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演題 「父よ、母よ」

弁士 櫻井大智(政1)

【導入】
私は、母を尊敬しています。
夫を亡くし、しかし決して折れず、私をここまで育ててくれた母。
私は、母の経験してきた辛さを知っています。
夫を亡くし、私をひとりで育てなくてはならなかった母。
私は、私の悲しみを知っています。
父を亡くし、家庭という大きなよりどころの半分を失った私。
母子家庭は、非常に厳しい状況に置かれています。
母子家庭で育ってきたからこそ、訴えたいことがある!
本日は、母子家庭の生活改善のために弁論させていただきます。

【分析】
現在、日本には、約124万世帯もの母子家庭が存在します。
発生理由は離婚が81パーセント。
死別が8パーセントとなっています。
母子家庭の数は、年々増加。
この14年間で約30万世帯も増加しているのです。

【問題点】
その母子家庭が抱える、問題点は二点。
第一に、経済的困窮。
第二に、精神的不安。
以上の二点。
一点目の、経済的困窮について。
母子家庭は、経済的に非常に厳しい生活を送ることを余儀なくされているのです!
例えば、児童のいる家庭の平均年間所得は、658万円。
これと比べ、母子家庭では252万円。
つまり母子家庭の所得は、有子家庭の所得の四割に留まっているのです。
そして、厚労省によれば、母子家庭の相対的貧困率は57パーセント。
同年代の未婚女性は32パーセント、既婚女性では10パーセントに留まることから、母子家庭がどれほど厳しい状況かが分かります。
又、厳しい経済状況は子どもの進学予定にも影響を与えています。
「大学までの学費を支払う予定がある」と答えた母子家庭は35パーセントのみ。
ふたり親家庭の60パーセントと比べて非常に低い値です。
これは、母子家庭がいかに経済的に制限されているかを、如実に示しているのです。
二点目の、精神的不安について。
厚生労働委員会調査室によると、母親の精神的不安は子にも悪影響を与える重大な問題であり、経済援助だけでは解決できないものなのです。
現に、労働政策研究・研修機構の調査によれば、母子家庭の母の25パーセント!
実に四人に一人もが、うつ傾向にあるのです。
ふたり親の母では、うつ傾向は7パーセントに留まったことから、いかにこの値が高いかが分かります。
ただでさえ、収入は少ない。
その上、就労や家事、子育てを一人でこなさなければならない、ひとり親。
そこに精神的不安が加わり、更に負担が重くなり、心身に支障をきたしてしまうのです。
以上のように、母子家庭は、大いに精神的不安を抱えているのです!

【原因】
では、これらの問題の原因は何か。
経済的困窮の原因は、離婚母子家庭と死別母子家庭にそれぞれ一点ずつ。
離婚母子家庭では、養育費の取り決めがされていないこと。
死別母子家庭では、遺族年金と児童扶養手当が同時に受け取れないこと。
そして、両者に共通する、精神的不安の原因が一点。
それは、現在の福祉政策が活用されていないことです。
まず、離婚母子家庭では、養育費の取り決めが為されていないことについて。
養育費は経済能力に乏しい母子家庭にとって非常に重要なものです。
しかし、厚労省の調査によれば、養育費を取り決めたのは、全体の38パーセントに留まっています。
その上、実際に受給しているのは20パーセントのみ。
この差である18パーセントは「取り決めがされたのに養育費を受け取る事ができていない」のです!
つまり、80パーセントが養育費を受け取れていないのです!
次に、死別母子家庭で、「年金と扶養手当が同時に受け取れないこと」について。
現在、死別母子家庭が得られる、遺族年金や児童扶養手当。
この二つの支援は、経済状況に関係なく、同時に受け取る事が出来ないのです。
現状の年金のみで生活が難しい場合、経済的困窮が生じてしまいます。
なぜ、同時受給は認められないのか。
厚労省は、「限られた財源の効率的な使用を図るため」同時受給は認められないとしています。
そして、精神的不安の原因である、福祉政策が活用されていないことについて。
母子家庭は様々な悩みを抱えています。
この状況を踏まえ、政府は数にして21もの支援事業を用意しています。
具体的には、ひとり親家庭の相談に応じる母子福祉センターなどです。
しかし、その支援事業は活用されていない。
母子福祉センターの利用率は、たった7パーセント。
他の事業でも軒並み10パーセント以下に留まっています。
これでは、せっかくの支援事業も意味がありません。

