明治大学雄弁部 - 活動記録
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演題 「環流」

弁士 木佐貫彩夏 (政経2)

【導入】
人々は昔から、自国にはない知識や資源・労働力を求め、海を渡って行きました。
それは現在も変わりません。今日の日本企業もまた、新興国の成長市場を求め、海を渡っています。
しかし、日本にもたらされるはずの利益もまた、海の向こうに流れて行ってるのです!

【現状】
本来ならば、海外で稼いだお金を国内に還流して、研究や設備投資を充実させ、国内産業の高度化と雇用の増加を行います。
例えばアメリカでは、国内へ環流されるお金を増大させて失業率を改善させましたし、イギリスでは、還流させたお金を設備投資に用い、金融立国として確立させました。
安価な労働力に負けてしまう先進国は、企業を海外に進出させ、その収益を国内産業の高度化につなげています。これが今の日本にも必要です。

しかし日本は現在、海外に投資した額に対し、国内に還流する額の割合が、低い現状にあります。
欧米は約10%程度であるのに対し、日本はその半分の、約5%に留まっています。
もし日本が今、欧米並みの水準を達成すると、20兆円ものお金が国内に入ってくる計算になります。

現在、海外進出する企業の割に国内に戻ってくるお金の額が少なく、還流の形が出来ていないのです。
実際、企業の海外流出に伴い、ここ15年で国内就業者数は約500万人減少し、輸出額は30兆円分海外に流れました。生産額にいたっては、去年1年間だけで、1兆円も奪われているのです!

日本企業の海外生産比率は、20年前の3%から再来年には約40%にまで拡大する見込みです。
もし海外に企業が流出した場合、その分国内に儲けを還流させ、国内産業を拡充してその分を補わなければなりません。しかし、今のままでは、損失をする一方なのです。
これが、日本の現実です!

企業と一緒に利益が一方的に海外に流れてしまう、そんな現実を私は変えたい。私は、企業が海外に出た分、更に日本に利益が帰ってくる。そのような還流を作りたいのです。

【問題点】
では何故、国内に還流されるお金を増やせていないのでしょうか?
それは、「サービス産業の海外進出が進んでいない」という問題があるからです。
製造業に比べて収益率の高いサービス産業が海外進出していないことで、国内に還流されるお金の割合が低くなっているのです。

実際、製造業の収益率が20%程度であるのに対し、サービス産業の収益率はその2倍の40%もあることから、サービス産業の収益率が高いことが分かります。
今まで述べた「国内に還流されるお金」とは、即ち株式の配当のことです。
海外支店を創設する場合、企業は創設資金として株式を発行します。企業が儲けたことで生じる株式の配当金、これが国内に還流するお金の正体です。
原材料で費用がかさむ製造業に比べ、そうしたコストの少ないサービス産業の方が、収益率は高くなります。よって、収益率が高い分、配当金として国内に還流するお金が多くなるのです。

しかし、日本の製造業や欧米のサービス産業が20%以上現地生産されているのに対し、日本のサービス産業はわずか3%。しかも、その値が10年もの間ずっと横ばいのままです。
要するに、日本は収益率の低い製造業しか海外に進出していないため、配当として国内に還流されるお金も少なくなってしまうのです。
そこで、収益率の高いサービス産業を海外に多く進出させ、日本に還流する割合全体を上げる必要があります。

【原因】
日本のサービス産業の海外進出が遅れている原因は以下の2点です。
1点目が、サービス産業の「同時性」という特性
2点目が、海外で指導を行う人材の不足
です。

まずは1点目、サービス産業の「同時性」という特性 について説明します。
サービス産業は、消費と生産とが、時間的にも地理的にも同じ所に位置せねばならない「同時性」という特性があります。そのため、市場の開拓と生産体制の構築を同時に行う必要があるのです。
製造業は、製品の輸出によって先に市場を開拓し、そこで成功を収めてから生産体制の現地化に取り組むことができます。段階的に海外に進出することで、海外に支店を立てる前に、精密な市場調査や市場開拓を行えるのです。
しかし、在庫という形でサービスを保管・移動させることが難しいサービス産業では、製造業のように成功できるか見極めることが難しくなります。よって、製造業に比べ、サービス産業は海外進出が難しいのです。

続いて2点目、海外へ指導に行ける人材の不足 について説明します。
一般的な海外支店設立の流れとしては、(1)日本から人材を派遣(2)現地で人材育成を行う(3)現地の社長の下、独り立ち となります。
しかし今、現地で育成を行う人手が足りない状態にあるのです。
経済同友会のアンケートでは、サービス産業における海外進出の弊害として、7割の企業が「現地に派遣できる人材不足」を挙げています。
このことから、日本から人材派遣することが出来ず、現地での人材育成や業務ノウハウの移転・共有化ができなくなっているのです。
これが、海外進出が進まない1番の理由です。
海外へ指導に派遣する人材が不足しているのは、ほとんどが中小企業です。中小企業はその規模により、海外に指導に行かせる人手や、それだけの能力を持つ人材が少ないのです。

サービス産業の特性と人材不足が、サービス産業の海外進出を難しくしています。

【政策】
以上の原因に対して、わたしは以下の2点の解決策を提案します。
1つ、中小サービス事業者の個別支援
2つ、外国人研修制度の改正
以上の2つです。

まず1つ目の、中小サービス事業者への個別支援 について説明します。
「同時性」という原因を解決するためには、精密な市場調査により、その企業が成功するという確固たる道筋が必要です。
現状、政府が行うサービス産業の海外移転促進策は、融資の他に、ジェトロが行った現地調査を、要望に応じて開示することだけです。
製造業のように、自社の製品を輸出し、個別具体的な市場調査が出来る製造業に対し、これではあまりに包括的すぎて有用ではないのです。
そこで、現地調査に基づき、この地域ではこの産業・この企業なら成功するだろうという研究を中小企業庁がジェトロや民間のコンサルタント会社と結託して行います。
そして、政府から能動的に、そのような企業に声をかけていきます。こうして海外展開のノウハウも個別対応で伝授・誘導することで「同時性」というハードルを越えることができるのです。

続いて2つ目の、外国人研修制度の改正 について説明します。
現在日本では、外国人研修制度を設け、将来現地で働く海外の労働者を一時的に日本で教育を行っています。この制度により、国からビザが下り、商工会議所が日本国内に研修場所を手配してくれます。
そのため、わざわざ海外へ教えに行く必要がなく、指導員不足に悩まされることもありません。
しかし、製造業に比べ海外進出が進んでいないサービス産業は、外国人研修制度の受け入れ対象となっていないのです。
そこで、今後のサービス産業の海外進出を進めるために、製造業と同様、サービス産業に就労する外国人にもビザを与えられるようにします。 
そうすれば、国内での人材育成ができるため、海外へ指導に行く必要もなく、人材不足という原因を打ち消せます。
以上の政策で、「同時性」と「人材不足」という原因を取り除けます。そして、収益率の高いサービス産業の海外進出が進み、海外から国内に戻ってくるお金の量が増えるのです。

【展望】
海の先には、目覚ましく成長する国々があります。それにつられ、日本企業は海外に流れていきます。
我々はそれを、指をくわえて見ているだけでいいのでしょうか。
海外の目覚ましい成長を利用して、お金を国内に還流させる。この、私の理想とする「還流」の経済が実現することで、流れに左右されない、より安定した日本経済になるのです。
ご静聴ありがとうございました。


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