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演題 「志願兵」

弁士 佐藤柊平 (農2)

【導入】
3月11日の東日本大震災。皆さんは、テレビに流れる被災地の映像を見て、何を思っただろうか。
私はじっとしていられなかった。少しでも被災者の力になりたい。
そんな思いで、私は震災後1カ月間、ボランティアとして実家のある岩手県一関市から陸前高田市と気仙沼市に通った。
家を流され、最愛の家族を亡くし、見る影もなくなった故郷に、人々は肩を落とし、涙を流していた。
そんな彼らの前に残っているのは、おびただしい量の瓦礫と泥の山。心の整理もつかず、今日を生きてゆく事が精いっぱいの彼らには、どうすることもできない。
そんな被災地で被災者一人一人の要望に応えられるのが、「被災者の役に立ちたい」と駆け付ける志願兵、すなわちボランティアである。

【重要性】
災害時、自衛隊や消防が、行方不明者の捜索やインフラ整備等のハード面を担う一方で、ボランティアは支援物資の仕分けや運搬、瓦礫・泥の撤去、炊き出し等のソフト面を担っている。
また、ボランティアは無償性と利他性を重視するため、無償で多様な被災地のニーズに応えてくれる、というメリットがある。
何より「支援をしたい」ボランティアと、「支援を必要とする」被災者が結びつく事によって、お互いがWINWINの関係になれるということが、ボランティアの大きな意義でもある。

このボランティアと被災者を結びつける役割を担っているのが、社会福祉協議会だ。
社会福祉協議会は災害時、ボランティアを仲介する災害ボランティアセンターを設置し、避難所のニーズ把握や、ボランティアの受け入れ業務全般を行っている。
社会福祉協議会を仲介することで、ボランティアと被災者が結びつき、お互いをWINWINの関係にすることができるのだ。

【問題】
しかし今、被災地全体でボランティアをめぐる、大きな問題が発生している。
それが
1点目、ボランティア数の不足
2点目、ボランティアの偏在
3点目、被災地の社会福祉協議会の孤立
の3点だ。

まず1点目の「ボランティア数の不足」は、現在、被災地全体のボランティア数の不足が1万人近くいることである。ボランティアと支援を必要とする被災者が1万人近くも結びついていなければ、その分被災者の負担は減ることはない。
ボランティア数が不足すれば、瓦礫や泥も片付かず、物資の仕分けも進まない。これでは復興どころの話ではない。

次に2点目の「ボランティアの偏在」は、自治体ごとでボランティア数の格差が出ている事である。震災後、宮城県石巻市では多くのボランティアが駆け付け、ボランティアの受け入れ制限を行った一方で、そこから約40キロの岩手県陸前高田市では、毎日500人ほどのボランティア不足が生じており、自治体ごとにボランティアの偏在が生じている。
これによって、瓦礫や泥の片付き具合や支援の度合いに格差が生まれているのだ。

3点目の「被災地の社会福祉協議会の孤立」は、震災によって社会福祉協議会の業務が増え、ボランティアの受け入れまで手が回らなくなっていることである。
岩手県の場合、沿岸部10市町村のうち4市町村でボランティアの受け入れに支障が出ている。社会福祉協議会自体が、震災で人的にもインフラ的にもダメージを受けているため、十分なボランティアの受け入れができない。
結果的に、ボランティアと支援を必要とする人が結びつくこともない。

以上の問題から、支援したくてもできない、人手を必要としているのに支援が来ない、という両者にとってマイナスな状況に陥ってしまっている。

【原因】
これらの問題を生む原因は、以下の3つにあると考える。
1点目、仕事や学業への従事
2点目、ボランティアへの情報不足
3点目、社会福祉協議会の協力体制の不備
の3点だ。

まず1点目の「仕事や学業への従事」は、社会的にも時間的にも、ボランティアだけに従事できない環境にあるということである。
5月15日に横浜で開催された震災シンポジウムでも、200人中150人もの人が「仕事や学業の都合でボランティアに行けない」というアンケート結果が出た。
こうした点から、ボランティアに行くことのできる人は極めて限定的であり、ボランティア数の不足という問題を生んでいる。

2点目の「ボランティアへの情報不足」は、どの市町村でどういうニーズがあり、何人のボランティアが不足しているかという情報がボランティア側に伝わっていないため、ボランティアの偏在という問題を生んでいる。確かに現状、全国社会福祉協議会で一括した情報は得られるが、行く場所は個人の自由となるため、結果的にボランティアの数が偏在してしまうのである。

3点目の「社会福祉協議会の協力体制の不備」であるが、災害によって現地の社会福祉協議会に仕事が集中しているにも関わらず、近隣の社会福祉協議会がそのバックアップをできていない。
現地の社会福祉協議会に普段の業務、プラス避難所のニーズ把握やボランティア受け入れ等の仕事が集中し、ボランティアの十分な受け入れができない。仕事が集中することで対応が追い付かず、社会福祉協議会は機能不全に陥ってしまうのである。

【解決策】
では、これらの問題を解決するにはどうしたらいいのだろうか。私は、3点の政策を提案する。
1点目、企業や大学のボランティア休暇導入
2点目、ボランティア登録制度の確立
3点目、社会福祉協議会連携協定の締結
の3点だ。

まず1点目の「企業や大学のボランティア休暇導入」は、ボランティア希望者が行き先の社会福祉協議会で、ボランティア従事の証明書をもらうことを条件に、所属している企業や大学から1週間の休暇を取得する制度である。多くの人々がボランティア休暇を取得することで、現地のボランティア数を増やし、より多くの被災者の要望に応えられるようにするのである。 

そして、ボランティア休暇を取得した人々を被災地の要望に応じて派遣するのが、2点目の「ボランティア登録制度」だ。
これは、各市町村の社会福祉協議会を束ねる「全国社会福祉協議会」に災害ボランティア登録をし、被災地のニーズや必要とする人数に応じて、ボランティアを振り分ける制度である。
具体的には全国社会福祉協議会が、各市町村の社会福祉協議会からの要望を受け、必要な人数を振り分ける。
このことで、特定の時期や曜日にボランティアが集中することなく、常にボランティア数を保つことができるのである。

最後に、3点目の「社会福祉協議会連携協定の締結」であるが、これは、災害時に仕事が集中する現地の社会福祉協議会の負担を減らし、一刻も早いボランティアの受け入れを行えるようにする目的で行うものだ。
具体的には、現地の社会福祉協議会にしかできない避難所のニーズ把握以外の、ボランティアの受け入れや仕事の分担を近隣の社会福祉協議会が行い、ボランティアを送迎する。
現地で行う必要がある仕事とない仕事を分けることで、現地の社会福祉協議会は、避難所や被災者のニーズ把握に徹することができ、負担は大きく軽減する。

以上の政策により、今起きている東日本大震災のボランティア問題を解決するだけでなく、今後起こりうるあらゆる災害の際、ボランティアと被災者を結びつけることができるのだ。

【展望】
ボランティアの語源は志願兵である。
震災から2カ月以上が経った今でも、多くの人々が支援を求めている。
「支援をしたい」ボランティアと「支援を必要とする」被災者が結びつき、お互いがWINWINの関係になる。これは素晴らしいことである。
このことが被災者を救い、復興へ向かう希望へとつながるのではないだろうか。
また、こうした制度を整えておけば、今後起こった災害でも、全てのボランティアと全ての被災者を結びつけることができる。
そう。ボランティアの力と、それを発揮させる仕組みが必要なのだ。

今後、多くの志願兵と支援を必要とする人が結びつくことを願って、本弁論を終わらせていただきます。
ご清聴ありがとうございました。


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