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演題 「無辜なる命を救え」

弁士 石塚啓 (法1)

「ナタで殺されるよりはマシだ。その銃で、我々を殺してくれ。」
国連部隊の撤退が迫るなか、学校に逃げ込んだ避難民たち。おびえる彼らは国連の兵士にそう訴えました。学校の外は、ナタを持ち、避難民を威嚇する人々。彼らにもう逃げ場はありません。国連部隊が撤退した後、学校の中には約2000もの切り刻まれた死体の山が築かれました。

これは、アフリカのルワンダで起こった「ルワンダ虐殺」での出来事です。わずか100日間に約100万人が虐殺されました。

このような大規模な虐殺に、国連のPKOは手も足も出なかったのでしょうか?国連はPKOを展開しました。しかしながら人員が不十分だったのです。そのため、効果を挙げることができず、派遣された翌年には撤退してしまい、結果として虐殺という悲劇を生みました。

このように、国連が大規模な虐殺を止めることができなかったケースは、ルワンダだけではありません。1992年のソマリア、1995年の旧ユーゴのスレブレニッツァや近年のダルフール紛争などでも虐殺を止めることができなかったのです。

私たちは身に危険が迫ったとき、いつでも助けを求めることができる!しかし世界には、いくら助けを求めても、救われず無惨に殺されていった無辜なる命がある!そんなことが許されていいのだろうか!?いや、許されるはずがない!!私は、虐殺される人々が絶対救われる、そんな「人間の安全保障」を実現したい!!

その「人間の安全保障」を実現するために、現在、PKOが行われています。

しかし、そのPKOも万能ではありません。
一体どのような問題があるのでしょうか?

1つは「依存」であり、もう1つは「プロセス」です。

「依存」で言うならば、PKO部隊の人員や装備は各国の軍隊に「依存」しているという問題があります。PKOは、各国の軍隊から人員が派遣され、活動を行っています。よって、各国の国益の関係ない地域での活動の時は、部隊の提供が行われないことがあります。実際に、ルワンダの場合は、国益の関係ある国がなかったために、ほとんど部隊が派遣されませんでした。

また、「プロセス」で言うならば、派遣を決める「プロセス」が余分です。各国が、PKOを派遣するときは議会の承認を得なければならない国がほとんどです。よって、議会での審議に時間がかかれば、部隊の派遣に時間がかかってしまいます。実際に、派遣要請から、配備まで4ヶ月以上もかかったケースもありました。

これらの「依存」と「プロセス」の問題を抱えているPKOをどうすべきでしょうか?ところが、これらの問題は、各国の軍隊の寄せ集めであるPKOという枠組みでは、本質的に解決は不可能です。

そこで、私は、「国連緊急平和部隊」構想を提唱したい!!

「国連緊急平和部隊」とは、文民、警察、軍人、司法、緊急支援のプロフェッショナルで構成される部隊です。各国から1万5千〜1万8千人規模の個人が志願制で集められます。これは、国連が直接採用します。つまり国連独自の常設平和部隊が完成します。常設の平和部隊ができることで、いままでPKOが派遣されなかったような場所へも、確実に部隊を派遣できるのです。

具体的には、非武装地帯の構築、停戦ラインの設定、避難民の移動、インフラの復旧などをおこない、平和構築をします。

リスクの高い紛争の初期に実行します。リスクが軽減された後は、通常のPKOに活動を引き継ぐのです。

まとめますと、まず、部隊を「依存」していないので、必ず部隊を派遣することができます。さらに、議会での審議という「プロセス」がないので、1週間から2週間、場合によっては48時間以内と迅速な部隊展開が可能となるのです。

よかった、これで全ての問題は解決です。がしかし、「国連緊急平和部隊」現に存在していません。なんと、その実現を阻む問題が存在するのです。

それは、安保理の常任理事国、特にアメリカが実現に消極的であるという問題です。国連の中では、安保理の常任理事国、特にアメリカが非常に強い影響力を持っています。実際にアメリカでは、構想の実現を推進する議案が議会に2回出されましたが、全て否決されています。つまり、これらの国は、構想に乗り気でないのです。

ではなぜ、常任理事国は実現に消極的な姿勢をとるのでしょうか?
 
その原因は、常任理事国が紛争への影響力低下を懸念していることです。「国連緊急平和部隊」ができることで、国際紛争への政治的・軍事的な影響力がなくなることを危惧しているのです。たとえば、アメリカは「世界の警察官」として、フランスは「アフリカの憲兵」として世界の紛争に影響を与えてきました。この頃のように、紛争の影響力を保てなくなることを常任理事国は心配しているのです。

 「こんなことを解決できるわけがないだろう?」と皆さん思うかもしれません。しかし、これを解決できる方法があるのです。

そこで、この常任理事国が消極的であるという問題を解決し、「国連緊急平和部隊」を実現するための「組織面」「運用面」「政治面」からアプローチをかける、3つの政策を提言したいと思います。

1つ、部隊の最高指揮官は、必ず安保理が指名すること。

2つ、部隊設立後、安保理が指名したPMCのコンサルタントを受けること。

3つ、部隊を実現するための「コンソーシアム」をつくること。
以上の3点です。

1つ目の「安保理が最高指揮官を指名」という政策の目的は、「組織面」から常任理事国の影響力を保つことです。最高指揮官を安保理が指名することで、最高指揮官を通じ、「組織面」から、常任理事国は影響力を深められます。

2つ目の「安保理が指名したPMCがコンサルタントをおこなう」という政策の目的は、「運用面」から、常任理事国の影響を保つことです。まず、PMCとは、民間軍事会社のことです。これが、部隊に必要な、兵士の募集から、訓練、作戦立案から行動に関してまで、幅広いコンサルタントをおこなうこととします。そして、この、コンサルタントを安保理の指名したPMCとすることで、部隊の「運用面」に常任理事国の意向を反映できるようになります。

3つ目の「「コンソーシアム」をつくる」という政策の目的は、「政治面」から常任理事国に圧力をかけることです。この「コンソーシアム」に、参加することを想定しているのは、国連において、「人間の安全保障」について政策を提言してきた国です。例えば、カナダ、オーストラリア、オランダ、デンマーク等の常任理事国ではないが政治的な力が強い国です。このコンソーシアムでは、先ほど述べた2つの政策によって「組織面」と「運用面」から影響力があることをアピールしていきます。それによって、各国が連帯して、「政治面」から圧力をかけていくのです。そうすることで、安保理の常任理事国の懸念をなくしていきます。

 以上、1つ、安保理が最高指揮官を指名、2つ、安保理指名のPMCによるコンサルタント、3つ、コンソーシアムの設立という政策ついて述べてきました。これらの政策を実行することで、常任理事国の紛争への影響力の低下を防ぐことができるようになります。そうすることで、いままで、構想に消極的であった常任理事国を、積極的な姿勢に変えてゆくことができるのです。これができさえすれば、「国連緊急平和部隊」は実現します。そうすることで、多くの無辜なる命を救うことができるのです。

 いままで、多くの無辜なる命が失われてきました。なぜなら、世界の治安を守るべき常設の組織が存在しないからです。現状のPKOで救えなかった多くの無辜なる命がある。現にルワンダでは、100万人の命が国際社会から見捨てられたのです。ならば、「国連緊急平和部隊」を実現し、絶対に虐殺で苦しむ人を見捨てることのない世界を作るべきなのです!!
 
ご静聴ありがとうございました。 

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