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演題 「道」

弁士 桐生常朗(政1)

【導入】
遅い。とにかく遅い。
東京で車に乗ると目的 地までなかなかたどり着かない。都心部での通 勤時間の車の平均速度はなんと時速 16.8km。明 治時代の人たちが乗っていた馬車の方がまだ速い。
現代文明の作り上げた自動車の利便性も渋滞の多い東京では実に小さく抑えられてしまっ ているのです。交通網は便利でなければ意味が無い。
本弁論では、東京に於ける道路交通網の あるべき姿について申し述べていきます。

【重要性】
ではまず、道路はなぜそこまで重要なのか、について述べさせていただきます。それは道路 の利便性は産業を大きく支えているからです。 たとえば、東京において、業務を目的とする輸 送のうちの 6 割以上が道路を利用する交通手段 に頼っています。中でも貨物輸送に関しては、自動車の比率は年々増加しており、いまでは輸送量のなんと 9割以上が自動車に頼っているのです。
このようなデータから考えても、道路の利便性は、産業 の点から見た場合に最も重要なのです。
さらに、これらの道路の重要性がとりわけ高 い地域があります。それは、言うまでもなく、 ここ東京です。東京の産業規模は、大阪の 2 倍以上を誇っており、先ほど述べた産業を支えるという道路の重要性は、産業の中心たる東京では他の地域と比べ物にならないほど大きいのです。

【問題点】
このような社会的重要性を持つ東京の道路交通網。しかし、この東京の道路は、その機能を失わせるような大きな問題点を抱えています。 それは、都心部が抱える慢性的な渋滞です。道 路利用者の 6 割もの人が不満と答える渋滞。
東京での慢性的な渋滞による利便性の低下は大きな経済的損失を伴います。東京都では渋滞 によってなんと毎年 1.2 兆円もの経済的損失を招いているのです。産業を支える役目を持つ道路が産業にこんなにも莫大な損失を与えているのです。特に、運輸業者に大きな打撃を与えています。
民主党が行った高速無料化では、全日 本トラック業界は「利用料コストが下がっても、渋滞で遅延が生じれば燃料代、賃金コスト増が 見込まれるため、全体としては利益を生じない」 と述べているのです。
つまり、高速道路が無料 化になってもその利益を打ち消すほど、渋滞の損失は大きいのです。このように一般市民や運 輸業者はもとより、産業全体に大きな悪影響を もたらす渋滞問題は政府が絶対に解決すべき問 題なのです。

【原因】
それでは、東京での渋滞の原因とはいったい何でしょうか?一般道路と高速道路に分けて分析いたします。
まず、一般道路の渋滞の原因と は何でしょうか?一般道路では狭い道幅、すな わち車線の少なさが渋滞の主な原因となっています。他の都市と比較しても狭い道幅、これが 東京の一般道路が多くの自動車を捌けない原因なのです。
次に、高速道路での渋滞の原因分析を致します。
では、ここからの原因分析をわかりやすく するために、東京の高速道路の概要をまず説明致します。現在、東京では多くの高速道路の路 線が存在します。
これらの高速道路の路線は大きく2種類に分けられます。一つが、輪の形をした環状路線。もう一つが、都心部と郊外を結ぶ放射状の路線です。東京にある高速道路のうち、最も中心部にあり、全ての放射状の路線を つなぐ、ハブの役割をしているのが都心環状線。
しかし、ハブとしての重要な役割を持つ都心環状線ですが、現在この路線は慢性的な渋滞が発生しており、それが原因で都心環状線に接続す るその他の放射状の路線も、こことの連結部分 を先頭に渋滞が慢性化しています。
つまり、東京での高速道路の渋滞の原因は都心環状線での渋滞にあるのです。
では、東京の高速道路の渋滞のガンとも言える都心環状線の渋滞の原因と はなんでしょうか?
大きくは、その構造的な問題が原因として挙げられます。もともと東京オ リンピックに合わせて急遽造られた都心環状線 は、既存の道路や河川の上空を縫うように造ら れたため、急カーブが多数存在します。
これが 原因で、都心環状線では最高速度は時速 40 キロから 50 キロと高速道路としては極めて低速に抑えられているだけでなく、この急カーブを先 頭に渋滞が発生しているのです。
こうした都心 環状線の構造的問題が東京に於ける高速道路の 渋滞の原因なのです。

