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演題 「橋をかける」

弁士 木佐貫彩夏(政経4)

【導入】
 向こう岸から、待ち焦がれる声がする。
 届けたいものが届かない。
 橋があれば、橋さえあれば、届けることが、できるのに……。
 橋によって、私たちは行き来することができます。
 送り届けることだできます。
 それはお金も同じ。
 あなたが持っているそのペン。
 明治大学が建てたこの新しい図書館。
 これらを購入・建設するには、もちろん! お金が必要です。

 しかし、企業や国が、いつも必要なお金を持っているとは限りません。
 そこで、お金の不足している者がお金の余っているものから、資金を融通してもらうことになります。
 この経済活動を行っているのが、金融機関です。
 社会に必要なお金。
 その流れ司る金融機関は、社会的インフラとも呼ばれ、重要な立ち位置を占めています。

 お金の余っている人と足りない人をつなぎ、お金の流れを活性化させる。
 それが、金融機関の使命です。

【現状・問題点】
 しかし、日本の金融機関は、その使命を果たせていません。
 日本の個人資産は、1500兆円。
 そのうち投資で運用されているのは、わずか10%のみ。
 50%は銀行に預金されている状態です。
 対して、アメリカは個人資産の40%が、EU諸国では、30%が個人投資で運用されています。
 日本では、個人投資する意欲が少ないのでしょうか?いえ、そうではありません。
 投資信託協会の調査では、投資未経験者のうち、20代~40代の7割が「老後のため投資をしてみたい」と回答しています。
 このように、個人の投資への意欲は高いものとなっているのです。

 一方、企業は資金不足に悩んでいます。
 日本銀行は、中小企業の多くが資金不足と報告しています。
 個人投資が増えれば、銀行からの借金に依存せず、資金調達を多様化できます。
 結果、開業率の増加やイノベーションの促進にもつながるのです。

 このように、投資したいと思っている個人がいる。一方で、資金を必要としている企業がいる。
 この両者を結びつけ、資金を融通するのが金融機関の使命でありながら、それが達成できていないのです!

 わたしは、来年の4月から金融機関に勤めることが決まりました。
 そのため、金融機関の社会的使命を果たしたい。
 個人と企業の間に橋をかけたい。
 そう思っています。


【原因】
 では、なぜ日本では「投資したいけど踏み込めない」人が多く、「個人投資」が活発ではないのでしょうか?
 原因は、以下の2点にあります。
  1点目、投資・金融に対する知識がないこと。
  2点目、投資に回せる資金が少ないこと。

 まず1点目の、知識不足について説明します。
 投資をしたいと考えている人に対するアンケートでは、「どうしたら投資するか」という問いに対して、「勉強して理解できたら」が1位となっています。

 実際、学校での金融教育と、社会で必要となる金融知識には、乖離が生じています。
 金融庁が行った教職員に対するアンケート調査では、「金融教育は重要でありかつ必要である」との回答が80%にのぼります。
 しかし、その90%が「教えている内容と実際に必要な金融教育に乖離がある」と答えています。
 また、日銀が社会人に対して行った「学校での金融教育に関するアンケート」によると、「もっと積極的に取り組んでほしかった」と答える人が60%にのぼります。

 では、必要とされている金融教育とはどのようなものでしょうか。
 現在の学習指導要領では、金融経済として「金融の働き、日銀の役割、消費者の権利」などを学習します。
 しかしこれでは、金利や金融商品の仕組みなど実践的知識を学ぶことができません。

 一方、欧米では、実践的な金融教育に力を入れています。
 初等教育から金融教育をカリキュラムに導入しています。
 また、指導内容も、シミュレーション・ゲームを用いており、実際の資金運用を通して、知識を身につけていくのです。
 そのため、「知識がなく投資に踏み切れない」とためらわず、個人投資に踏み込めるのです。
 以上のように、資産を運用しようと思ったときに、必要な初歩的な知識が身につけられていないため、入り口で躓いてしまうのです。

 続いて、原因の2点目、投資に回せる資金が少ないことについて説明します。
 先ほどの「どうしたら投資するようになるか」という問いに対して、資金不足の次に多いのが、「まとまった資金を形成できたら」という回答でした。
 そのため、資金が少なくても投資しやすい制度や環境を整える必要があるのです。


