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演題 「Laments of medical services」

弁士 中村真理江 (国日1)
Laments of medical services

我々人間が生まれてから死ぬまでの間、私達の生活にとって最も重要なものは何でしょうか。
それは「健康」です。健康であるからこそ私達はその持てる能力を存分に発揮出来るのです。
そして、その健康を支えるものが「医療」であると言っても過言ではありません。そう、私たちが生きていく上で、医療は欠かせない存在なのです。それゆえ、医療とはいつでも、どこでも、本当に必要とする人が、安心安全に受けられるものでなくてはなりません。

しかし、近年その医療提供体制が揺らぎつつあります。

それが“医師不足”です。
今年に厚労省が初めて行った調査で、全国で「2万4000人の医師が不足している」と分かりました。また、今までは「地域や診療科の偏在」なのだと言われていましたが、医師が充足している地域や診療科はなく、偏在以前に兎に角絶対数が不足しているのです。

では、医師が不足する事によって、一体我々にどのような悪影響があるのでしょうか。
その例として、2007年頃からの「たらいまわし」や「医療事故」の増加が挙げられます。
まず、重症者の「たらいまわし」について30分以上かかった件が、2007年の約16000件から年間1000件ずつ増えています。心停止の場合、1分間に生存率が約10%ずつ下がり、10分では約0%になってしまいます。つまり、一刻の猶予もないのです。
 次に「医療事故」に関しても、発生件数は2007年の約3600件から去年まで、500件増えました。その中で毎年約10%の患者が死亡。更に15%の患者に後遺症が残っています。
こういった被害の8割が医師不足に起因している事から、医師が不足している為に医師一人当たりの負担が増大し、このような状態に陥っている事が分かります。

現在、政府は医師不足への対応として、医学生の増加を推進しています。文科省は平成22年度、医学生の最大369人の増員を認めました。医師数を増やすためには医学生の増員は確かに必要であります。しかしながらこの政府の政策は、2点の問題を無視しているのです。

1、「勤務医の不足が起きている事」です。
医師不足は勤務医を中心として起きています。よって医師数を単純に増やしても、開業医に流れてしまっては意味がありません。勤務医が不足している原因は、後ほど述べたいと思います。
2、「即効性が欠如している事」です。
医師が一人前になるには大学6年、研修2年、更に研究など数年重ねて、最低10年はかかると言われています。また、医師数と患者数の均衡が保てるまでには40年かかるというデータが出ています。今も満足に医療を受けられない人が存在しているというのに、何十年も成果が表れるまで待てますか!?

以上の2点を解決せずには、政府の政策はそれほど効果をなしえません。よって、私は政府の現行政策を補完する為に、『本当に必要とする人が、安心安全に受けられる医療体制の構築』という目標の下、その問題点の分析とそれに対する政策提言をしていきたいと思います。

まず1点目で、勤務医の不足を問題点として挙げました。では何故勤務医が不足しているのでしょうか。原因は以下の2点です。

1、「開業医への流出」です。
医師会によると、勤務医が開業医になる主な理由は「激務であるという事」でした。この結果、過酷な勤務に疲弊し病院を去り開業するケースが多いのです。
2、「業務の煩雑化による負担増大」です。
昨今、「診療内容の煩雑化」「医師免許を持たなくても出来る雑務の増大」「患者の大病院志向」によって、医師の負担が増えています。医師免許を持たなければ出来ない業務は、現在約2割しかありません。本来ならば、その業務のみを医師が担うべきなのです。

ここで、ここまでの流れを整理すると、このようになります(パワポ使用)

医師・医療費抑制政策
  ↓
医師不足
  ↓
医師一人あたりの負担増
  ↓
医療提供体制の揺らぎ

医師の絶対数の不足については、先程述べたように政府が取り組んでいます。
よって、私は医療の質の向上のキーポイントとして、即効性の観点から医師の負担軽減が先決であり、効果的であると考えます。
そこで、私は現状政府が施行している長期的政策を補完する為に、勤務医の労働環境改善と即効性の観点から、短中期的な政策を提言したいと思います。それが以下の二点です。

1、技術料の分離
2、臨床技術者の導入
                                    です。
まず第1の、短期的な政策としての「技術料の分離」について述べたいと思います。
現行制度では、医療費は全て医療機関に対してのみ支払われています。その医療従事者の「技術料」を、病院から切り離してしまうべきなのです。
すると、「開業医を有効活用」でき、さらに「赤字の回復」が出来るようになります。では何故それが実現するのでしょうか。現在は、病院との関係がなくなってしまった開業医達を有効活用出来ていません。何故なら、給料を支払う余裕が病院にないからです。そこで技術料を分離すると、病院の人件費の負担が無くなるので、経営状態に関係なく病院から切り離されている9.5万人の開業医を雇えるようになります。そうする事で、病院の医師不足は緩和します。更に、医師不足が緩和する事によって、病院の赤字経営も解消します。何故なら、赤字の原因は医師不足からくる患者の減少による収益減という悪循環にあるからです。その「医師不足」が解消する事から、患者に対応出来るようになり、赤字も改善されるのです。
加えて、技術料を分離すると、例えば政府が小児科や産婦人科といった特定の診療科の診療報酬の点数を引き上げた場合、ダイレクトに医師に政策が届き、偏在是正にも効果が出ます。

次に第2の中期的な政策として「臨床技術者の導入」について述べたいと思います。
「臨床技術者」とは、医師の監督下で卒後4〜5年目の医師に相当する働きをし、医師が行う医療行為の8割方をカバーする事が出来る国家資格を持つ人達の事です。2、3年の研修または大学4年間のカリキュラムといった、医師の約半分の期間での育成が出来ます。
アメリカを始めとした世界各国でも似たような存在(フィジシャン・アシスタント)がおり活躍している事から、日本でも成功すると考えます。そこで、現在日本にある近い資格を土台に「臨床技術者」の導入を図ります。
ではその“資格”とは何でしょうか。それが「臨床工学技士」と「臨床検査技師」です。
臨床工学技士とは、医師の監督の下、診療の補助として直接患者の生命に関わる業務を行う、医師の周辺医療従事者の国家資格の一つです。それを、医療の機械化の進行と共に就職難になりつつある「臨床検査技師」の資格と統合。そして「臨床技術者」という国家資格を創り、手術助手や診察の一端を担うという、いわゆる“プチ医者”として活躍してもらいます。

以上、一点目の短期的な政策「技術料の分離」によって「開業医の有効活用」が実現し、ワークシェアする事によって労働力不足が解消されます。
次に二点目の中期的な政策「臨床技術者の導入」によって、医師の業務の負担軽減を図り「煩雑化による業務増大」を解決します。

更にこれらの政策に、政府が推し進める「医学生の増員」が組み合わさり、短期・中期・長期の三段階での「医師不足」へのアプローチが実現します。そして『本当に必要とする人が、安心安全に受けられる医療提供体制の構築』の実現へと繋がるのです。

現在、高齢化の進む日本において、ますます医療提供体制の充実は必要不可欠な課題となっています。

私は幼少時、ある事故で生死を彷徨いました。もしその時すぐに適切な処置を受けられていなかったら……。私は今まで経験してきた楽しいことも、苦しいことも知ることが出来なかったでしょう。そしてここにも立てなかった。

本当に必要とする人が、いつでも、どこでも、安心安全な医療を受けられるような社会であって欲しい!そう願いこの弁論を終わりたいと思います。

ご清聴有難うございました。

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