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演題 「御国の光 輝かせ」

弁士 星野浩樹 (政1)
【導入】
大いなる自然災害、国家間の争い。

このような、私たちの日常を覆す事柄は、いつ、どこで私たちに降りかかってくるか分かりません。しかし、仮にそのような事が起きたとしても、心配はいりません。なぜなら、そうした国家存亡の時に命をかけて戦ってくれる、自衛隊の存在があるからです。

不測の事態に立ち向かう自衛隊の存在があるからこそ、私たちの安全は、守られているのです。


【現状分析】
しかし、命をかけて戦ってくれる自衛隊が、ある重大な問題を抱えていることを、皆さんはご存じでしょうか?

それは、自衛官の精神衛生問題であります。

自衛隊における、精神に不安を抱える人の数は、1万7千人近くにのぼるとされています。
その状態が悪化した末に、自殺という悲しい結果に至る場合もあります。

自衛官の自殺者数は、1995年に44人であったのが、2004年には94人と、実に2倍近くにまで増加しているのです。ここ10年の間に亡くなられた方の人数を合計すると、846人にものぼります。これは大部隊1個分に相当する数字です。

私たちの安全保障を司る自衛隊の方々が、このような大きな心的負担を抱えたままでいて、それを放置してよいでしょうか。そんなことは決してありません。

私たちの安全保障を今後とも保つためにも、自衛官の精神衛生を守っていく必要があるのです。


【問題点】
それでは、なぜ我が国の自衛官の精神衛生問題は、今日においても、多いのでしょうか?
それは、「自衛隊の職務の増大」と、考えられます。
そもそも、自衛隊の活動範囲は、発足当時の自衛隊法を見る限りでは、国内に限られていました。

しかしその原則が破られたのが、1990年、湾岸戦争のときです。イラク攻撃のために編成された多国籍軍に、日本は掃海艇6隻から成る500名の海上自衛隊員をインド洋に派遣しました。

その2年後、日本では PKO 協力法が成立、自衛隊の国外での活動が法的にも認められま
した。
つまり、海外派遣という新たな職務が加わりました。

その一方で、現在防衛費は削減がされており、自衛官の絶対数は減少しております。人が減れば、当然、一人あたりの負担は増大致します。
即ち、職務の増大があると言えるのです。

こういった職務の増大が、自衛官の心的負担を生んでいるのです。
その結果、防衛省によれば2008年に発生した自衛官の方々の自殺の最大の原因は、精神疾患、と、なっています。

同じく防衛省によると、精神疾患による自殺は、現在も増加の傾向にあるとのことです。ある幹部自衛官の方は、「駐屯地などに住み込み、規律も厳しい。海外派遣など新たな任務もストレスになっている」と話しています。
このことからも、職務増大による、心的負担の増加が自衛官をうつ又は自殺に追い込み、安全保障を司る自衛官を危険な状態にさせているのです。


【現状の政策の瑕疵】
この問題に対し、現状、どのような政策が行われているのでしょうか?
2003年7月に防衛省は自殺対策本部を設置、自衛官の方々に対するカウンセリング等の対策を講じております。

しかし、自衛官の方々の自殺者数は、2003年以降も100名前後で推移しており、依然として高い数値を保っております。
それでは、なぜ、この対策の効果は反映されていないのでしょうか?

それは、「相談窓口の体制が受動的である」ためと考えられます。

2003年、陸上自衛隊の方を対象に、「悩みがあるときになぜカウンセラーに相談をしないのか」と調査しました。その結果、「自分で解決できるから」「カウンセラー以外に相談する」「カウンセラーに相談しても無駄」という回答が全体の6割を占めています。また航空自衛隊を対象に行った、「なぜ悩みを誰にも相談しないのか」という調査をしました。その結果、「自分のことは自分で解決したい」「相談しても解決できない」「相談できる相手がいない」という回答が全体の約9割を占めています。
このことから、悩みを抱えていても、窓口の体制が受動的であるために対応が難しくなっています。そして、内部の助けを得ることも無く、自ら死を選ぶという結果に繋がっているのです。そして、例え相談しても自衛官個人の意見が反映されていないのです。

ここで、改めて問題点と原因を再確認致しましょう。
今、直面するは、多くの自衛官が精神的不安定であること。それが最悪自殺に至り、大いなる国家の損失に繋がっていることです。
そして、その原因として考えられるのが、職務増大による心的負担の増加なのです。
加えて、現状の対策が機能しない理由として、窓口の受動体制と、相談しても直接的解決に繋がらないことが分かりました。


【解決策】
以上を踏まえまして、以下の、1点の解決策を提案します。

それは防衛監察委員、の導入です。

防衛監察委員とは、内閣の下に設置する、法律家、心理士等で構成する機関です。自衛官の方々から、直接苦情を受け付ける、悩みを聞くことを基本とします。
また、海外派遣されている人たちに対しては、職員の方が実際に現場に赴いて相談を聞き、その相談に応じて対策を打ち解決する、自衛官の保護者としての機能を担います。4
防衛監察委員の利点は、以下の3つが挙げられます。

1つ目に、能動的に動けることで、隊員ひとりひとりへの対応が可能という点。
2つ目に、自衛官個人の意見が反映される点。
3つ目に、隊員数を増やすよりも、費用がかからない、という点です。

まず1つ目の「能動性」に関して説明します。
さきほど述べたように、相談窓口の体制は受動的なものです。一方、この防衛監察委員は、実際に現場に赴いて、悩みを聞くだけでなく、それを能動的に解決できる機関なのです。
故に、仮に自衛官の方々がお悩みであったとしても、その問題を抱え込ませずに、能動的に話を聞いて対策を打てるようになり、心的負担の増加を未然に防げるのです。

続いて2点目の「意見が反映しやすくなる」に関して説明します。
自衛官の方々の多くは、自分の抱える悩みは自分で解決なさろうとする傾向にあります。
これでは現場でどういった不満、悩みがあるのかを知ることができません。
しかし、防衛監察委員は、実際に現場でひとりひとりから声を聴くことができます。そのため、個人の問題にとどまらず、今、組織全体においてどういった不満、又は意見があるのかを、知ることができるのです。

最後に3点目の「費用がかからない」に関して説明します。
現在防衛費は削減の一途にあるため、終身、給与の保障された自衛官を増員するのは、容易なことではありません。
しかし、防衛監察委員は、その設置に多くの費用を要しない、と私は考えます。
ドイツの例を見ると、連邦軍兵士25万人に対応する監察委員の数はおよそ50人です。25万人、という数字は日本の自衛官の方々の人数とほぼ同等です。すなわち、わずか50人に関して生ずる費用のみで、自衛官の方々の現状に対応することが、可能なのです。

【展望】

以上、防衛監察委員の導入により、ひとりひとりの隊員の方々の心的負担の増加に対しては、現場の、生の声を聞き、それを反映または解決できる機関として機能することで、心的負担の蓄積を防ぎ、自衛官の方々ひとりひとりの精神衛生を保全し、且つ自殺という最悪の事態を防ぐこともできるのです。5
私たちの住む日本は、いつ国難に見舞われて、陰鬱とした状態に陥るか分かりません。
そんなときに、私たちを守ってくれるのは何か。日の本たるこの日本に、光明をもたらす存在は何か。
それは、自衛官の方々ひとりひとりなのであります。
私たちの手で、自衛隊という御国の光を、より一層輝かそうではありませんか。

ご清聴ありがとうございました。

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