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演題 「意義なき保護」

弁士 高田匠唯(文1)

【導入】
 自らの仕事で収入を得て生活をする。
 そんな自立した生活をする為に、就職活動の準備をしている方も多いと思います。
 それだけでなく、一度リタイヤしてしまっても自立への再スタートを切りたいと強く願う人たちもいます。
 自立をしたいと願う人、条件さえ整えば自立できる人。
 そんな人たちの背中を押してあげるのが、国としての責務ではないでしょうか?
 しかし、現状ではその逆、自立を阻害するという要素を持った制度が存在します。
 それが、現在の生活保護です。


【現状分析・問題点】
 現在の生活保護は、自立の促進を目的としながら、その自立を阻害する、「意義なき保護」と化してしまっているのです。
 その結果、本来ならば自立が可能である人の自立を阻害してしまっているのです。

 もちろん、全ての受給者が自立可能なわけではありません。
 現在の生活保護受給者は、「高齢者」「傷病者や障害者」「母子家庭」と、そのどれにも属さない「その他」の4種類の世帯に分けられます。
 その4種類のうち、「高齢者」と「傷病者や障害者」は、現実問題として、自立はほぼ不可能です。

 一方、「母子家庭」と「その他」の世帯は、「稼働世帯」と呼ばれ、幾つかの問題点を克服すれば、自立できる可能性が高い、と見なされています。
 しかし、先程も申し上げた通り、この「稼働世帯」は、現状自立は全くと言っていいほど、進んでおりません。
 2012年のデータでは、生活保護から抜けだした稼働世帯は、母子家庭で約1%、その他世帯で2.5%と、極めて少ないものとなっております。


【原因分析】
 では、なぜこれ程までに自立が促進されないのでしょうか。その理由は、2つあります。
  1つ目は、就労のための支援が適切に行われていないこと。
  2つ目は、福祉の罠と呼ばれるものです。

 まず、1つ目の就労のための支援が適切に行われていない事について説明します。
 現在、受給者に対して、この支援として、就職斡旋と、職業訓練が行われております。
 就職斡旋とは就労能力のある人のみを対象とし、職場とのマッチングなどを行います。
 また、職業訓練に関しては、就労能力の低い人を対象とし、この能力を高めるための訓練を行います。
 これら2つの支援を受けた人の60%は再就職ができており、大きな成果が上がっています。

 しかしながら、この就労のための支援を実際に受けている人はわずか9000人のみに留まっています。
 これは稼働世帯数が約33万世帯であることを考えても、あまりにも低い数字となっており、その効果は極めて小さいものとなっているのです。
 その原因は、訓練中に生活保護費に代わって支給される報奨金の少なさにあります。
 この報奨金の金額は生活保護費と比べれば非常に低いものであり、職業訓練のインセンティブを阻害しているのです。

 また、訓練中、つまり生活保護給付の停止期間は、税金を支払う必要があるため、経済水準が生活保護受給期間よりも下がってしまいます。
 他にも、職業訓練を受ける際に必要な、交通費とテキスト代が、受給者の自費負担となっているのです。
 生活保護支給額は、国が定める、生活するためのギリギリのラインであり、訓練を受けることでそれを下回る生活水準になってしまうのは生活の破綻に繋がりかねません。
 これでは就労支援のインセンティブが大きく失われてしまい、その結果訓練を受けない人や、途中でやめてしまう人が続出してしまうのです。

 2つ目の理由は、福祉の罠、と呼ばれるものにあります。
 現在の生活保護受給者は、働いて、収入を得た場合、その収入の分の受給額の減額を受けます。
 すなわち、収入によって得た勤労所得と、生活保護の合計である、「可処分所得」が、働いても一切増加しないのです。
 これを、福祉の罠、と呼びます。

 先ほど述べたとおり、生活保護受給者の就労能力は低く、当然、大きな収入を得ることはできません。
 そして、少しの収入を得たとしても、その分を減額される。
 この福祉の罠に陥った受給者は、こう考えるでしょう。
 「働いても可処分所得が増えないのなら、働くことは無駄である」と。

 まとめると、現在の、稼働世帯の受給者に対して、有効な自立支援が行われていない理由は2点、あります。
  1つ目は、根本的な就労能力の改善が行われておらず、そもそも就労支援を望まない、という点。
  2つ目は、就労の経済効率と意欲を低下させる、「福祉の罠」であります。

 これらによって、自立のインセンティブが低下してしまい、自立の阻害に繋がってしまうのです。


【解決策】
 これらを解決するために、私は2つの政策を提唱いたします。
  1つ目は、職業訓練の有効活用。
  2つ目は、生活保護の一つ上のセーフティネットとして、負の所得税の導入です。

 1つ目は、職業訓練の有効活用であります。
 現在別々に行われている職業訓練と就労支援を一体化し、効率化を見込むとともに、訓練中の経済的負担を取り除きます。
 訓練中の経済的負担とは、先ほど述べたとおり、生活保護の停止による勤労所得と、訓練を受けるにあたって必要なテキスト代、交通費等の諸経費を指します。
 これらを取り除くため、訓練中も生活保護の受給対象とし、必要経費は支給します。
 訓練をより受けやすくし、職業訓練を受ける上での経済的な負担を取り除くのです。

 2つ目は、生活保護の一つ上のセーフティネットとして、負の所得税の導入を提唱します。
 負の所得税とは、勤労所得に一定の基準を設け、それを下回る勤労者に対して、下回る分の金額を、一定の割合で支給するものです。
 例えば、基準額を260万、助成率50%とした場合、収入200万円の人は、基準額との差額60万円の、50%に当たる30万円を受給し、可処分所得は230万円となります。
 収入が210万円まで増えれば、可処分所得は235万円となります。

 平たく言うと、働いて稼働収入を得ると、その収入に応じて、給付金を支給し、可処分所得が増えるような仕組みであります。
 この仕組みを導入すれば、働けば働くほど、可処分所得が増えていきます。
 そして働いても可処分所得が増えない、といった、「福祉の罠」から脱却することができるのです。

 位置づけたのは、仮に負の所得税のみを導入した場合、収入が生活保護の受給金額を下回る人が出てくる場合が考えられるからです。
 生活保護の給付金額は、政府が設定した最低限度の生活基準です。
 負の所得税の受給者が生活保護の給付金額を下回る場合、生活保護を重ねて受給することができ、最低限度の生活が保障できるからです。

 この2つの政策、職業訓練の拡充と、1つ上のセーフティネットとしての負の所得税の導入。
 これらの政策を導入することにより、稼働世帯の就労能力の上昇とそれに伴う就職を促進します。
 更に、負の所得税を導入することにより、実際に就労した稼働世帯の受給者が十分な収入を得て、生活保護からの脱却が可能となるのです。


【展望】
 最後のセーフティネットたる、生活保護。
 この制度は現在、自立への支援が有効に行われず、「意義なき保護」と化してしまっております。
 それを、この2つの政策、職業訓練の拡充と、1つ上のセーフティネットの導入によって、自立の阻害要因を取り除くことが出来ます。
 一度リタイヤしてしまった人達の自立を支援する、という国家の責務を果たすことが出来るのです。
 本来ならば自立が出来る人達の自立を促進する、という生活保護法にも明記された目的を果たすことが出来る、真に有意義な、生活保護制度へ変えることができるのです。

 ご清聴、ありがとうございました。



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