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演題 「悲しみをなくす」

弁士 浅沼駿孝 (法2)

殺すしかなかった。女子中学生が自宅のトイレで子供を出産し、自分の部屋まで連れて行き殺してしまった。母親は言う。まさかわたしの娘が妊娠しているなんて思わなかった。母親は、娘の体が変わっていく様子がわからなかったのだろうか?女子中学生は、10ヶ月の間だれにもいえなかった。親にも友達にも。彼女はどんな思いで過ごしてきたのか。孤独であっただろう。悩んだ末に自分の子供を殺し、警察に連れていかれてしまった。彼女は罪を背負い子供は未来を奪われた。
命は一人一人持っているもの。子どもたちは生きる中で幸せを感じ、苦労を経験する。しかし、それもままならずに奪われてしまっている子どもたちがいる。それも、親の手によって。私たちはそのような子を守るべきである。なぜなら、私たちは幸せを感じ、苦労することができる、未来を作ることができるのだ!しかし、何も感じ、何もできぬまま死んでしまう子供がいる。だから、わたしたちが、未来を歩めていない子供たちを積極的に救うべきだ。
親は子供を育てる。もちろん、親にも子を育てられない様々な理由を持っている人がいるだろう。しかし、そんな人に、「子供は自分で育てるべきだ。責任がある。」と追い詰めていいものだろうか? 私はそこに疑問を持つ!母親を苦しめ、子どもの未来を奪い、悲しみをもたらすだけの社会ではないか。そんな社会を作ってはいけない。

そんな悲しみはなくすべきだ!

殺害を防げれば、母と子が、これからともに人生を進むではないにせよ、未来をつくることができる。

わたしは、このように未来を絶たれてしまう子を救い、未来を作ってあげたい。同時に母親となるものが、わが子を殺してしまうような状況から救いたい。
これが、この弁論の目的である!

ところで、新生児殺害とはどういうものなのだろうか。
ここでは、生まれて一歳未満の子供を殺害することをさす。犯行に至るのは主に母親である。
現在、このように生まれて一歳未満の子どもを殺す件数は警察庁の≪犯罪統計書≫によると、検挙数はここ5年間、25件前後で推移している。犯行件数のうち、3割は未成年、7割は成年によるものである。
殺害動機は、ここ三年間の統計によると、子育ての悩み15人、生活苦が11人、精神異常や、戸籍に載せたくない等の理由が26人となっている。

新生児殺害を生んでしまう理由は二つ挙げられる。
まず一つ目に、母親は望まない妊娠を隠してしまう傾向にある事
二つ目に、相談しようにも、適切な相談を受けられない事
の2点である。

一つ目の、妊娠を隠してしまう傾向、という点であるが、弁論冒頭にもあったように、望まない妊娠をしてしまった場合母親は、周囲に知られたくないと考えてしまい、妊娠している事を隠してしまう。
そして、出産してしまった事実を知られたくないために殺害にいたってしまう。

二つ目に、適切な相談を受けられないという点についてであるが、
仮に望まない妊娠をしてしまった場合、母親は相談場所として児童相談所が考えられる。

しかし、現状では児童相談所が適切な相談に応じられていないのである!
というのも、児童相談所は、養護、保健、心身障害、非行、育成相談など幅広く相談することはできるが、望まない妊娠に対しての悩み相談には、専門のスタッフがいないため、適切なアドバイスができないのだ。

しかしながら、これらに対して有効な手段が一つ存在するのだ!

それが、赤ちゃんポストである!

