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演題 「復旧の、その先へ」

弁士 峯森徹(政2)

【導入-1】
町を襲う津波。見渡す限り、がれきの街。
信じられない、光景の数々。
3.11。あの日のことを忘れることはないでしょう。
あの日、全国に駆け巡った衝撃。
その衝撃に対し、日本中が示した、行動。
ボランティア、物資の提供、募金。
少しでも被災地の力になろう。
その思いが日本中を駆け巡りました。
あなたも、そう思ったはずです。

【導入-2】
その被災地は今、復興を目指しています。その復興の要となるのが、県の復興計画です。
計画では、被災から3年間、今から2年を復旧の期間。それ以降を、本格的な復興の期間としています。

その後の復興のために、重要な3年間の復旧の期間。
その中心となる取り組みががれきの処理です。
震災で発生した、岩手で11年分、宮城で19年分ものがれき。それを、3年で処理しようというのです。

【重要性】
なぜ、がれきを早く処理しなければならないのか。
それは、がれきが復興に必要な土地を占拠してしまっているからです。
処理までの間、がれきを置いておく仮置き場。その仮置き場が、復興の障害となっているのです。

津波対策に重要な海沿いの地域が、仮置き場になっています。流通業や加工業の建設計画。その要となる漁港も、工業港も、仮置き場になっています。高速道路の予定地までもが仮置き場となってしまっているのです。
復興計画に欠かせない土地が、仮置き場になり、使えない。
実際に、防波堤の整備などの災害対策や、漁業の整備、加工業の再開は岩手県の住民アンケートで「重要なのに進んでいない事項」として挙げられています。

住民の求めている、復興を、がれきが妨げている。
その土地を開放し、明日への一歩を踏み出すために。
一刻も早くがれきを処理することが必要なのです。

【問題点】
しかし、今、がれきの早期処理に、暗雲が立ち込めています。
なぜ、がれきの早期処理が出来ないのか。
その問題点は、広域処理の受け入れ先が足りない、ことです。

広域処理とは被災地の能力では処理し切れない分のがれきを、他の自治体に処理してもらうことです。早期処理のため、被災地は約400万トンの広域処理を要請しました。広域処理が上手くいけば、その全てが被災地の外で処理できるはずでした。
しかし、現状受け入れているのは青森、山形、東京の僅か3都県のみ。前向きな自治体全てが動いても、140万トンの処理が限界です。被災地の希望する、半分以下のがれきしか、処理できないのです。

このままでは、2年後も被災地の土地にはがれきが残り続ける。
復興の希望を描く土地、そこにあるのは、2年後もがれきの山だ。
広域処理が進まないことが、復興を遠のかせている。

【原因】
では、なぜがれきの受け入れが進まないのか。
それは受け入れる「住民」と「自治体」という2つの側面から考える必要があります。受け入れには、「住民」と「自治体」の協力が不可欠です。しかし、その両方が、原因を抱えています。
原因はそれぞれ1点。
住民側、放射線の不安があること。
自治体側、焼却灰を処分できない自治体があること。
以上の2つです。

まず、住民の不安について説明します。
この不安は福島から近い岩手、宮城のがれきは放射線に汚染されているのでは、というものです。
環境省の今年4月の調査では受け入れ出来ない4割の自治体が住民理解の必要を訴えています。
不安を感じた住民は、各地で受け入れに反対。受け入れを表明した自治体には、電話やメールで批判が殺到。
受け入れには、住民の不安という壁が立ちはだかっているのです。

次に、2点目の焼却灰を処分できない自治体があることについて。
がれきを燃やした焼却灰。その灰の埋め立てに必要な最終処分場を持たない自治体があるのです。
先ほどと同じ環境省の調査で、約2割の自治体がこの問題を訴えています。
これらの自治体は、がれきを燃やすことはできても、残った灰を処理できません。

以上2点の原因により、がれきを受け入れられずにいるのです。

【政府の政策】
これらの原因の解決の為、政府も対策を打ってきました。
住民理解のために、パンフレットを作成しました。説明会も行っています。
しかし、政府の基準の安全性を強調する方法しか取っていないため、住民の不安を解消することが出来ずにいます。
また、首相自ら、自治体に受け入れを要請しました。
しかし、先の二つの原因から受け入れには繋がりませんでした。

【政策】
政府の政策では、重要な住民の理解は得られません。処分場の問題も解決せず、このままでは広域処理は進まないのです。
そこで、原因を解決するため、住民側、自治体側、計2点の政策を提案します。
住民側、がれきの展示比較の実施
自治体側、自治体と、焼却灰を使う業者のマッチング
以上の2点です。

まず、住民側のがれきの展示比較について。
これは、住民の放射線への不安を払拭するために行う政策です。この政策で、政府の基準値ではなく、住民が自らの手で、安全を確かめることが出来ます。
展示する行為自体も不信の払拭に繋がります。
まず、国の要請で、各自治体にがれきを試しに焼却させます。そして、その焼却灰を、地元のごみの焼却灰とともに展示するのです。展示するのは役所などの公共機関、そこに、放射線測定器を置きます。

この方式は静岡県の島田市で実践され、大きな効果を上げています。
2%程度だった市民からの賛成の声が、実施後には60%にまで跳ね上がったのです。
その結果、島田市は受け入れを決定できました。
この政策で、住民の理解を得、受け入れが可能となるのです。

次に、自治体側の業者とのマッチングについて。
これは焼却灰を埋め立てできない自治体の代わりに、業者に再利用させるための政策です。
埋め立てできず、灰の処理に困っている自治体。一方、セメント、製紙といった産業は焼却灰を原料として使えます。
しかし、自治体には環境省、業者には経産省が交渉にあたっているため、焼却灰の供給と需要が結びつかないのです。これを改め、環境省と経産省が協力し、自治体と業者のマッチングを行います。その調整は、環境大臣と経産大臣が同席するがれき処理の関係閣僚会合で行います。
がれきを焼却する自治体と焼却灰を再利用する業者。このラインを確立するのです。
このことで、焼却灰を埋め立てできない自治体も、受け入れを行うことが出来るのです。

以上2点の政策によって、住民は不安から解放され、自治体は焼却灰の受け入れ先を見つけることが出来ます。そして、多くの自治体が、広域処理に踏み切ることが出来るのです。
このことで、2年後、被災地からがれきが消えます。がれきの山だった土地は未来を描くキャンパスとなるのです。

【展望】
震災直後、駆け巡った、助け合いの波。ボランティア、物資の提供、募金。
あの時、震災は私たちの問題だったはずだ。

私の住む、神奈川もがれき受け入れを表明していた。しかし、住民の強い反対により、未だに受け入れられていない。
がれきの話を聞くたび、悔しさ、不甲斐なさを感じる。

「被災地」。あの日以来、聞かない日はない。
でもその「被災地」は、今、私たちの近くにあるだろうか。
「被災地」はどんどん、遠くへ行ってしまっていないか。
いや違う、被災地は、震災直後も、今も変わらない。
私たちの住む、日本だ。

私は1年前。
震災直後、見たものを信じている。
あの時の、少しでも力になりたいという思い。
その思いがある限り、広域処理も、ほんの少しの条件を整えてあげれば、必ず成功させることが出来る。
被災地が復興に歩みだすために。
あなたの自治体にも、私の自治体にも、出来ることは今もある。

がれきの早期処理を実現し、復旧のその先へ被災地が進む日。
その日の1日も早い到来を願い、本弁論を終わらせていただきます。
ご清聴ありがとうございました。



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