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演題 「『電力地図』を描く」

弁士 濱英剛(政経2)

【導入・重要性】
 今年の3月に、東北へ一人旅をした。
 初めてヒッチハイクをしたり、福島原発のすぐそばまで近づいたりもした。
 その旅で、一際印象に残っている場所がある。それは石巻だ。
 2年前に訪ねた時と比べて、町のあまりの変化に驚いた。
 高々と積み上げられ、延々と続いていた瓦礫の山脈は、消え、商店街のシャッターは上がり、活気を取り戻していた。
 復興は、着実に、進んでいるように見えた。

 そんな町の復興と同じように、再起を図るべきものがある。
 それは、電力会社である。そう、電力会社の復興だ。
 震災以降、東京電力のみならず多くの電力会社が甚大な被害を受けた。
 もちろん、事故を起こし、結果多くの国民の生活を変えてしまったことは反省すべきだ。

 しかし、今私たちがするべきことは、電力会社を口汚く罵ることではない。
 電力会社を潰すことでもない。
 私たち国民がより安く、より安定した電力を享受できるよう、電気の供給を担う電力会社のあり方を再検討することである。


【現状(震災前)】
 まず、現在の電力会社の概略を説明する。
 日本の電力は世界有数の「安くて安定した」電力であった。
 例えば、2000年と比べて電気料金が順調に低下してきたのは先進国の中で日本だけであり、また最も停電が少ないのも日本である。
 これだけの実績の背景には、日本独自のシステムがある。
 日本は、東京電力など、10の電力会社が、それぞれの事業範囲で発電・送電・小売の全てを担ってきた。
 時に「地域独占」だと批判されることもあるが、この体制の大きなメリットとして、発電・送電・小売を一貫させ、また、広い地域を1つの会社が担っているので、効率的な電力事業が行えた事が挙げられる。


【問題点】
 しかし、震災以降、状況は一変。
 「安く安定した」電力を供給していた電力会社に大きな壁が立ちはだかったのだ。
 それは「震災の影響による経営難」である。
 このままだと、事故を起こした東京電力だけでなく、関西電力や東北電力など、多くの電力会社が債務超過に陥る見込みだ。
 債務超過とは、会社の資本より負債が多い状態である。
 基本的に、債務超過に陥ると破産の可能性が高くなるので、銀行は投資を回収できないと判断し、融資をストップしてしまう。

 インフラである電力会社も例外ではない。
 例えば、震災で直接的な被害を受けていない関西電力は、震災前では営業利益が2700億円の黒字であったが、震災後の12年度では2200億円もの赤字に転落している。
 この状態が続けば、融資を受けることは困難になる。

 これがどれだけ問題か。
 資金調達が出来ないと、必要な電力事業が行えなくなる。
 この状態を放置すると、効率的な電力事業が行えなくなるばかりか、毎年膨大な予算をかける保守整備などに資金が回らなくなり、第二の原発事故や大停電を招きかねない。
 そう、「安くて安定した」電力供給からは程遠いものになってしまうのだ。


【原因】
 以上のような問題が発生している原因は2点。
  1点目、原発停止による追加燃料費
  2点目、原発事故による賠償費用や除染費用
 以上の2点である。

 まず1点目の「原発停止による追加燃料費」について説明する。
 震災後、国内の原発が停止している影響で、火力発電の比率が58%から90%に跳ね上がっている。
 この影響による、今年度までの予想追加燃料費は約9.2兆円。
 この莫大な損失は電気代の値上げという形で私たち国民を襲う。
 現に、多くの電力会社で20%程度の値上げが申請または検討されている。
 だが、当然これだけの費用は電気代だけでは回収できず、電力会社の負債となる。
 これを根本的に解決するには、輸入する燃料自体を減らすしかない。

 そして2点目の、「原発事故による賠償費用や除染費用」について説明する。
 福島原発の事故に伴い、被災者への賠償や被災地の除染が東京電力の経営を大きく圧迫している。
 その総額は約10兆円。
 東京電力に関しては、1点目の「追加燃料費」に合わせて、この費用が経営を圧迫しているのだ。
 東京電力が全ての責任を負うべきという気持ちは分かるが、1民間企業が支払える金額ではない。
 ここで行うべきは、国と東電で原子力事業における明確な区切りをつけ、原発の運営を適正化し、東電を再建することである。


