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演題 「願い」

弁士 飯倉一樹(政2)

【導入-1】
「もう生きられへんのや、もうこれで終わりなんや」
『そうか、もうあかんか、泣かんでええ、最期は一緒、お前と一緒やで』
「母ちゃん、ごめんなぁ、ごめんなぁ」
そう言いながら母の首に手をかけた。
この手で実の母を殺めてしまった。
後追い自殺するも失敗。
その後、男は逮捕され証言台でこう言いました。
「生まれ変わっても、また母の子どもとして生まれたいんです!」
悲しく切実なねがいだった。
【導入-2】
これは2006年に京都府で起こった介護心中の事件です。
この男性は認知症の母の介護を続けた先にこの悲しい結末を迎えてしまったのです。

本来ならば介護は愛を持って家族を支えるために行われるものです。
そのはずがどうしてこんな悲劇になってしまったのでしょうか
自分を育ててくれた両親、愛する人を支えたい
その愛が守られていないのは何故なのでしょうか
【現状】
いまや国民の5人に1人が65歳以上の高齢者である日本。
日本人の平均寿命は今や82歳と世界一。
増えるだけでなく、寿命も伸びている高齢者。
年をとるにつれて認知症や脳梗塞など身体が不自由になる病にかかるリスクは上昇します。その時に必要になるもの、
それが介護です。

現在介護が必要として認定を受けている人は全国で500万
これからますます介護の需要が増えていくことが見込まれます
その介護の中心となっているのが在宅介護です。
厚労省の調査によれば、国民の7割が住み慣れた家での介護を望んでいます。
また同じく7割の国民が家で家族の介護をすることを望んでいます。
国の方針としても病床数不足などの観点から在宅介護を推進しています。
受け手、担い手の両者が望んでいる在宅介護。
【現状】
しかし、在宅介護には大きな問題が存在します。
それは家族があまりにも大きな負担を強いられていることです。

厚労省の調査によると要介護認定者の家族の半数が半日以上の介護に追われています。
一日の大部分が介護、この強い束縛によって介護うつ、介護離職といった問題が家族にのしかかっています。介護うつ。これは介護により疲労してうつ病になってしまうことです。 介護うつは介護をしている人の4人に1人が悩んでいます。これは通常の25倍もの発症率でいかに介護が大きな負担になっているかわかります。
介護離職。それは介護の負担の大きさによって仕事をやめざるをえないことです。2000年代前半には年間3万人前後であったのに対し、2011年には14万件にまで増加しており、増加の一途をたどっています。 仕事を離れてしまうと、収入が減り、生活に負担がかかります。また離職してしまうと再就職が厳しいという現実もあります。
家族への過度の負担がこれらの問題を生み出してしまうのです。

大きな負担に支えられた不安定な介護のあり方はとても将来的に持続できるものではありません。
【現状】
急速な高齢化、介護の重要性が注目される中で、政府も介護に関する対策を打ってきました。それが介護保険制度です。
これは保険者が介護を必要な状態になると、調査を行い、介護の必要な度合い、要介護度を認定し、その度合いに合わせて
介護サービスを受けられるようにしたものです。

しかし、その対策によって家族の負担は軽減されませんでした。
なぜ、家族の負担は軽減できなかったのでしょうか。
その原因は政府の対策が介護を担う家族ではなく、要介護者に主眼をおいて打たれていることです。
介護をする家族に関する法律は
介護保険法と高齢者虐待防止法の2つがあります。

社会で介護を支えることを目指し成立した、介護保険法。
しかし、中心となるべき家族へのサポートはあくまで自治体による任意事業扱いなのです。その為、必ずしも実施はされず、軽視されているのです。
もうひとつの高齢者虐待防止法では家族に対し、指導、助言を行うことを明記しています。しかし、これはあくまで虐待を防ぐための措置であり
家族の支援に主眼をおいているものではありません。
現状日本において介護を担う家族への支援を主眼においた法は存在しません。
つまり国としては家族に対し何も対策をうっていないに等しいのです!

厚労省は介護を高齢者が尊厳を持って暮らすために必要不可欠としました。高齢者の方が自分らしく生きられること、それをささえることは必要です。 ではそのために家族は犠牲になっていいのでしょうか・・・
答えはNOです!!そんなことが許されて言い訳がありません!
介護をしている家族もまた尊厳を持った1人の人間です!
その家族の尊重なくして幸せな在宅介護、幸せな家族生活の達成はできないのです!!
【政策】
私は介護を担う家族の支援を実現するため3つの政策を提案します!
1つ、家族支援を主眼においた介護者法の制定
2つ、介護アセスメント制度の導入
3つ、介護者支援策の実施義務化
以上3点です
まず一点目の介護者法の制定についてです。
この法律の制定は介護を担う家族、介護者を支えることを目的としています。
この介護者法はイギリスで介護者にも要介護者のように社会的位置づけを与え、介護を原因に社会から孤立させないよう支援をするという理念のもと導入されました。
この法律を日本でも制定し、介護者の社会的位置づけを明確化するのです。
まず介護者はNPOやボランティアなどではなく無償で、2週間以上継続して介護に従事しているものと定義付け、明確化します。
その上で「介護者も1人の人間であり尊重されるべき存在である」と宣言することで、介護者を支える政策の根拠法の役割を担います。

2つめは介護アセスメント制度の導入です
要介護者は要介護度によって必要な介護の程度が示されています。
これを介護者にも当てはめ、どれくらい介護ができるかの基準を明確化させることを目的とします。
どれくらい介護を続けられるかという介護持続能力の二つの視点で介護度は構成されます。介護者の就労状況、身体状況などを踏まえて介護度を認定します。
介護度を設けることで介護者それぞれにあった支援が可能になります。これで介護における介護者の負担を減らせます。また既に介護に従事している人もアセスメントによって介護者支援の視点が加わることで現状の改善につながります。

最期に介護者支援策の実施義務化です。
これは現状、介護保険法で任意となっている自治体の介護者支援を義務とする目的で行うものです。
現状の介護保険法を改正することでこれを実現します。
支援の対象、程度が明確でなかったこれまでは、介護者への支援を義務にまで高めることは出来ませんでした。
しかし介護者法の制定により、支援すべき対象と程度が明確化したことで義務として支援を行うことも十分可能となります。
このことで、介護保険法の中心となるべきである、家族へのサポートを実施することが出来るのです。
以上3つの政策の実施により介護者の社会的位置づけを明確にし、それぞれの状態に合わせた直接的な支援を行うことで家族の負担を減らすことができるのです!
これまでの要介護者本位の介護政策から脱却し、家族への支援政策を取り入れることで持続できる介護のありかたを生み出せます。要介護者、それを支える家族が幸せな日々を過ごせるのです
【展望】
愛を持って人を支える介護、その担い手である家族を支えてあげえたい。
あの日、母を殺めてしまった男性
「生まれ変わっても母の子どもとして生まれたい」
そのねがいは
家族としてもっと一緒に暮らしたかったねがいが生んだのでしょう。
いたわりの介護で家族が苦しむ、家族の愛が失われる
そんな悲劇はもう繰り返させない!
幸せな在宅介護、幸せな家族生活が出来るように、
家族の愛が、末永く続くことを願って本弁論を終わらせて頂きます。
ご清聴ありがとうございました。



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