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演題 「豊富な海へ」

弁士 林田豪太(農1)

サンマの塩焼き、サバの味噌煮、アジの開き、これらは我々が普段食べている食事です。今日まで日本各地では豊かで多彩な魚食文化がはぐくまれてきました。我々が普段食べている食事には、多くの魚介類が使われているのです。栄養面で見ても、動物性タンパク質の実に4割を魚介類が占めているのです。こうしたことから、我々日本人にとって、魚は文化的にも栄養的にも非常に大切な存在であるのです。

この海や河で獲られる魚介類は水産資源とよばれています。
水産資源の特徴は石油などの鉱物資源とは異なり、再生産するということです。
再生産とは親魚が卵をうみ、稚魚が成長するもので、うまく漁業に利用すれば、資源の枯渇は起こらないものであります。銀行で例えると、利子にあたる部分を使えば元手は減らないというものであります。

しかし、この水産資源がいま危機的な状態にあるのです。
平成20年度において水産庁による資源評価では84系群のうち半数の42系群が低位水準つまり資源量が少ないと判断されました。
水産資源の減少は漁業者や漁獲量に影響してくるのです。
まず、水産資源はそれを利用する漁業にとって無くてはならないものであります。
漁業者の数はここ10年間で、27万8千人から20万4千人と7万人も減ってしまっているのです。
また、生産量にも影響を及ぼしています。
日本の水産物生産量は平成19年において、572万トンになります。しかし、昭和59年には1282万トンであり、ピーク時の45%にまで減ってしまったのです。
つまり、水産資源の減少は、漁業者にとって重大な問題であり、我々消費者が食べる魚にも影響があります。

では、なぜ水産資源は減ったのでしょうか。
その原因は乱獲です。
乱獲とは資源回復量を超えた漁獲をすることです。
そして乱獲が起こってしまうのは構造に問題があるからです。海は誰のものでもないので、魚が獲れるときは他の者に獲られる前に獲ろうとします。これにより、魚が減ってしまったので、漁業者は自分の生活を守るために乱獲をしてより多くの魚を獲ります、そしてまた資源がなくなるという悪循環が生まれてしまうのです。
そこで、この悪循環を止める必要があります。

では政府はどのような政策をとっているのでしょうか?
乱獲を解決し、資源管理をする目的で作られ、平成9年から実施されている制度としてTAC制度があります。TAC制度とは魚種ごとに総漁獲可能量(TAC : total allowable catch)を定め、漁獲総量を規制することによって海洋生物資源の保存を図ろうとする制度のことです。漁業種類ごとや都道府県ごとに配分されて漁獲の管理が行われております。たとえば、北海道の定置網漁に10トンの割り当てがあるとします。そして、そこに属している経営体をA、B、C、Dとします。この4つの経営体の合計の漁獲量が10トンに達した所でその漁は出来なくなります。
TAC制度とはこのように漁獲の全体量を抑えることによって資源の保全を図っていく制度であります。

しかしながら、現状このTAC制度は資源保全にとって十分に機能しておりません。
その理由として次の2点が考えられます。
1点目、TAC制度での困難な管理
2点目、TAC制度での罰則規定の不足

1点目はTAC制度が早い者勝ち状態であるため、資源管理がしづらいという点です。現状の制度では、早く取った人がより収益のあがる早い者勝ちの状態であります。
TAC制度では漁業種ごとに最大値が定められており、その最大値に達すると漁獲は出来なくなります。つまり先ほどの例を使いますと、合計が10トンであるため、Aが9トン獲ってしまうとB、C、D合計でも1トンしか獲ることが出来ないのです。これでは競争が激化してしまいます。
獲れるうちに獲って利益を出そうとして、結果的にTACをオーバーしてしまう事が起こっているのです。また、より多くの漁獲量を上げようとして、過剰な装備をして、無駄にコストがかかっているといった問題もあります。

さらにTAC制度は重大な問題を抱えているのです。それは小型魚の漁獲です。
先ほど述べたような早い者勝ち状態では、小型魚のうちでも漁獲されてしまいます。小型魚は卵を生むことができないため、これを獲ってしまうことは水産資源にとっても大打撃なのです。
日本で、2歳魚までにとられてしまうサバは全体の約9割に上ります。きちんと管理を行っているノルウェーは2歳魚までに獲られるのは全体の2割ほどです。
1970年代に500万トン近くあった漁獲量は、現在50万トンほどになっています。ノルウェーでは300万トン前後で20年以上も推移しています。
採算の面で言っても、4歳まで待ってから獲るとすると、自然死を考慮して、個体数は4分の1になってしまいますが、重量は3倍になるので、漁獲量は4分の3になります。しかしながら、1キロ当たりの価格が10倍以上あるので、最終的には大きくなってからとると小型魚の漁獲よりも8倍も儲かるのです。