【政府の政策】
 そこで、政府は資金が少ない人の投資を促進するため、少額投資に対する非課税を決定しました。
 これは、今まで20%課税されていた投資に対し、
  ・年間100万円以下の投資の場合、5年以内にその投資で得た収益に対しては課税しない。
  ・10年間が対象期間で、最大500万円まで非課税対象。
 というものです。
 これにより、資金の少ない人でも、少額投資が活発に行えると政府は期待しています。
 これに似た制度を導入したイギリスでは、20兆円が金融市場に流れました。

 しかし、日本で導入する非課税制度は、イギリスなどの制度と異なり、不便なものとなっています。
 そのため、日本ではあまり少額投資が増えない、との見方が出ています。


【解決策】
 以上を踏まえ、これらの問題に対し、私は以下の2点の解決策をかかげます。
  1点目、官民一体となった金融教育の支援。
  2点目、少額投資非課税制度に関する2つの改善。
 以上の2点です。

 1点目の、官民一体となった金融教育の支援について説明します。
 投資に必要な知識は、職業や年代に応じて異なります。
 すなわち、多様なニーズに対応した情報の提供、その情報にアクセスしやすい環境の整備が求められます。
 これらを効率的に行うには、民間企業や業界団体、NPOなど、民間団体との連携が必要です。
 具体的には、サラリーマンが対象なら、各企業の年金を運営している金融機関。
 高齢者の方には、地方銀行が。中級・上級者に対しては、大学や大学院などが指導に当たる。
 このように、金融庁が金融関連の団体をまとめ、ニーズに応じて適切な手配を行うのです。

 例えば、新潟県の労働金庫では、利用者を対象に、試験的に資産形成や、ローン利用法について学習会を行いました。
 結果、各労組から要望が殺到。
 「初歩的なことから学べる機会がなかったからありがたい」との声が寄せられました。
 これを金融庁が管轄すれば、より網羅的で効率的に教育が行えます。
 このように、学びたい人が金融教育にアクセスしやすい環境が整うことで、必要な金融知識を身につけられるのです。

 続いて、2点目の少額投資非課税制度の改善について説明します。
 改善点は以下の2つ。

 1つが、非課税対象となる投資用の口座を複数認めることです。
 通常、投資を行う場合、いくつかの銀行に投資先を分けます。
 これにより、ある銀行で損失が出ても、他の銀行の利益でカバーする、というリスク分散が可能になります。
 また、損失が多い場合は、その銀行から他の銀行に投資先を変える……ということを行います。
 しかし! 日本の制度では、このリスク分散や損失による銀行切り替えが不可能です。
 現行の制度では、非課税の対象となる投資用の口座は、1つの銀行でしか作れません。
 また、一度開設すると、変更できないルールになっています。
 口座を作成した金融機関で損失が多くなっても、他のところに移行できないのです。
 このように、リスクの分散も、損失による金融機関の切り替えもできない制度。
 これでは、投資が進むはずがありません。
 そのため、非課税の対象となる口座を、複数の銀行で認め、また、金融機関の切り替えを可能とすること、を提言します。

 改善点の2つめは、非課税期間の無期限化です。
 現行の制度では、5年以上保有した株や証券は課税の対象となってしまいます。
 20代~40代において老後の資金として個人投資のニーズがあると説明しました。
 老後の資金として、長期的運用が望まれているなか、そのような投資が課税の対象となっては、意味がありません。
 そのため、投資の非課税期間を5年から、無期限化することを提言します。

 以上のように、金融教育の充実、そして少額投資非課税制度の改善。
 これにより、投資したいけど躊躇している、そんな個人投資家がはじめの一歩を踏み出せるのです。


【締め】
 橋はモノを、人をつなぎます。
 金融は、お金をつなぎ未来を紡ぎます。
 これから、未来の為に投資をしたいという人がいる。
 これから、新しい事業をおこそうとする人がいる。
 そんな、彼らの間に、橋を架けることが出来たら。
 ご清聴、ありがとうございました。



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