【政策】
これらを踏まえて、私は渋滞を解決し道路の 役割を復活させるために 2 つの解決策を提示いたします。
1 つ目は、「都心環状線の地下化工事」
2つ目は、東京に於ける「渋滞税の導入」以上 の 2 点です。
まず一つ目の「都心環状線地下化工事」について説明します。
先ほどの原因分析で述べたように東京の高速道路の渋滞のガンは都心環状 線の急カーブの多さにあります。
この問題を根本的に解決するため、都心環状線を地下に埋めることで自由な設計を行い急カーブを無くします。建設をする際には現在東京では利用されていない地下40メートル以上の大深度地下を利用します。
さらに、現在都心環状線は老朽化が進んでおり、建て替えの議論が度々なされています。今こそがこの政策を打つ絶好の機会なのです。 また、地下化することで、トンネル内で排出された排ガスを浄化し大気に放出できるという 大気汚染対策という効果、騒音防止効果、さらには耐震性の向上などが副次的なメリットとし て挙げられます。都心環状線地下化工事は渋滞緩和はもちろん環境対策、災害対策など多くの メリットが得られる政策なのです。
次に 2 つ目の「渋滞税の導入」について説明します。
渋滞税は、一般道路に対して車の台数 を減らすことを目的とします。先ほど、一般道 路に於ける渋滞の原因分析では、その道幅の狭 さを原因として上げました。
しかしながら、現在東京では、道幅ギリギリに建物が立ち並び、今以上に道路の幅を上げることが事実上不可能です。また、交差点の存在や地上との接続を考えると地下化もできないので、混雑時の車の総 量を減らす事で渋滞を緩和させます。
具体的には、午前 7 時から午後 7 時の間に東京環状 7 号線以内の都心の一般道路に進入する 原則すべての自動車に対し、税の支払いを義務付けます。
また、カメラを用いナンバープレー トを機械的に読み込み対象を把握します。この 渋滞税を導入することで、課税エリア内では車の台数が減り大幅に渋滞が緩和されます。
実際 に渋滞税が 2003 年に導入され、車の所有台数や 入り組んだ道路など東京と類似する点の多いロ ンドンを例にとると、課税区域内での混雑は約30%減少しました。ロンドン市民へのアンケー トによっても渋滞税課金政策に賛成と答えた人 は半数近くに上り、また「渋滞が緩和されれば 課税を我慢できる」と答えた人は 8 割以上に上りました。
これらのことから、渋滞税は効果が 出やすく住民の理解も得やすい政策なのです。
しかし、一つ目の政策、都心環状線地下化工事、に関しては現在それが進まない原因となる障害が存在します。それは、その建設財源をど のように確保するかということであります。2兆円と試算されたこの建設費用を賄うのが困難である、というのが現状です。
これらの現状を鑑み、私は先程述べた 2 つの解決策を相互補完的に用いることを提唱します。
すなわち、渋滞税で得られた税収をそのまま都 心環状線地下化工事の費用に当てるのです。こ れら 2 つの政策を組みあわせ、「都心環状線地下 化費用の確保の困難さ」という障害を打ち消すのです。
この 2 つの解決策からなるプランを実行する 事で、渋滞税課税エリア内では、渋滞区間はお よそ 6 割減小します。さらに都心環状線につい ては渋滞を根本的に解決することができるのです。

【展望】
遅刻の言い訳のうち 4 番目に多く利用されている「渋滞」。私も、「渋滞」を何度も利用してきたという思い出もあります。
しかし、経験上、 遅刻した時には「寝坊しました。すいません。」 と言うほうが、許される傾向があります。
いや、 そんなことよりも、渋滞というものがこれほど までに社会に大きく浸透していることが問題なのです。産業を底支えしている自動車の便利さ。
この便利さを再興し、産業を支えるという役割 を復活させなければならないのです。
ご清聴ありがとうございました。



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