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演題 「再稼働論」

弁士 濱英剛(政1)

【導入】
「由美ちゃん!!ウェーイカンパーイ!!…わっ!んだよ停電かよ…。」
年に1回あるかないかの停電が発生しました。あなたは由美ちゃんにかっこいいところを見せつつ、明かりが戻るのを待っているでしょう。
…ですが、これが数日続いたら、あなたはどうしますか?

【電気の必要性】
電気は、私たちが暮らしていく中で、欠かすことのできないものです。もし今日の朝停電が発生したら、この会場の明かりは付かず、真っ暗なまま大会が開催されるでしょう。いやその前に、電車が動いていないので、ほとんどの方はここにたどり着くことすらできないでしょう。現代社会は電気を基盤とした社会構造となっています。
そのため、電気なしに生活や仕事を続けていくのは非常に困難です。
停電が影響するのはこのような身の回りのことだけではありません。経済的にも大きな影響を及ぼしてしまうのです。
精密機器業界などは 24 時間安定した電力を必須とします。現代社会において、電力の危機は都市生活ひいては産業の危機にまで直結するのです。

【現状】
しかし、こういった想定が現実になろうとしています。去年 3 月に発生した東日本大震災による原発事故。その影響で、全国の原子力発電所が停止をし、電力状況が逼迫をしているのです。
こうした危機に焦った電力 9 社はすぐに老朽化した火力発電所をフル回転させたり、大口の需要家に節電義務を課すなどして、この 1 年半何とか難を逃れていました。
しかし、現実はかなり厳しいものが続いています。いま現在でも、北陸・中国・四国電力管内では、たった1機火力発電所が止まれば、大停電が起きてしまう綱渡りのような状態が発生しております。
また、「電力危機」というのは停電だけに限られた話ではありません。全電力の 30$を担っていた原子力発電。それを止めて何も犠牲がない訳がないのです。
予想通り、家庭・産業・国家の観点から、それぞれ大きな負担を強いられています。例えば、原子力発電を補うための追加燃料費は年間約 3 兆円にも及んでいます。発電コストが上昇することで当然電気料金は上昇し、私たち電力ユーザーにのしかかってくるのです。
日本エネルギー経済研究所によると、年間3兆円の追加燃料費を電気代に上乗せすると、家庭用では18%、産業用では 36%上昇すると試算しています。
例えば月に 25 万キロワットを使用する中規模工場の場合、電気料金は 75 万円も上昇します。これを賄うには、月に数千万円もの売り上げアップが必要です。ただでさえギリギリでやってきている会社には致命的であると言えます。
また、輸入される石油の 90$、天然ガスの 20$は「シーレーン」と呼ばれる、中東や中国の海域をつなぐ航路から運搬されます。
つまり、中東や中国の政治状況によって化石燃料の価格が暴騰したり輸入が完全にストップしてしまう可能性が十分に考えられ、安全保障上大きな問題があります。
このように、安定供給の観点、経済的な観点、安全保障の観点から日本の電気は極めてリスクの高い状況に追い込まれているのです。
そんな中、震災以降、救世主として太陽光や風力など、再生可能エネルギーに大きな注目が集まっています。しかし残念ながら、コストと不安定さが大きな壁となっています。それゆえ、原発の代替手段にはなれないというのが現実です。
また、最新鋭の火力発電所を新設すべきだという議論がよくなされています。しかし、査定から建設まで10~15年かかるという点で、現状の電力危機を打開することは不可能です。
つまり、今ある原子力発電所を再稼働させることこそが安定供給、経済性、安全保障のリスクを払拭し、合理的に電力を供給するための最良の手段なのです。以上のことから、現状では原発を順次再稼働しなければならないのです。

【問題点】
しかし、その前に大きな壁が立ちはだかっているのです。それは、原発の再稼働に関して国民が懐疑的になっているということです。
今年4月に朝日新聞が行ったアンケートによると、「大飯原発の再稼働に反対」と答えたのが 55$。これは賛成の 28$を大きく上回っています。また 8 月のアンケートでは「新たな原発の再稼働に反対」と答えたのが52$。ここにおいても賛成の37$を上回り過半数を占めています。
このように、厳しい数値が並んでいます。原発の再稼働に対して国民は、非常に懐疑的になっているのです。

【原因】
その原因は1点挙げられます。それは、「政府の再稼働に際しての暫定基準が信用できない」ということです。ここで言う「暫定基準」は事故の反省を生かして作られた、再稼働に関しての基準のことです。
先のアンケートによると、再稼働に反対している人の7割が暫定基準を信頼していないと答えています。つまり、暫定基準への不信が、再稼働への反対の原因です。
この基準があくまで「暫定」であること、また今回の震災以上の地震が起こった場合の対策については計画の提出だけを義務づけていることが挙げられます。要するに、この暫定基準は福島の事故については想定されていますが、それ以上の想定はしていないのです。
このようなことから、暫定基準は信頼されず、それに基づいた再稼働が受け入れられないのです。

【政府の対策】
国民の信頼を得られていない暫定基準。これに対して政府は来年の7月に再稼働に関する新基準を制定すると発表しました。
しかし、管轄する規制委員会の田中委員長は「追加の工事や対策が必要になる。このため、再稼働が可能と判断されるまで、数年以上かかる原発が出る」と語っています。新基準を適応すると再稼働までに何年もの時間を費やしてしまうことになってしまうのです。これでは経済損失、安全保障上のリスクは長い間ぬぐい去ることができません。
政府の対策には、電力危機の喫緊性に対する見地が全く欠けているのです。

【解決策】
以上の観点から、私は1点の政策を提示します。
それは、再稼働に関して喫緊性に考慮した新基準を制定するということです。
来年7月に規制委員会が発表する予定の新基準。これは再稼働まで何年もの期間がかかってしまう、電力危機への配慮が欠如したものです。これに変わって、現状の危機を踏まえ、喫緊性に配慮した新基準を設けるのです。
これは具体的には、福島原発事故から導かれた暫定基準に関しては据え置きとするものです。このことによって福島と同規模、いわゆる「想定外」レベルの事故には対処することができます。福島事故レベルの事故への対策は現在、多くの原発で行われており、早期の再稼働が可能です。
さらに福島以上の、いわば「超想定外」なレベルの事故対策については、5年以内に完了することを義務化します。この「5年以内」という数値は、関西電力が福島以上の事故への安全対策に要する期間を4年としたことに基づいています。そしてそれが間に合わなかった場合、再稼働の凍結などの厳しい処置を下すものとするのです。
このことによって福島を越える更なる事故への対策が明確に義務化され、「暫定」のままずるずると再稼働し続けるのでは、という国民の不安を払拭することができます。

【展望】
この喫緊性に考慮した新基準により、よりスムーズに再稼働へと進み、現状の電力危機に歯止めをかけることができます。
さらに、同時に対策の不備という不安も解消することができるのです。

【最後に】
すべてのテクノロジーは、リスクとベネフィットを比較した上で価値が決められます。しかし、原発に関してはその比較がなおざりになっているように感じます。
確かにあれだけの事故が起こった以上、原発および原発政策に不信が起こるのは当然です。ですが、このまま足踏みをしていても何も変わっていきません。もう、震災から1年と9か月が経とうとしています。
そろそろ私たちも原発に纏わり付くヒステリーの空気をはぎ取り、エネルギーを効率的・安定的に供給するシステムの構築に向けての第一歩を再稼働から歩みだしていくのです。



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