【導入】
今年5月、日本創成会議が衝撃的なリストを公開した。
「消滅可能性市町村リスト」
896、日本の5割に及ぶ自治体の名が、そこに並べられていた。
「国土の均衡ある発展」が唱えられた成長期から60年。
自治体は「発展」から「生き残り」の時代へと移ったのだ。
一方、自治体にとって明るい動きもある。
それが、地方分権の推進である。
99年の地方分権改革以降、権限、財源の移譲が進んだ。
「自治体の憲法」と呼ばれる基本条例の制定も活発だ。
中央集権から離れ、主体性を持ち始めた自治体。
そう、21世紀は自治体にとって「生き残り」の時代であり「主体性」の時代なのである。
【原発立地自治体】
そんな時代に、「生き残り」も「主体性」も奪われた自治体がある。
泊村、おおい町、玄海町。
「原発立地自治体」である。
その7割が「消滅可能性リスト」に名を連ねている。
まさに、「原発立地自治体」は「生き残り」の岐路に立たされているのだ。
ここまでは、他の消滅自治体と同じだ。
しかし、立地自治体はある大きな問題を抱えている。
それは、「まちの将来を自ら決めることが出来ない」ということだ。
立地自治体の主要産業は「原発」。
それを巡る国の原子力政策が、自治体の未来を左右するのだ。
「原発を維持できるか」は国に握られている。
おととし、原子力規制委員会が定めた「40年廃炉ルール」。
これにより、7割の立地自治体が2040年までに原発を失うことになった。
今後の方針は曖昧で、新設するのか、減るにまかせるのかも分からない。
立地自治体が原発を維持できるかは、国の政策に握られている。
「自治体の財政」は国に握られている。
敦賀発電所の停止により、敦賀市は税収が悪化。
今年6月、経産省に財政支援の要望書を出すに至ったのだ。
同じく、おおい町、女川町も税収が悪化。
立地自治体の財政の安定は、国の政策に握られている。
「生き残り」の時代。
全国の自治体は、それぞれの強みを活かし、その時代に挑む。
長期的な計画を立て、まちの「強み」を見つけ出し。
そう、まさに「主体的」に。
しかし、立地自治体は違う。
彼らの「生き残り」を決めるのは「主体的」に作り上げた計画ではない。
原発推進の鳩山、原発ゼロの菅、そして再稼働の安倍。
二転三転を繰り返す、不安定な原子力政策。
そんな原子力政策が、立地自治体の「生き残り」を握っているのである。
【原因分析】
なぜ、立地自治体が国の政策に大きく左右されるのか。
それは、産業・財政・住民サービスが原発に大きく依存しているからである。
まず、産業の依存について。
全ての立地自治体で電気業等への依存度が県平均を上回っている。
さらに、8割が建設業、5割が宿泊・飲食業、3割が製造業で県平均を上回る依存を示しているのだ。
電気、建設、宿泊飲食、製造業、全てが原発と密接にかかわる。
電気業は発電所の運営。
建設業は公共事業に関わり、財源は立地の交付金。
宿泊、飲食業を支えるのは外から来る作業員。
製造業を支えるのも、立地による電気料金優遇制度だ。
立地自治体は、発電所だけでなく産業構造として原発に依存しているのである。
次に、財政、住民サービスの依存について。
立地自治体は、財源を発電所の「固定資産税」に依存している。
9割の自治体で、「固定資産税」が普通税収の半分以上を占めているのだ。
中でも、4割の自治体は、依存率が80%以上にも及んでいる。
それに加え、住民サービスに立地による交付金が充てられる。
これが公共工事や給食センター、体育館運営といった形で住民の暮らしを支えているのだ。
立地自治体は財政、そして住民サービスも原発に依存しているのである。
仕事も、金も、住民サービスも。
立地自治体は、「生き残り」の全てを国の政策に握られている。
わずか3年の間に、方針が二転三転。
そんな不安定な原子力政策が、生き残りを左右するのである。
【解決策】
これ以上、立地自治体が先の見えない原子力政策に振り回されないために。
そして、「主体性」を生かし「生き残りの時代」へ挑むために。
私が提案する政策は、自治体側に1点、国側に1点。
1点目、自治体は原発あり、なし2パターンの将来像を作ること。
2点目、国は廃炉期間中まで交付金の支給を延長すること。
以上の2点である。
まず、自治体側の2パターンの将来像作りについて。
これは、原子力政策の転換を事前に想定して計画を作り、混乱を防ぐ政策だ。
具体的には、総合計画で将来像を作る。
総合計画とは、自治体が10年に1度作成する、まちづくりの工程表である。
これを、原発あり、なしの2パターンで作成する。
原発なしには、原発に変わる産業を短期、長期で確保するプランを盛り込む。
また、従来政策の見直しプランもここに盛り込む。
これで、国の突然の廃炉決定を「想定内」に収めることができるのだ。
次に、国側の交付金の延長について。
これは、原子力政策の転換による交付金打ち切りから、財政を守る政策だ。
現在の交付金は事前調査から運転終了までを対象としている。
これを、廃炉を想定し、運転終了後25年後まで拡大する。
これにより、廃炉決定後も25年間交付金が保証される。
このことで、自治体は長期的な財政計画を立てられる。
財源は、電力会社への課税を廃炉に対応できる出力ベースに切り替え、安定させる。
これで、国が突然廃炉を決定しても、急激な財政悪化を回避出来るのだ。
自治体と国がこれら2つの政策を行うことで立地自治体は原子力政策の転換を「想定内」に収め、財政危機も回避出来る。
そして、そのことで立地自治体は腰をすえ、自ら「生き残り」の時代に立ち向かうことが出来るのだ。
【展望】
「国土の均衡ある発展」
この言葉は、自治体の「夢」の象徴だった。
全国に工業地帯が出来、新幹線が通り、道路が通り。
原発立地自治体は、この大きな流れの中で生まれたものだ。
市街地周辺の自治体でも、山が、野原が開発されベッドタウンが生まれた。
私の住む横浜市泉区は、この流れの中で住宅都市として発展した。
「国土の均衡ある発展」
この言葉は、日の当たらなかった自治体に開発のチャンスを夢を与えた。
しかし、その果てが「消滅可能性リスト」である。
その時、自治体は気づく。
開発という特効薬で手に入れた発展の脆さを。
その時、外交関係を憂い、大学に入った学生は気づく。
国内が、足元のまちから、徐々に崩れつつあることに。
「国土の均衡ある発展」は本当の「夢」だったのだ。
その一つの象徴が「原発立地自治体」だと私は考える。
私の提案した政策で、立地自治体は安心して「主体的」な「生き残り」へ突き進むことができる。
泊村は環境先進村を目指している。
玄海町は地域ブランドで、伊方町は農水産業を生かす観光で。
おおい町はここでしか味わえない暮らしで勝負したいと考えている。
それらが成功したとき、原発のあるなしに関わらず立地自治体は、自ら生き残る道を掴み取るのである。
そのことは、自分の町の「未来の危機」と向き合う私にも、希望を与える。
「原発立地」という開発の極地と接してきた立地自治体。
その、立地自治体が「消滅」の時代に「自治」で挑む全ての自治体の希望となること祈って。
消滅、自治の先にある空白。
それを埋めるのは、私たちが暮らす一つ一つの自治体なのだ。
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