このページを閉じる
演題 「働けぬ者を救う」

弁士 森谷司 (農1)
人は、様々な目的を持ち働く。或者は、ただ純粋に、生きる糧を得るために働くのかもしれない。また或者は、自分の趣味のために働くのかもしれない。そして或者は、愛する者を支えるために働くのかもしれない。また或者は、働くこと自体に、生きる価値を見出だしているのかもしれない。何れにせよ、人は、働くことで、社会と繋がっているという実感を持ち得ることができるのである。

さらに働くことを国家の観点からみると…


しかし、今、その働くという人間にとって必要不可欠な活動を脅かす、大きな恐怖が存在しているのである。 

それは、失業である。

ここで扱う失業者を定義すると、失業者とは働く意思と、能力があるにもかかわらず、仕事に就けない人のことを言う。2008年のリーマンショック以降、我が国の失業率は5パーセントを超え、その数は350万人を超える。さらに、雇用状態に関するアンケートによると、今現在職は得ているが、将来の自分の雇用に対して不安を持っている国民は、日本人の半数にも及ぶのである。



私は、本弁論を通して、この350万人にも及ぶ失業者を救いたい。それと共に、雇用の先行きに不安を持つ国民を無くしたい。それを実現するためのセーフティーネットを構築する政策をこれから提案していきたいと思う。



それでは、今現在日本の雇用においてどのような問題が起きているのでしょうか?

大きく見ると、この問題は2点に集約される。



1点目は、雇用のミスマッチの問題である。そして2点目は、高い離職率の問題である。



では1点目から詳しく見ていきたいと思う。

まず、ここで問題となっている雇用のミスマッチについて説明すると、ミスマッチとは、採用を行う求人企業という「雇う側」と、就職を求める求職者という「雇用される側」との間で、職業能力、条件に関して食い違いが起きているということである。これにより雇用の入口が狭められてしまっているのである。

この食い違いが起きていることは、日本の労働市場の転換と密接に関わっている。

日本の労働市場の動向についてみてみると、総務省統計局発表の製造業の就業人口比率の推移によれば、1975年には製造業に従事する人は国民の3割にも及んでいることがわかる。しかし現在、製造拠点が海外に移ったことなどによる、様々な原因で、日本における、製造業の仕事の総量が減ってしまい、さらに追い打ちをかけるように、リーマンショックによる不況が決定打となり、製造業の生産調整がいよいよ本格的になり、製造業に就く人の割合は2割を切る程に落ち込んだのである。今までは雇用の受け皿となっていた製造業から、あぶれる人が発生し、現在の失業率5パーセントという状況がつくり出されてしまったのである。

その一方で、有効求人倍率に限ってみれば最近になって回復を見せている。これは、産業構造の転換の、プラスの側面であるもある。理由としては、福祉や介護などの、医療分野、ITなどの、情報産業、およびフードビジネスなどの、サービスを提供する第三次産業が伸びてきているからである。これは、第三次産業の有効求人倍率が1を超えていることからもよくわかる。



ここまでの状況をまとめると、職を失った人は、今まで働いていた、主に製造業などの分野で職を探そうとするが、空きがない。一方では、今まで考えもしなかった、三次産業の分野では仕事の空きがある。この状態こそが、雇用のミスマッチなのである。ではなぜ失業者は、空きのある分野へと仕事を求めて移動できないのかというと、その主な理由こそが、求職者の技術・能力の不足と、求職手段が分からないことに起因するのである。男性社員における、転職阻害要因の年齢別データを見てみると、40代以上こそ、募集年齢による影響が最も多いが、20〜40代の人で見ると、この、技術不足・方法が分からないという理由が6割以上も占めているのである。

以上が雇用のミスマッチについての説明である。



次に2点目の離職率の高さについて説明する。

離職率が高いことにより、長期にわたって、安定して働くことが困難となっているのである。

これは、1点目のミスマッチの問題とも関係してくる問題ではあるが、主な理由は、現在の政府の失業保険が、金銭による補助に重きが置かれていることにある。

失業保険が充実しすぎていると、失業者はそれだけで十分生活ができてしまうために、積極的に求職活動をしなくなる。よって失業が長期化してしまう。このことは、手厚い失業給付があるヨーロッパ諸国でも、そうでない米国でも、両社の中間にある日本でも、失業期間の長さは変わらないことからもわかる。しかしながら、長期化してしまっても、技術をつけ、自分に適した再就職先が見つかるならば、これは許容されることではある。しかし実際は、失業期間が長期化し、失業保険の給付期間が終了する時期になって、あわてて就職する、いわゆる「駆け込み就職」をする人の割合が多く、この「駆け込み就職」をした人の再就職先での離職率は、非常に高い。その主な理由は、やはり1点目のミスマッチの原因と重なってくるが、失業期間中に適切な能力開発訓練を行えなかったことと、適切な職業の紹介が行われなかったことに起因するのである。


さて、では 、政府はこの問題に対してどのような対策を打っているのだろうか?

