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演題 「Fight against reality」

弁士 内田尚希(政1)

【導入】
毎朝見かけるたくさんのスーツ姿の人たち、彼らはどこに向かっているのだろうか?
働くために職場に向かっているのだ。国民の3大義務である労働に従事する人は日本全国で約6300万人いる。しかし彼らの中には国が保障する最低限度の生活さえもできない人たちがいることを皆さんはご存知だろうか?

【現状】
フルタイムで働いても年収が200万円に満たない人がいるのだ。
統計によれば、彼らは一日に使う食費が500円に満たないという。
中にはご飯にふりかけをかけるだけの食事で生活する人もいる。
また、住居については家賃が払えず、ネットカフェで寝泊りせざるを得ない人や
会社を首になる前に買った車の中で生活している人もいるのだ。
彼らは保険料が払えないので、医者にかかることができないし、年金も払えないので年金を受け取ることもできない。
経済大国日本にもそんな生活をしている人たちが存在する。これが現実だ。
彼らはワーキングプアと呼ばれ、社会問題となっている。
ワーキングプアとはフルタイムで労働していて単身世帯で年収189万円以下、2人世帯で年収294万円以下の人を指す。この数字は生活保護を参考に現代社会学者の後藤道夫氏が示したもので、彼らはおよそ672万人いるとされている。
国民の義務を果たし、一生懸命働いているにも関わらず、彼らは貧しい生活に苦しみ続けている。ワーキングプアの65%は将来に希望が持てず、4人のうち3人は、現在の状況を改善したいと考えている。

一方で、国によって保護されている生活保護受給者はどうだろうか?
自治体によって異なるが、単身の20~40代の男性の場合、住宅扶助などを含め、月に13万円程度支給されている。しかし、東京都の最低賃金は手取りで10万円程度だ。一生懸命働いても、生活保護よりも低い水準で生活せざるを得ない。生活保護はあくまで自立支援のための制度だが、これでは受給者は自立しようとは思わなくなってしまう。
何よりも生活保護を受けずに働いている人たちが余りに不憫だ。働いていない人が働いている人よりも良い生活ができる。働いたら負けとはこういうことだ。こんな理不尽なことはない。
私は労働関係のNPO法人に所属していて、彼らの様子を見聞きしてきたが、彼らは決して自助努力を怠った人間ではなかった。努力をしているのに最低限の生活もできない。
これは明らかに制度が間違っている。この問題は絶対に解決されなければならない。

【問題点】
では、ワーキングプアの問題点は何だろうか?
その問題点は最低賃金が低いことだ。最低賃金が低いことによってワーキングプアは、国が保障する水準の生活、つまり生活保護以下の生活しかできない。
彼らの中には服を2着しか持っておらず、それらを一日ごとに着替える人もいる。
フルタイムで働いても、ご飯にふりかけをかけるだけの食事で生活をし、ネットカフェで生活をする。保険料が払えず、医者にもかかれず、年金も受け取れない。
フルタイムで働いている人が、衣食住も満足に満たすことができない賃金しかもらえないのは明らかにおかしい。最低賃金が低いために、一生懸命働いても、希望の持てない生活をワーキングプアの人々は続けている。

【原因】
では何故最低賃金は低いままなのだろうか?
理由は主に2つある
1,最低賃金を決定する機関が適切に機能していないこと
2,最低賃金を上げることが失業につながること

1点目の最低賃金を決定する機関が適切に機能していない点について説明する。これは、最低賃金の決定に携わる人の人選に偏りが生じていることだ。最低賃金は中央最低賃金審議会において毎年引き上げ額の目安を提示し、それを元に地方最低賃金審議会で議論した結果、地方別最低賃金が決定される。この最低賃金審議会は同数の仲介役の公益代表、使用者代表、労働者代表の3者によって構成される。
しかし、労働者代表が給料の高い大企業の労働組合からしか選ばれていないため、最低賃金の影響を受けやすい中小企業の労働組合委員の要望は反映されず、最低賃金は上がらないのだ。

2点目の最低賃金を上げることが失業につながる点について説明する。これは、最低賃金の引き上げが、企業の雇用を減らしてしまう懸念があることだ。最低賃金を上げるということは一人当たりのコストが増えるので、そうなると企業は雇用を削減し、失業者が増加する。そのため労働者にとっての利益とはならず、最低賃金を上げることには慎重にならざるを得ないのである。

これらの原因が、最低賃金を低いままにし、将来に希望が持てないワーキングプアを生み出している。

【政策】
ここで最低賃金を上げるための政策を2点提示する。
1、賃金審議会の拡大
2、生産効率の上昇
の2点だ。

1点目の賃金審議会の拡大は、偏りのない幅広い人の意見を徴集し、最低賃金を引き上げる目的で行うものだ。
具体的には、これまで参加できなかった弁護士や労働関係のNPO法人、ジャーナリストなどの有識者に賃金審議会に参加してもらう。賃金審議会への参加は厚生労働大臣の認可が必要であるため、参加決定権は厚生労働大臣にある。ワーキングプアの現状を知らない人間がいくら議論をしたところで所詮は机上の空論に過ぎない。
賃金審議会の中でも、最低賃金の上げ幅を決定する中央最低賃金審議会がある。そこの公益代表は2年以内に今生じている最低賃金と生活保護の逆転現象を解消するのが望ましいとしている。しかし、この逆転現象の解消を目指す中央最低賃金審議会の政策では、税金と社会保障費を含んだ給料で考えているので、生活保護費よりも手取りの給料が少なくなってしまう。故に、実際の逆転現象がなくなったとは言えない。
現場を知る人や、多様な参加者が最低賃金を審議することにより、偏りのない最低賃金の決定ができる。
実態を知る人間が参加してこそ、現実に即した制度になるのだ。

2点目の生産効率の上昇は、最低賃金を引き上げた場合に、労働者を雇い止めしないようにすることを目的として行う政策だ。
最低賃金を上げる場合、低賃金労働者がしていた仕事の量が減ることはないため、企業側は労働者に対し、より多くの労働をさせることによって埋め合わせを行う。そのため大量の失業者が出ることはない。これをスピルオーバー効果と呼ぶ。労働者一人あたりがこなせる仕事量が増えれば、企業は高い賃金を支払うことを厭わない。つまり、最低賃金を上げるのに必要なのが企業内教育の拡大である。これは直属の上司が行うものや外部の講師を招いて行うものがある。企業におけるノウハウの伝達や育成を行うことで、労働者はより多くの仕事をこなすことが可能となり、生産効率は上昇する。そのため、企業側も最低賃金の上昇には反対しなくなるのだ。

この政策を打つことによって、最低賃金を上昇させることが可能となる。働いていない人が働いている人よりも良い生活を送ることができる逆転現象が解消され、理不尽な現状は改善される。
このことはワーキングプアの人々の衣食住を十分に保障し、教育や福祉にお金を掛けることもできるようになり、将来に希望の持てる生活を送れるようになる。

【展望】
真面目に働いていれば報われる。そんな当然のことさえもままならない社会であってはならない。未来に希望が持てる社会でなければ、日本は衰退する一方だ。
最低賃金を上げ、弱者を救うことこそが日本を強くする最大にして、唯一の方法なのだ。
現実とは理不尽なものだ。しかしだからといって放置していいことにはならない。
この理不尽な現実を打破してこそ、明るい未来は訪れるのだ。



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