つまり、小型魚の漁獲は資源も減り、利益も少ない。しかしながら、獲らなければ儲けすら出ないから獲らざるを得ない状況であるのです。

つぎに2点目のTAC制度の罰則規定が弱いという点について説明します。
TACが設定されている魚種は7種類いますが、サンマ、スケトウダラ以外の5種は行政府による規制措置や罰則規定はありません。この罰則規定がないことにより、TAC制度を守らない漁業者が出ています。
罰則規定のない原因は、中国や韓国と日本海に共同利用水域があるからです。共同利用水域では日中、日韓の漁船が入り交じって漁をしています。サンマ、スケトウダラの2種と違い、他の5種はこの水域でよく取れるのです。

つまり、中国・韓国には罰則がないのに、日本の漁船だけに罰則規定を設けることは不公平であるという理由から、この水域では罰則規定を設けることが出来ないのです。それによって、日本は太平洋側にも広大な海があるにもかかわらず、こちらでも罰則規定がないのです。つまり、この罰則規定がないことにより、漁獲量を超えてしまった場合でも、ただ注意をすることしかできないのです。

そこで、これらの問題を解決するために、私は3点の政策を提示したいと思います。
1点目、IQ制度の導入
2点目、IQ制度の厳罰化
3点目、期限付き所得補償の実施

1点目の政策であるIQ制度について説明します。
IQ制度はTAC制度で決められた総漁獲量を個人個人に配分する制度のことです。先程の例でいいますと、A、B、C、Dが2.5トンずつ獲れるようになるのです。これにより、資源先取り競争は起きません。また、IQ制度は小型魚の漁獲を防ぐことにもつながるのです。1年間で個人が獲れる漁獲量が定められているため、より採算のとれる大きい魚を獲るようになるからです。さらに過剰装備も解消され、コストのかからない漁業をすることができるようになり漁業収入も上がると考えられます。

つぎに2点目のIQ制度の厳罰化について説明します。
IQ制度を導入しても、現状TAC制度が守られていないようにIQ制度が守られないのでは資源保全が出来ません。
しかし共同利用水域での国際的な関係のため、日本のその他の海域での罰則が適用されておりません。そこで将来的には共同利用水域で日本・中国・韓国で漁獲量を均等にして、罰則も同等にすることが理想であります。しかしながら、この問題は領土問題なども関係しているのですぐに取り決めすることは難しいと思われます。そこで、すぐ日本で出来ることとして、共同利用水域以外でのIQ制度の厳罰化です。
これにより、日本でも残り5種についての罰則規定ができて、より適切な資源管理を図ることが出来ます。現状、強く取り締まれなかった乱獲を防ぐことができるのです。

これらの政策をすることで、資源は回復していくでしょう。しかしながら、厳罰化により、漁獲量は減ってしまいます。これにより体力のない漁業者がつぶれることになり、漁業者からの反対が多くなり実現は困難になるでしょう。そこで漁業者側に視点を向けた、3点目の政策として、資源が回復するまでの間、数年間は現在の所得水準になるように所得補償を行います。これで、漁業者が路頭に迷うことはなくなるのです。

以上、私の政策によって漁業者を保護しつつ、小型魚を含む乱獲が防がれます。さらに、厳罰化、所得保障により私の政策はより機能していくのです。
水産資源が守られることにより、これからも漁業は続けていくことができ、我々は将来にわたって日本の文化に深く根付いている魚を食べていくことができるのです。

最近こういうニュースがありました。
「ブリ、サバとも小型の資源量が豊富で、三陸各地で漁獲が好調に推移しています。
10月は1匹2キロほどのイナダが、昨年の約4倍に急増しました。」
イナダとはぶりの子供のことです。このまま放っておくとさらに水産資源はなくなっていくことでしょう。
豊かな海へ向けて、今動き出すことが必要なのです。
このようなニュースを聞いた時にはこう言いましょう。

「それは乱獲だ」

ご静聴ありがとうございました。


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