政府は現在、主に、以下に挙げる、3点の政策を行っている。

1点目は、雇用調整助成金といって、企業に対して、一時的に失業者を雇い留めておくために助成金を出している。

2点目は、雇用創出事業として、インフラ整備などを行い雇用の場を創出する政策である。

そして3点目は、訓練・生活支援給付制度であり、公的にハローワークなどで職を紹介し、さらに職業訓練を行い、その場期間の、生活保障として、現金を給付する制度である。

1点目の雇用調整助成金は、確かに、一時的には失業者を雇いとめることはできるが、助成金が切れるころになって経済状況が回復している保障は無く、長期にわたり安定した雇用を実現することはできないといえる。

そして2点目の雇用対策事業であるが、雇用というものはあくまでも消費があってものが売れて、ものを生産する必要が生じ、その結果、労働者が必要とされ雇用が生まれるのである。そのため、あくまでも、経済活動の必要性から雇用ニーズが生まれるのであって、無理に雇用を作り出そうとすると、経済にとっては歪みが生じてしまうのである。例えば、アメリカを例に出すと、ニューディール政策の時代では、当時はまだ、インフラが整備されていなかったため、公共事業のニーズはあったといえる。しかしインフラ設備の整った現代では、そのような需要は、極めて限定的なものであり、その場限りの雇用にしかつながらない。

失業者が求めているものは、長期にわたり、安定して働くことができる環境であり、この政策も不備であるといえる。

そして3点目の技術訓練であるが、失業者の技術を訓練するという方向性は正しいが、そのやりかたに問題がある。まず、技術訓練の内容であるが、それは、今までの日本型ものつくりに対応した製造業に特化した技術訓練が中心であり、サービス産業の職業訓練は充実していない。これは、政府の政策が、産業構造の転換にうまくついていけていないことが原因である。そして、その実施主体であるが、2008年に国が管理する雇用能力開発機構は廃止になることが決定し、都道府県単位に移管されることとなっている。この経緯を説明すると、都道府県単位への移管は、行政のスリム化、民営化、そして地方分権の流れによって起きたものだと言える。これでは、ミスマッチを起こしている原因である、企業のニーズと求人ニーズという双方の情報が分断されてしまうため、職業紹介施設などが、双方の情報の共有化を行うことができなくなり、さらには、財源の面でも県の財政面に委ねられてしまうために、地域ごとの格差がしょうじてしまうのである。


以上が現在の政策の不備である。

このように現在の政策では、失業保険期間の失業者への技術訓練が効率的に行えていない。長期的な雇用が目指されていない。さらには、企業と求人のスムーズな情報共有、および3次産業の需要に対応した訓練が十分に行われていないのである。


そしてこれらを踏まえて、効果的に失業者を救うための、新たな政策を提案していきたいと思う。


それは以下の2点の政策である。

1点目、国が一括でして三次産業を中心とした技能訓練の強化を図り、さらに職業紹介を行うことである。

2点目、職業能力評価基準の創出。


1点目を具体的に説明する。まず現在、一部、都道府県単位や法人単位で行っている職業紹介施設を、全て、国の一括管理で行うことである。これにより、企業側のニーズと、求職者側のニーズを、国が全国規模で把握することができ、双方のミスマッチに対応した職の紹介を行うことができる。さらに、財源の面では、雇用保険から賄うことで、都道府県単位の財務状況によらない平等で幅広い層への支援を失業者に提供することができるのである。


さらに、技能訓練に関しては、産業構造の転換に伴う、福祉、IT、フードビジネスなどの、需要のある、新たな3次産業に対応する訓練施設を増設すること。スケールメリットが生まれ、それぞれの施設の技術・情報の共有により、休職者にたいして企業のニーズに合った教育を施すことができるのである。

これらの政策で、企業と求人側のニーズのミスマッチが解決でき、さらには求職者側の「技術がない」という新たな産業へ就くことへの障壁をなくすことが出来るのである。


そして2点目の職業能力評価基準について説明する。これは職業訓練を受けた期間、さらには実務能力の達成度というものを示すものである。このように、政府が定める、客観的評価基準を、1つ目の政策で提言した技術訓練に応じてつくるというものである。これにより、失業者の受けている求職活動の内容が可視化することができるのである。


例えばある求職者一人の例をとってこの制度を説明する。その人の失業給付の受給期間を仮に1年とし、その期間内で、フードビジネスの産業の技術研修を4ヶ月、福祉産業を4ヶ月、IT産業を2ヶ月に渡って行ったとする。そして余った2ヶ月は、活動を何もしていなかったとする。さらに、この人を職業能力評価基準で評価した場合、それぞれの研修期間で行った活動の習熟度は、それぞれ100点満点で決めたとしたら、フードビジネスで10点、福祉で50点、ITで60点であったとする。このような評価制度ができるよって、この人はまず、1年のうちで、フードビジネス、福祉、ITの技術訓練を10ヶ月間に渡り行った、という訓練期間の点をまず評価することもできます。つまり裏を返せば、2ヶ月間何もしなかったという判断もされる訳である。また企業側も、例えば習熟度で求職者へのハードルを設定して、80点以上で採用する、などということを決めることができ、企業にとっても非常に選考がしやすく、求職者にとっては、目標が明確なのでインセンティブも高めることができる。さらに自分で仕事を体験してみたことによって、インターンのような側面で仕事を知ることができる。これにより、ミスマッチの解消と、休職者の失業中の駆け込み就職を防ぎ、失業中の効果的な技術訓練に向かわせることができるのである。

以上が2点目の政策である。
今までの失業者対策は、財政、金融面のみでの支援であり、労働市場の内部まで手をつけることはなかったが、これからは、金銭面だけでなく、直接失業者と向かい合った、労働市場の内部にまで手をつける政策が必要となっているのである。


働く意思があるのに働けぬ者は絶対に社会に存在してはならない。それが現在の政策上の不備で起きていることならなおさらである。これらの政策を行うことで、働けぬ者を救い、失業という多大なる社会の恐怖を取り除き、活気に満ちた社会が実現することを切に願いこの弁論を終える。



ご静聴ありがとうございました。

▲ページトップへ
このページを閉じる