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演題 「もったいないのさきに」

弁士 寺岡英恵 (国日1)

・導入
「おにぎりが、食べたい」そう書き残し、2007年北九州市で、一人の男性が、“餓死”、しました。持病があって、働けないにも関わらず、生活保護を打ち切られたのちのことでした。
現代の日本では、“食”は、満ち溢れているように見えます。しかし、その影には、生活苦のため、十分な“食”を、手に入れることが出来ない、「フードセキュリティが低い」人が、存在することを、みなさんは御存じでしょうか。
「フードセキュリティが低い」というのは、「月末になると、1日1食にする」、「空腹は、水を飲んでしのいでいる」、というような状態です。「フードセキュリティが低い」人は、国内に、推定、65万人いるとされており、ホームレス、ワーキングプア、一人暮らしの高齢者などが含まれています。その中には餓死してしまう人も含まれ、この10年で、760人が、餓死、しています。さらに餓死が死因でなくても、食糧の不足が原因で無くなる人は、潜在的には、まだまだいる、と考えられます。
遠い国の話では、ありません。現在の日本で、私たちの周りで、このようなことが起きているのです。本弁論の目的は、「フードセキュリティが低い」人を、0にする、政策を、提示するということです。


・現状分析
「フードセキュリティが低い人」を、救うための、有効な手段とはなんでしょうか。現在の政府の政策では、生活保護といった、社会制度を、行ってはいます。しかし、私は、よりコストのかからない、方法として、フードバンクを、推し進めたいと思います。フードバンクとは、売り物にならない食品を食品業者から譲り受け、必要とする施設に無料で配るという活動をしている団体です。もちろん、消費・賞味期限内のまだ食べられる食品しか受け取らず、期限が切れているもの、残りの期間が極端に短いものは提供していません。現在、10の、フードバンクが活動しています。年間で、全国700もの、施設や団体に、1000トン以上の食糧を、提供しているという、実績、があります。フードバンクの最大のメリットは、無料で、食品を食品業者から譲り受けているため、運営のコストが、抑えられる、ということです。


・問題点
しかし、現状の制度では、フードセキュリティが欠けている人を、救うには、限界があります。なぜなら、3つの要素が、適切につながっていない、からです。3つの要素とは、
1つ、食品を提供する「企業」、
2つ、提供された食品を適切に分配する「フードバンク」、
3つ、食糧を受け取る「人」、

以上の3点です。しかし、現状では、この3つの要素が、、適切に、つながっていません。なぜなら以下の、2点の問題を、抱えているからです。

1. 地域間での「寄付の格差がある」ということ
2. 個人への支給は「ほとんど行われていない」ということ

以上の2点です。

まず1点目の「地域間での寄付の格差がある」、ということから説明します。都心にあるフードバンクだと、さまざまな企業から金銭的、物品的寄付を、受けています。しかしその一方で、地方のフードバンクでは、必要な寄付が集まらないという、地域間で、企業からの寄付の格差、が発生しているのです。実際、東京で活動しているフードバンクの、企業からの寄付量が、850トン、であるのに対して、九州に、1か所しかない、大分のフードバンクは、1トン程度と、かなりの差がある、ことが分かります。

2点目の個人への支給はほとんど行われていない理由は本当に必要としているかが分からない、ためです。食糧を送ってほしいと個人から頼まれたとしても直接会って確かめることもできず、地方に住んでいる人が、本当に必要としているかの、見極め、が難しいのです。そのため支給は、ほとんど行われていないのです。

以上の問題点のために、多くのフードバンクが、個人に支援することに消極的です。しかし、この問題を解決しないことには、フードセキュリティに欠けている人を、救うことは、出来ません。


・原因分析
では、この問題の原因は、なんでしょうか。1点目の「地域間での寄付の格差」についてですが、それは企業の協力が、不十分であるためです。では、なぜ不十分なのでしょうか。その原因として、2点が挙げられます。

1. 企業への認知が、不十分であるということ。
2. 企業が、参加しやすい環境が、整っていないこと。

以上の2点です。

1点目の「企業への認知が不十分である」ということについてですが、農水省の調査によと、「フードバンクを知っているか」という問いに対し、約85%の企業が、知らない、内容までは知らないと答えています。このことから、現在、まだ十分に認知されていない活動である、といえます。2点目の、「企業が参加しやすい環境が、整っていない」ということについてですが、先ほどの調査でフードバンクに、協力するつもりがないと答えた企業に対して、協力するための条件として、「何が必要か」と尋ねたところ、「トラブ
ルが発生した場合の、責任の所在が、あらかじめ、明確化されていること」という回答が、約7割と、最も高く、「企業にとって、インセンティブがあること」という回答も3割ほど存在しました。


・解決策
これらの現状の問題点を踏まえ、以下の、2つの政策を、提案したいと思います。

1. 国が、フードバンクの“とりまとめ組織”を設置する
2. 地方自治体の福祉課で、個人にフードバンクを、紹介する

以上の2点です。

1点目の、「国による、フードバンクの“とりまとめ組織”の設置についてですが、この組織の、具体的な活動を、3点、説明します。

1. フードバンクの、衛生管理の明確化
2. 食品事故が起きた場合の、責任の明確化
3. フードバンクの、認知を促す

以上の、3点です。

1点目の「衛生管理の明確化」ですが、“ハサップ”を基に、食品の保存方法や、清掃の仕方を定めた「衛生管理マニュアル」を作成します。月に1度、職員を派遣し、マニュアルが遵守されているかどうか、検査します。

2点目の「食品事故が起きた場合の、責任の明確化」についてですが、責任の所在が不明確であることが、フードバンクへの協力を阻む、最大の原因ととらえることができます。そこで、万が一のことが起きた場合組織が責任を持ち、原因の調査を行った後、被害者に賠償金を支払います。3点目の「フードバンクの認知を促す」ということですが、“フードバンク協賛企業マーク”を作り、フードバンクに参加している、企業の商品に、表示します。先ほどの調査によりますと、フードバンクに商品を提供している企業に、「好感が持てる」と答えたのは、回答者の85%であり、企業のイメージアップにもつながります。

解決策の2点目、「地方自治体の福祉課による個人へのフードバンクの紹介」ということですが、現在、市町村では生活保護受給の増加に伴い、生活保護申請許可の審査は、厳しくなっています。そのため、本来なら保護が必要であるのに、申請許可が下りない、ということも起こっているのです。そこで、福祉課で生活保護の申請許可をすることはできないが、今現在、「フードセキュリティに欠けている人」のために、フードバンクと連携して、定期的に、食品を提供するようにします。また、福祉課での自己申告のほかに、ケースワーカーが家庭訪問を行い、「フードセキュリティを欠く人」を発見します。具体的な配布方法は、役所で食糧を配布または、役所に行けない人の場合はケースワーカーが家庭に配布します。配布する食品は生ものをさけ、消費期限の長い日持ちするものを選びます。

以上の政策をおこなうことで、「フードセキュリティに欠けている人」を、救うことが出来るのです。


・展望
私たちが生きていくために、欠かすことが出来ない“食”。この“食”を、十分、確保できるようになって初めて、豊かな生活、を営めるようになるのです。

「もったいない」の先には、「ありがとう」という言葉が待っています。

御清聴ありがとうございました。

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