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演題 「壁を乗り越えよ」

弁士 佐藤柊平 (農1)
(導入)
 日本の農業は素晴らしい!農家の高い技術力、品質の良さ、これらは世界NO.1とも言われており、我が国にとっても誇るべきものである。
 それだけではない。農の営みが生み出す里山や農村の情景は、我々の心を癒し、安らぎを与えてくれる。連峰の山々を映す春の水田、金色の海がごとく輝く秋の里山。
 こうした美しい情景や高い生産技術、高品質の農産物を生みだしてきたのは、まぎれもなく日本の農家である。
農家のとてつもない苦労と汗と涙の上に、今日の農業があり、我々はその豊かな恩恵を享受できるのだ。

 しかしながら一方で、日本農業は弱いと言われ、補助金漬けとなっている現実、加えて押し寄せる貿易自由化の波と、国際的な農産物の価格競争。
こうした現実と迫り来る課題に対して、あらためて日本農業のあり方が問われている。

本弁論の目的は、補助金漬けではない「自立した農業」という産業を確立し、日本農業を国際的な農産物貿易競争にも耐えうる産業とすることにある。


(導入:現状等)
 その具体策として現在、海外市場に目が向けられている。経済成長著しいアジアを筆頭に、巨大な食料マーケットが存在する。外国の農産物輸入量は、この10年の間にベトナムで14倍、フィリピンで7倍、中国で5倍も増加している。

また、世界の日本食レストランもここ5年間で2倍の約5万店に増加しており、さらなる日本産農産物の需要が見込まれる。

その市場規模の大きさ、需要の多さからみても、農産物の対外輸出に、日本農業が生き残るための可能性があると言える。 


(問題)
 しかし現状、日本産農産物の輸出を積極的に行えない2点の問題が存在する。

1点目が、日本農産物の価格が高いこと。
2点目が、小さな単位で細々と売り込みを行っていること。

である。

まず1点目の「日本産農産物の価格が高いこと」であるが、日本の農産物は全般的に高価格である。農林水産省が海外で行った日本産農産物に対する意識調査でも「価格が高い」というのが最も高く、これが日本農産物のネックになっているのだ。

そして2点目の「小さな単位で細々と売り込みを行っていること」であるが、現在、日本の農家が海外市場に売り込んでいるケースは一部のブランド品のみで、極めて稀である。

また、その事業主体が個人や都道府県という細かい単位であり、海外市場で日本の農産物が食い合いをし、過当な消耗戦を生むだけとなっている。
以上の2点が、海外産に勝てず、日本産農産物を積極的に海外輸出できない、という問題を生んでいる。


(原因)
 では、こうした問題を発生させてしまっている原因は何なのだろうか。

 それは、産業構造における以下の3点にある。

1点目、規模拡大化がされないこと。
2点目、多額の補助金の投入。
3点目、農産物を輸出する機関やシステムの不備。

の3点だ。

まず、1点目の「規模拡大化がされないこと」であるが、これは日本農業の産業構造が深く関連している。その特徴が「零細性」と「分散性」であり、一人当たりの農家の耕作面積は極めて小さことにある。
それは、産業構造として、65歳以上の高齢従事者が6割を占めており、世代交代が上手くなされていない事が挙げられる。歳を取れば、当然、農作業はきつくなり、次第に耕作できる面積も少なくなる。  
必然的に作業効率が落ち、規模拡大化どころの話ではない。
結果的に「高い生産コスト」となってしまい、それが価格にも反映されてしまう。このことが日本産農産物の価格の高さを維持してしまう原因となっているのだ。

次に、2点目の「多額の補助金の投入」であるが、現在、日本の農業分野には、およそ470種類、約4兆円の補助金が投入されている。
その代表格が「減反政策」である。これは農家が減反を守った分だけ補助金がもらえるため、この政策で、農家の規模拡大化の意欲や、自立意識を阻害してしまっているのである。
 このことで、結局経営面における規模拡大化はできず、農家は補助金に依存したままで、高い農産物価格を維持してしまっている。