赤ちゃんポストとは、現在、熊本県の慈恵病院に設置されているもので、出産してしまった子どもを預ける事ができる施設である。

こうした、赤ちゃんポストの特徴は、次の二点だ。

一点目、子どもを預け入れる際に匿名性が保たれている点
二点目、母親が望まない妊娠による相談が可能な点

まず一点目の匿名性についてである。
赤ちゃんポストには、人目につきにくい場所に赤ん坊が通るくらいの扉を設けてあり、そこから赤ん坊を預ける事が出来る。
さらに、赤ん坊を預けたとしても、後に引き取る事ができるのだ。
つまり赤ちゃんポストは望まない妊娠をした母親が名前を明かすことなく預け入れることができるのである。

次に二点目の望まない妊娠による相談が可能な点であるが、
赤ちゃんポストは、主に望まない妊娠をしている母親を対象としているため、このように望まない妊娠による特殊な相談内容にも対応することができる。

以上ニ点のような特徴があるので、あかちゃんポストは新生児殺害を防ぐことに適しているのだ。
つまり、誰にも知られたくない、相談しても効果があるアドバイスを貰えない、そのような母親を、赤ちゃんポストがあることで、誰にも相談しない母親に、救いの手を伸ばすことができるのである!

このように、赤ちゃんポストは苦しむ母親を救い、新生児殺害を防ぐ事が出来る。

しかし今、こうした赤ちゃんポストをめぐる大きな問題が存在する。
その問題が「赤ちゃんポストの数がほぼ皆無である」ということだ。
と言うのも現在、赤ちゃんポストは、熊本県にある慈恵病院のなんと一か所しかない。

赤ちゃんポストが広がっていない事で、専門のスタッフによる相談を受けることができず、母親は苦しんだままとなっている。しかも、全国に普及していないため、赤ちゃんを預けたくても預けられない。その結果、全国で新生児殺害を引き起こしてじまっているのだ。

ではなぜ、赤ちゃんポストは必要とされているにも関わらず、全国に広まらないのだろうか!?

その原因は、2つ考えられる
一つ目に、法の定義があいまいなこと
二つ目に、コストがかかること

一つ目に、赤ちゃんポストの法の定義があいまいなことというのは、厚労省が赤ちゃんポスト設置に関する法律を策定していないがために、明確な設置基準や手続きができないのである。

二つ目のコストがかかることであるが、現在の赤ちゃんポストは病院が1千万ほどの維持費と、県と国が折半による年間約1億円ほどの費用がかかっている。各都道府県の財政がひっ迫している今、一つの自治体でこの財源をねん出するのは、困難が伴う。
このコストの大きさが、赤ちゃんポストが全国に普及しない原因となっているのだ。

これらの原因に対する解決策として、二点の政策を提示する。
一つ目、安全基準を満たした施設への赤ちゃんポスト設置を認可する法の整備
二つ目、全国の各ブロックごとの赤ちゃんポストの配置

一点目の安全基準をみたした施設へのあかちゃんポスト設置を認可する法の整備は、赤ちゃんが生命を維持できるだけの気温と場所が確保され、それを管理する人が定まっていることを条件に、赤ちゃんポストの設置を許可する法律である。
この法律策定により、赤ちゃんポストの安全基準や設置基準が明確になり、赤ちゃんポストの普及へつなげることができるのである。

二点目の、全国の各ブロックごとの赤ちゃんポストの設置だが、一つの県で負担をするのではなく各県が少しずつ負担し合うことで、施設運営に関するお金に関しての懸念はなくなるものと思われます。

さらに、児童相談所では、受けきれない相談でも専門性のある、新生児相談室が広がりを見せることで、妊婦ならではの相談に乗ることが可能になります。

わたしは新生児を救う最終手段である赤ちゃんポストが各地方にあることにより、こうしたシステムでしか救えない命を救える未来にしたい。
母は望まない子を出産し子を殺す。母は罪を背負い今後生きていく。子は未来を奪われてしまう。赤ちゃんポストの広がりにより、子供は無限の可能性を秘めた未来を歩むことができる。
母親はこの未来を奪うことなく、自らの未来を歩み
社会は、母がやむなく育てられないのであれば、皆で社会で育てようと考えられる社会になる
そんな寛容な未来を期待し弁論を終了する。

ご清聴ありがとうございました。


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