【政府政策批判】
これらの原因に対し、政府は現状で、それぞれに対応策を打っています。
養育費に関しては、昨年、民法を改正し、養育費の取り決めは離婚協議の場で定めることを明文化しました。
これは協議の場で取り決めを行うということを周知させるためのものです。
しかし、そもそも取り決めが行われないのは、周知が為されていないからではない!
取り決めをしていない理由として、49パーセントが「相手に支払いの意思や能力が無いと思った」と述べています。
つまり政府の政策は的外れなのです。
精神的不安への支援事業も用意はしています。
しかし、全21事業のうち16もの事業で、4割以上が「その存在を知らなかった」と答えているのです。
これでは事業が利用されず、精神的不安を軽減することも出来ない。

【解決策】
よって私は、これらの問題を解決するため、三点の政策を提示します!
第一に、養育費支払い義務化、及び行政への徴収能力の付与。
第二に、児童扶養手当法の改正。
以上二点の政策は、経済的困窮を改善するために複合的に用いる政策です。
そして第三に、ひとり親家庭を対象とした相談機関の周知の強化。
以上の三点です。
一点目の、養育費支払い義務化、及び行政への徴収能力の付与について。
世帯を別にしているとはいえ、子どもは両親、二人の子であります。
ひとり親がその子を育てるために、非常に重要な養育費。
しかし、支払われているのはたった20パーセントなのです。
よって、支払いを義務化し、行政が基準額を定めます。
その基準は支払う者の収入に対して累進的とし、すべての養育費はその基準に従って支払うこととします。
累進的基準に従って、養育費の支払いがされた場合は、それで良し。
しかし、基準に満たない、或いは支払いがされなかった場合は、行政が徴収することを可能とします。
このため、徴収に必要となる権利も、行政機関に与えます。
二点目の、児童扶養手当法の改正について。
児童扶養手当とは、経済的に困窮しているひとり親家庭などのための手当です。
現在、受給は98万件。支給総額は4500億円にものぼります。
なぜ、それ程に総額が多いのか。
それは、現在、養育費の支払いがされず、ひとり親家庭はこの制度に頼らざるを得ないからです。
よって、一点目の政策の補完として、児童扶養手当を用います。
養育費や遺族年金との同時受給を認め、所得に応じた追加的な支援として、これを用いるのです!
具体的には、養育費のみでは生活が困難と考えられる離婚母子家庭や、遺族年金のみでは生活が困難と考えられる死別母子家庭、所得が少ない父子家庭なども対象とします。
一点目の政策により、児童扶養手当の支給総額は減少します。
その分を、支援が不十分な「ひとり親家庭」への経済的支援に回すことで、より多くの生活改善に繋がるのです
以上二点の政策を組み合わせることで、母子家庭の経済的困窮は確実に改善します!
三点目の、相談機関の周知の強化について。
ひとり親家庭のための、様々な福祉事業。
しかし、そもそも周知が徹底されず、利用されていないなら意味が無い!
よって、こうした支援事業の周知の強化をします。
具体的には、様々な事業を紹介するための資料を作成し、ひとり親家庭に配布するというものです。
この資料を配布する時期としては、まずひとり親家庭となった時。
それ以降は半年おきに配布し、継続的にサービスを周知させます。
これにより、相談することが出来ずにいた、ひとり親家庭の精神的不安を軽減することが出来るのです。

【結び】
母子家庭の方々の抱える辛さは、そう簡単に埋められるものではありません。
家庭を共にしてきたものとの別れ。
それによる苦痛は、そう簡単に取り除けるものではないでしょう。
しかし、私は彼らを救いたい!
辛い境遇に立たされた私たち家族が、必ずや幸せになれるように!
きっとそれが、病床で強く、強く、私の手を握り続けた、父の願いでもあったから。
すべての母子家庭の方々が、幸せに暮らせる世の中が来ることを願って。
本弁論を終了させていただきます。
ご清聴、ありがとうございました。



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