そして3点目の「農産物を輸出する機関やシステムの不備」であるが、現在、日本の農産物流通は、約9割が農協の市場であり、売り込み対称も「国内」に限定されている。
そのため日本農業は、内向きで閉鎖的な性質を打開できずにおり、巨大市場を目の前にして積極的な海外輸出ができない、という問題を生んでいる。

 これら日本農業における産業構造の原因が、日本産農産物の海外輸出を阻んでしまう「壁」である。
 そして、この「壁」を乗り越えた先に、補助金に頼らない「自立した農業」が待っているのだ。


(政策)
 では、どうすればこの「壁」を乗り越えることができるのだろうか。
その解決策として私は、以下の3点を提案する。

1点目、地域ごとの従事者支援システムの確立。
2点目、農協の解体と全国作物別農業組合の設立。
3点目、生産調整の政策主体の移行。

の3点である。

まず1点目の「地域ごとの従事者支援システムの確立」は、世代交代を促し、生産効率を上げることと、コスト削減を目的としたものである。
この政策は、大規模経営のできる若手農家が耕作を引き受け、高齢な農家は、相談役あるいは技術指導員として生産に関与するシステムを構築するものだ。これに、減反政策に使っていた財源を配当金として振り分け、所得を保障することで、高齢従事者には引退してもらう。
 このシステムの導入で、パワフルな若手従事者が経営面において大規模耕作を行い、ノウハウのあるベテラン従事者がそれをサポートするという、新たな体制が整うのである。

ここで、農業従事者の世代交代が促されれば、作業効率の良い若手農家に農地は集まり、経営面においての規模拡大化が実現する。配当金は、引退し相談役に回っていた高齢従事者が亡くなるといらなくなるため、段階的に削減もできる。

 次に2点目の「農協の解体と全国作物別農業組合の設立」は、農協を解体し、作物別にマーケティング戦略を立てやすくする目的で創設するものである。
 具体的には、1作物メーカーとして全国の農家が集結して出資する。主な機能として、

マーケティング調査
生産調整
国内外の企業や政府とのビジネス協定の締結
ブランディング

を行う。

作物別にマーケティング調査をすることで、作物ごとの市場戦略や売り込み対象を明確にしやすいというメリットがある。
作物別マーケティング調査に基づき、品質基準・価格設定をする。そして、ブランド力を活かせる市場には付加価値の高い農産物を。価格競争の激しい市場には、安い農産物を。というように、今後、日本農業が全面的に、国際的な農産物貿易競争という局面に立たされたとしても、柔軟な対応を可能にするのである。


そして、3点目の「生産調整の政策主体の移行」であるが、これは、規模拡大化をし、コスト削減と米価引き下げを目的としている。
具体的には、政府の減反政策を廃止し、耕作面積の拡大を促す。減反をやめると米価は9500円ほどに下がるとされており、中国産やアメリカ産の米とも渡り合えるほどの価格になる。
 このくらいの価格になれば、消費者にとってもメリットがあり、国際競争においても有利に働く。
また、その後の生産調整の決定は作物別農業組合に移譲する。農家が運営する作物別農業組合の方針で価格維持や引き下げも自由となり、農家にも都合が良く、メリットである。

 以上の政策で、日本農業において経営面の効率化や規模拡大化が行われ、価格は下がる。
そして、国内向け・海外向けを問わず、ビジネス展開の可能な、新たな日本農業の構造・システムが再構築されるのだ。


(展望)
国際的な農産物の貿易競争が始まろうとしているが、日本農業は「弱い産業だ」とされがちで、閉鎖的で国内に籠ったままだ。
しかし、そのブランド力や品質、安全面を見ても、実はもっと世界に羽ばたける産業である。
世界規模の競争することで、日本の農家も、農産物の品質や経営ノウハウもさらに成長するだろう。


日本農業の成長のために「壁」を乗り越え、世界に打って出ようではないか。今こそ、日本の農業がさらにもう一歩前進し、補助金漬けの農業から「自立した農業」へと生まれ変わる絶好のチャンスなのである。

ご清聴ありがとうございました。

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