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演題 「ふるさとは」

弁士 佐藤柊平(農4)

【導入】
 ふるさとは、遠くにありて思うもの。と言われます。

 普段は都市に身を置き、ふとした時に故郷を想う。
 そのような人が日本人には多いのではないでしょうか。
 私もその一人であります。
 遠くに在りても、ふるさとは愛おしく、大切なものです。

 しかし、そのふるさとを失ったとき、人は何を思うでしょうか。
 3月11日の東日本大震災は多くの人々から、大切な家族を、そして、ふるさとを奪いました。
 私は岩手県出身者の一人として、震災の1週間後から被災地域に足を運び、今日までの約2年4か月の間、ふるさとを取り戻すための歩みを、東北の方々と共にして参りました。

 正解のない復興という問題。
 日々悩み続け、少しでも現状を打開しようと、学生生活のほとんどの時間を割いてきました。
 私は、復興に貢献したいと思う人や被災地域の出身者が、その手で再びふるさとを創る社会を実現したい。
 その社会システムを整え、確実な復興を進めることが本弁論の目的であります。


【現状】
 今、被災地域は、緊急支援の段階から具体的に復興事業をすすめる「復興まちづくり」の段階になりました。
 被災市町村ごとに作成された復興計画の下、行政やNPO、企業等のあらゆるセクターによる復興事業が推進されようとしています。

 しかし、被災地域は、北は青森県から南は千葉県まで、東日本の南北500キロにわたってダメージエリアが続きます。
 ふるさとは、いったいどうなってしまうのか。
 多くの被災者が、出身者が、強い葛藤と不安を抱えながら、日々の生活を続けています。
 震災関連死もこの2年で約3000名に及び、一刻も早い復興が必要となっています。
 約1万9千人の死者・行方不明者を出し、今も約30万人以上が不自由な避難生活を続けていますが、被災地域は、新しい町を、ふるさとを創ろうと必死の努力をしているのです。


【問題点】
 復興は、国費25兆円を投じ、震災影響地域の9県200市町村の将来を左右する、まさに天下の大事業であります。
 しかし、その復興を進めるための非常に深刻な問題点が存在します。
 その問題とは、「復興を担う人材不足」です。
 これは、行政・NPO・企業なども含めた復興に携わる担い手が不足し、復興事業に影響が出ていることを言います。
 阪神淡路大震災が「ボランティア型」の復興だと言われているのに対し、東日本大震災は「ビジネス・事業型」の復興であると言われています。
 故に仕事として復興に関わる人材が必要です。

 しかし、行政では、復興の事業規模に対して職員数が圧倒的に足りず、復興事業が計画より遅れるケースが、被災地域の80%以上の自治体で発生しています。
 NPOでは、依然としてボランティア依存型の復興事業推進がほとんどを占めており、事業を進める人材が非常に少ないため、事業を一端ストップさせなければならないケースも全般的にみられます。
 また、約9割の企業が本業の傍らで復興事業に関わっているため、十分な人材リソースを割けない現状です。
 一方で、被災者は一刻も早い不自由な避難生活からの脱却や、町の復興を望んでいます。ゆえに復興には、スピードや推進力が必要です。
 それが、人材不足によって滞ってしまってはいけないのです。

 復興は、人によって成されます。復興という未来のふるさとを描くのも人です。被災者に明日の希望を灯すのも人です。
 新しい町を、一つ一つ作り上げてくのは人であります。
 ふるさとは、私たち人の手で創っていくものなのです。
 この「復興を担う人材不足」という問題を解決しない限りは、様々な復興事業が着実に進み、被災者の願いを叶えるはおろか、町の復興を成し遂げることは困難でしょう。


【原因】
 この問題を引き起こしてしまう原因は2点あります。
  1.復興セクターの雇用条件の悪さ
  2.人と復興セクターを繋げる媒体の欠如
 の2点です。

 まず1点目の「復興セクターの雇用条件の悪さ」は雇用条件等が悪く、人が復興関連の仕事を選ばないということです。
 行政の求人の95%は任期付職員となっており、不安定な雇用条件となっています。
 また給与も、概ね月20万円以下のケースが多く、仕事として選ぶのが難しいという現状があります。
 加えて復興事業は激務であります。
 そのため、復興を仕事にできる人は限りなく少ない上に、転職もできないと指摘されています。

 次に2点目の「人と復興セクターを繋げる媒体の欠如」は、実際の復興セクターの業務内容や、復興事業の仕組み等の情報提供を行ったり、リクルーティングをしたりする媒体がないことです。
 被災県以外の全国1000人を対象にした調査によれば、「復興に関わりたい」と言う人は、全体の約8割に達する一方で、「具体的な関わり方が分からない」と答えた人は、そのうちの7割にも上ります。
 一般的な就職や転職には、求人情報を包括的に提供しているリクルートサイトや人材マッチングの媒体が数多く存在します。
 しかし、復興分野に関しては、求人の発信元がバラバラで、求人情報を包括的に発信する媒体やマッチングの機会が無く、人材確保の大きな欠陥となっているのです。

 仕事として復興に携わる人材不足は、雇用条件の悪さや、マッチング媒体の欠如によって、解消されずに今日まで来ています。


【解決策】
 これらの問題を解決するために、私は2点の政策を提案します。
  1.復興人材補助金制度の構築
  2.復興人材マッチング機関の設置
 の2点です。

 まず、1点目の「復興人材補助金の制度構築」は、企業等から出向したり、復興セクターが人を雇用したりする場合に、国がその人件費を補助する制度です。
 これは、企業等から復興セクターに出向する人の増加を促進することと、復興セクターにおける雇用条件の改善を目的として行う政策です。
 復興庁が、企業や復興セクターからの申請を受け、復興予算から申請者に人件費を交付します。
 この政策により、復興に必要な人材確保がコストをかけずに実現できます。

 次に2点目の「復興人材マッチング機関の設置」は、分かりにくい復興セクターの事業内容や求人情報を集約したリクルーティングサイトの設置や人材マッチングイベントを行い、復興という仕事と人を出会わせる機関です。
 復興庁がリクルーティングを専門とする企業やNPOに、機関の設置と情報サイトの立ち上げを依頼し、一般的なリクルーティングシステムと同様の人材マッチング媒体をつくります。
 この政策により、復興の仕事の理解を普及させ、「具体的な関わり方が分からない」人が、仕事として地域の復興に関わり、貢献することができるようになります。

 これらの政策を、復興へのコミット率が高い被災地域出身者を対象にすることで、想いを持ったUターン者や復興に関心のある人が復興の担い手となることができます。

 このような復興を担う人材確保の仕組みを整えることで、様々な復興事業を円滑に進め、被災者の望みを一つでも多く叶え、町の復興を実現することができるのです。


【展望】
 私は、復興は人の手によって成されるということを確信しています。
 復興におけるその人の手は、時に汗や涙をぬぐう手かもしれません。
 時に、絆を確かめ合うような握手をする手かもしれません。
 町を再生させるために、泥まみれになる手かもしれない。

 しかし、そうした一人一人の手が、努力が、町の明日を創るのです。

 ふるさとは遠くにありて思うもの、ではありません。
 ふるさとは近くにありて、人の手で、慈しみ育むものです。
 多くの犠牲と困難を乗り越え、今を生きる私たちが、明日を生きる希望が持てる町を創ることが、この復興の大目標であります。
 人の確かな力で、町の明日を共に創ろうではありませんか。
 ふるさとは、そこにあり続けるのですから。

 ご清聴、ありがとうございました。



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