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演題 「La ligne de commencement」

弁士 秋元博 (営1)

(導入)
あなたの人生で最初の教師は、中学校の先生、小学校の先生、はたまた保育園の先生ですか?いえ、違います、それはあなたの両親です。こどもは両親の教育を公教育よりも先に受けます。そのためこどもは家庭の教育が前提となって、公教育を受ける姿勢を作り上げるのです。

また教育の本来の目的とは、こどもの可能性を最大限に引き出すことです。しかし現状において家庭の教育のせい子どもの可能性が狭められています。つまり子どもの学習意欲というものが失われているのです。しかもこどもは親を選ぶことはできません。生まれてくる家庭によっては、こどもはその可能性を十分に発揮できなくなるのです。

ところで皆さんは文化資本という言葉をしっていますか?文化資本とは、フランスの社会学者ブルデューの提唱した言葉で、世代間で受け継がれる文化的な遺産のことです。これには3つの種類があります。1つ目は行動の仕方、話し方、ものの好みなどの身体化された文化資本、2つ目は絵画、書籍などの客体化された文化資本、3つ目は学歴や資格などの制度化された文化資本です。



そして家庭環境におけるこの文化資本の量がこどもの学習意欲を左右します。この結びつきとしては3通りあります。つまり1つ目の身体化された文化資本では、親の趣向や考えなどを教養という形で子どもが模倣し、吸収します。2点目の客体化された文化資本では、本や絵画などが知的好奇心を触発します。3点目の制度化された文化資本では、親が学歴や資格などを持っていることにより学習の重要性がこどもに教えられます。よってこれらが欠如した場合、こどもは学習に興味を持てなくなるのです。

たとえば高校生の学習時間の調査では、所得の高い職業の親をもつほど、学校外での学習時間が長くなります。これは3つ目の制度化された文化資本と関係します。

また親の普段の行動と子どもの学力の関係では、親が家にたくさん本がある、クラシックのコンサートへ行く、と答えた家庭の子どもの学力が高いのに対し、カラオケへ行くと答えた家庭の子供の学力が低かったのです。これは2点目の本などの客体化されたもの、親の好みといった1つ目の身体化された文化資本と関連します。

つまり、文化資本によって子どもたちの間で学力に差が出てくるのです。

(現状/重要性)

そして現状では文化資本を通して、教育格差と経済格差の間に負のスパイラルがおこっているのです。

たとえば中卒・高卒と大卒の年収の差や、大学間での入試難易度と就職先の企業の規模がつながっています。これは教育格差と経済格差に相関があるということです。

また、親がホワイトカラー職の場合、子供の7割強がホワイトカラー職であり、親がブルーカラー職の場合子どもの6割弱がブルーカラー職となっています。

つまり経済的な階層が固定化しているのです。

(理想)
本弁論における私の理想は、すべての人が学習意欲を持つ機会を与えられ、それによって所得などの経済的な階層の固定化を防ぎます。そして子どもが親から自立する前のスタートラインの平等化を目指します。つまり経済を獲得する競争が始まる前の条件を公平にします。

(政府の対策)
ここで政府の対策について述べたいと思います。たしかに政府は現在奨学金、高校義務教育の無償化、また地域によっては、無料で課外特別授業などを行っています。これは経済的な要因で教育を受けられない人たちを対象としています。

しかし、ここには文化資本という観点が抜け落ちているのです。

文化資本は学習意欲に影響します。それゆえ機会が平等に与えられていてもそれを利用しない、または利用しても効果的でないということが起こります。

平成19年の高校中退者を理由別にみた場合、進路変更と学業不適応という理由が6割を占めました。これは具体的には高校生活に熱意がない、や授業に興味がわかないという理由です。それに対して経済的理由による中退は3.6%と低く、そのため政府の対象としている経済的な理由から学校へ通えないという子どもの数は少ないのです。

よって政府の政策は家庭の文化資本を前提とし、かつそのあとで公教育の機会を拡充させるべきなのです。

(伝承プロセス)

そしてここで経済格差と教育格差が連鎖するメカニズムを詳しく述べたいと思います。

さきほどものべたように文化資本の差が、こどもの学習意欲に影響し、そこから学力の差へとつながります。そして学力の差は就職の際におこなわれる選抜によって、職業や所得の差につながります。つぎに所得は書籍や絵画といった客体化された文化資本の量、職業は資格などの制度化された文化資本や教養といった身体化された文化資本につながります。つまりここから最初の地点である文化資本の格差にもどります。

つまり簡潔に言うと、文化資本の格差から学習意欲の格差をとおして経済、職業の差へつながり、また文化資本の格差へつながるということです。

よって、根本原因であるこの文化資本に手を打つことで、この負の連鎖が改善されると考えられます。

(政策)
以上の分析を踏まえ、ここで私は2点の政策を提言したいと思います。1点目は親の文化資本への意識向上活動、2点目は客体化された文化資本のクーポン制度の導入です。


まず1点目の親の文化資本への意識向上活動について説明いたします。子供が1番最初に教育を受けるのは親なので、子供は親の文化資本の影響をもっとも受けやすいのです。したがってここで親に文化資本というものを認識させる必要があるのです。現状のPTAで教育の仕方は話されますが、文化資本を意識したものではありません。具体的には各自治体や学校のPTAの集会で、学校側が親に文化資本の重要性を説得します。それにより親が文化資本を前提とした教育を行えるようにします。

つぎに2点目客体化された文化資本のクーポン制度の導入について説明します。書籍や絵画などの客体化された文化資本は、家の経済状況によって取得できるかどうかが左右されます。つまり貧困世帯はこれを手に入れにくいのです。この世帯間の客体化された文化資本の格差をなくすため、就学援助を受給している世帯に、書籍や美術館への入場券などのクーポンをあたえます。これにより、貧困世帯のこどもでも書籍や絵画に多く触れられることで、かれらの学習意欲を養います。

(展望)
以上2点の政策により、文化資本の格差を改善し学習の学習意欲の格差を是正します。つまりこどもたちが教育を受ける際の公平性を実現します。それにより職業、所得などの経済的な階層の固定化を防ぎます。


(終わり)
演題はフランス語でスタートラインという意味です。文化資本が生まれてくる家庭で差がある、というスタートラインが違う競争は本当の自由競争ではありません。またそれによって格差が継承される社会も正常ではないでしょう。教育は本来格差を是正するものでもあります。しかし、教育自体に格差が生じてしまっていいのでしょうか?スタートラインの不平等を是正するという、正義をつらぬくことはわれわれの責務なのです。

ご清聴ありがとうございました。

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