【政策】
 以上の点を総合し、電力会社の再建を通じて、より安くより安定した電力を供給するため、3点の政策を提示する。
  1点目、原子力発電所の再稼働
  2点目、賠償と除染事業の国営化
  3点目、電力会社の合併
 以上の3点である。

 まず1点目の「原子力発電所の再稼働」について説明する。
 この政策は化石燃料費の大幅な削減が狙いだ。
 現在、再稼働には原子力規制委員会の認可が必須である。
 この委員会は主に安全性に視点を置き、判断を下している。
 しかし、再稼動は安全性だけでなく、安全保障上の観点や核燃料サイクル上の観点など、政治的な判断基準が大きく絡む。
 このような政治的特質を持つ再稼動に関して、委員会が政府より権限を持っているのは異常である。
 この状況を打開するため、原子力規制委員会設置法を改正し、委員会は安全基準を示すに留め、最終的な判断は経済産業大臣が下すこととする。
 それにより、安全性だけでなく総合的な観点から再稼動の是非を審査し、柔軟な対応ができるようになる。

 2点目の「賠償と除染事業の国営化」について説明する。
 この政策は、東京電力に対してのみ行う。
 即ち、東電の財務状況を改善し、必要な電力事業にきちんと投資ができるようにするのだ。
 現在、東電は債務超過に陥り、賠償費用や除染費用を支払えないので、国が財政的な援助をしている。
 つまり、国が直接、賠償や除染費用を支払っているようなもので、この資金の流れに東電を仲介させる必要はない。
 現在、形式上、東電が賠償と除染費用を担っていることで、額面上は財政悪化が加速している。
 これが原因で銀行からの融資を受けることが困難であり、必要な投資ができない。
 その結果、電力価格の上昇や安定した電力供給が損なわれるというリスクが、私たち国民に振りかかる。
 これを解消するため、賠償や除染など、東電が無駄に仲介している部門を東電から引き離し、国営化するというものである。
 これにより東電は銀行から必要な資金を借り入れ、必要な電気事業や保守整備に安定的な投資ができるようになる。

 以上2点の政策は、現在起きている問題を解決し、電力会社の再建を図るための短期的・中期的な政策である。
 また、この2つの政策によって、原発の稼動から、事故が起きたときのリスクまで、一貫して国が責任が担うというシステムが出来上がる。

 そして次の政策は、長期的な視点に基づき、「より安く、より安定した電力」のために、電力供給システムを合理化するのが目的である。
 それこそが3点目の「電力会社の合併」である。
 これは、沖縄電力を除く9つの電力会社を「東日本電力」と「西日本電力」の2つに合併するというものだ。
 この政策は、先ほど述べた、現在の電力会社の体制によるメリットを増大させ、より効率的な電力供給を行うという狙いがある。
 この政策により、「安くする」という面では、燃料を一括して大量購入できるようになり、燃料費を抑制できる。
 つまり、スケールメリットが働き割引がきくようになるのだ。
 また、「安定する」という面では、災害時にも広域での電力融通が円滑に行われるようになる。
 つまり、より強靭な電力供給体制が確立し、安定供給に寄与する。
 これにより、現在の電力システムのメリットを更に高めることができるのだ。
 以上の理由から、多くのメリットが期待できる電力会社の合併は必ず行うべきである。

 なお、2つの電力会社に分けた理由は、周波数の問題である。
 東日本と西日本では周波数が異なり、これを統一しようとすると、約10兆円もの費用が必要である。
 これは約3千億円で周波数の変換機を増設すれば済むので、統一をするメリットはない。


【展望】
 以上、3点の政策により、電力会社を再建し、私たち国民がより安くより安定した電力を享受できる体制が出来上がるのである。

 より安く、より安定した電力を供給するために、何をするべきか。
 原発か再生可能エネルギーか、だとか、そういう小さな範囲での議論はもう止めよう!
 また、東電叩きをしても何も始まらない!
 大きな視点での電力改革、つまり、「より安く、より安定した電力供給」を構築するために、まず、まず!新たな「電力地図」を描かなければならないのである。

 ご清聴ありがとうございました。



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