支援センターとは、性犯罪被害者に対する、医療サービス、法的サービス、カウンセリングサービスの3つを兼ね備えた公的機関のことです。
 政府は平成24年からこの施設の設立に取り組んでおり、東京都、大阪府、兵庫県を始め14の都道府県に設置されています。
 医療・カウンセリング・法的サービスの3つのサービスを統合することによって、被害者に対する治療や投薬、精神的サポート、裁判における弁護士の斡旋などを効率的に行えるのです。
 しかしこの施設も男性を対象としていません。
 いくら、警察で公的サポート施設を紹介したくても、受け入れが出来ないのであれば意味がありません。
 男性もその対象にすることで、中期・長期的な支援における男女平等を達成し、全ての被害者に、社会復帰の可能性を与えるのです。
 これによって、男性被害者のPTSDの完治率50パーセント、回復率20パーセントを達成するほか、肉体的被害の対応、裁判の最中におけるサポートなど、多角的な面から被害者男性を支援するのです。

 以上2点の政策、警察の相談窓口における男女平等と、ワンストップ支援センター制度における男女平等を達成し、被害を受けた直後における支援と、中期・長期的な支援の両方で、男女平等を達成するのです。


【印象付け・展望】
 性犯罪にあうということはつらいことです。
 性犯罪はだれにでも平等に訪れる苦しみです。
 男性だから性犯罪には遭わない? 被害に遭ってもサポートはいらない? そんなことありません。
 女性でも男性でも平等にその機会は訪れます。
 今、ここにいる誰もが被害にあう危険性を持ち合わせているのです。
 今日のレセプションの帰り道、酔っ払っているところを襲われる可能性だってある。

 後ろに気を付けて。
 あなたの後ろにも、危険は迫っています。

 ご清聴、ありがとうございました。



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