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演題 「光満ちる森林」

弁士 齋藤康裕(政1)

会場の皆さんは、森林が、洪水や土砂災害、地球温暖化の防止に、多大な貢献をしているのをご存知でしょうか?
森林には公益的機能と呼ばれる、緑のダムとしての利水効果、土砂崩れの防止、温室効果ガスである二酸化炭素の吸収、等の機能があり、その価値は、年間で75兆円とされています。
しかし、その公益的機能が、国土の三分の一を占める人工林において、危機に瀕しているのです。

何故危機に瀕しているのでしょうか?
それは、人工林が間引き不足だからです。
間引きとは、木々の生育を促すために意図的に木の本数を減すことで、森林を健全な状態に保ちます。
この間引きをしてない不健全な人工林は、通常の人工林に比べ、土砂の流出は150倍増え、保水力は80パーセントも低下します。
例えば、岐阜県と、三重県を流れる一級河川“いびがわ”で2008年9月に洪水が起こりました。これは、砂防ダムを超える量の土砂が、間引き不足の人工林から流出したことが原因と考えられています。
また、十年平均の土砂災害発生件数はここ20年増加しており、さらに平成16年の水害被害額は過去最高の2兆400億円にのぼりました。
そして、現在、間引きがされてない人工林は4割の400万haに及び、間引きがされていても不十分である人工林は3割の300万haに及ぶとされています。
実に7割もの人工林が不健全な状態であり、不健全な人工林による水害や土砂崩れは全国どこでも起きる可能性が高いのです。

当弁論の目指す所は、間引きされず不健全な人工林を無くすことです。

では、人工林が間引されず不健全な状態で放置される原因を見てみましょう。
その原因は林業の不振です
そもそも間引きは、公益的機能維持だけでなく、樹木を太くし、商品価格を高める経済的意味もあります。
その間引きが、林業の不振のため、放棄されているのです。
国産木材の商品価格は1980年の2万2千円から2009年には七分の一の3千百円にまで低下しました。
一方で植林費や養育費は1970年から2,6倍に上昇しています。
このように現在、木材価格の低下で、収益が下がる一方、養育費等の出費が増えており、林業は利益を出しにくい、不振状況にあるのです。そのため、林業家は林業を見限り、林業を放棄、間引きもしなくなっているのです。

あぁ、日本林業の未来に光は無いのでしょうか?
いや!そんなことはありません。
現在、奈良県吉野や九州地方などでは、林業によって利益を上げています。
そこでは、大規模林業家達がその規模を生かし、
高性能林業機械の導入
工場への直接販売
林道の整備
をおこない、コストダウンを実現、林業で利益を上げています。
高性能林業機械は木材中間マージンの50%を占める伐採費を半分にします。
直接販売は、マージンの8%を占める市場手数料を0にします。
林道網の整備と、直接販売は、42%を占める運搬費を抑制します。

しかし、小規模の林業家はこのコストダウンの恩恵を享受できないのです。
なぜなら、高性能林業機械は、10haほどのまとまった規模がないと、効率向上が望めません。
直接販売も、大ロットで生産できる大規模林業家だけが可能です。
林道網の整備も、小規模林業家が乱立する山では、多数の地権者から林道整備計画の承諾を得ねばならず困難なのです。

以上のように、大規模林業家はコストダウンを行い利益をあげる一方、小規模林業家はそれが行えず、苦境に立たされているのです。
よって、当弁論の目的である、間引き不実施の不健全な森林を無くす方策とは、森林の流動化を行い、森林を大規模化、それによるコストダウンを実現することなのです。

したがって、当弁論はこれから、どうすれば大規模化を実現し、林業で利益を出せる林業家を作り出せるかを、探求しようと思います。

では、政府はどのような手段で大規模化を行っているのでしょうか?
政府は大規模化のため森林施業プランナーを育成しています。プランナーは、隣接する森林所有者に、共同での事業実施を提案し、大規模化をします。
しかし、これは根本的な解決とはなりません。なぜなら、将来的に森林所有者の山離れが進み、提案が困難になるからです。現在後継者のいない所有者は43%に上り、森林がある自治体とは違う自治体に住んでいる、不在村森林所有者は25%になります。このため、森林所有者が山から離れて住むようになり、提案が困難になるからです。
よって私は、根本的な大規模化が可能な政策を打つ。それは、森林売買の促進です。

では現在の森林売買の現状はどうなっているのでしょうか?
売り手としては、後継者がいない森林所有者と不在村森林所有者がいます。北海道でのアンケートによると後継者がいない森林所有者の6割、不在村森林所有者の8割が森林を売却処分したいと考えています。
買い手としては、意欲のある森林所有者があげられます。北海道でのアンケートでは20ha以上の林業家では、機会があれば森林を購入したい林業家は6割にのぼっています。
このように、森林売買の売り手と買い手は存在している。しかし彼らは森林売買環境の不備により売買がおこなえないのです。

森林売買環境の不備とは、
1つ、土地境界の不確定
2つ、森林売買を仲介する機関の不在
以上の2点です。

1つ目の土地境界が不明ですが、現在、土地の売却をしようにも境界がわからず、売りに出せないのです。現在、登記簿には明治時代に作られた公図により森林境界が決められていますが、この公図が不正確です。
そのため、森林境界の確定は個人個人が弁護士に相談し確定しており、大変煩雑なのです。

2つ目の森林売買を仲介する機関の不在ですが、不動産業者はほとんど森林を扱わないため、森林売買を仲介する機関が不在であり、そのため、購入希望者と売却希望者は交渉の席につきにくいのです。
また、交渉の席についても、直接交渉により価格を決定しますので、両者の思惑が絡み合う、煩雑な作業となります。
このように仲介機関の不備が森林売買市場の拡大を困難にしています。

以上の2点から森林の売買が困難となっているのです。

よって、私は森林売買環境を整えるべく以下に3点の政策を打つ。
1点目、地図作成の徹底
2点目、森林組合に森林売買機関の創設
3点目、森林購入に際し融資の実行
以上3点です。

まず、1点目の地図作成の徹底ですが、そもそも、登記簿には森林の明確な地図の記載が、義務とされています。しかし、この地図は不正確な公図で代用されています。
よって、登記簿を管轄する法務局が弁護士と協力し、明確な地図を作成します。
こうして、森林境界が明確化し、森林売買の基礎が整います。

そして、2点目の森林組合内に売買仲介機関の創設ですが、この売買仲介機関の仕事は、
1つ、森林価格の査定
2つ、売り出された土地のデータベース化
以上の2点とします。

1つ目の森林価格の査定ですが、森林売却希望者の土地を、固定資産税評価額により森林価格を定め、売りに出します。
2つ目の売り出された土地のデータベース化ですが、売りに出された土地情報を森林組合のホームページでデータベースの形で公表することで、購入希望者に分かりやすく土地情報を提示します。
こうすることで森林売買の煩雑性を解消、森林売買市場が拡大するでしょう。
しかし、売買制度を整えても、土地購入には金がかかりますし、林業は一年や二年ではまとまった収入が出ないので、事業拡大を狙う林業家も大規模な購入は難しい。

そこで3点目の森林購入に際しての融資の実行、ですが、国が森林購入支援基金を設置し、そこから、森林購入希望者に融資を行い、森林購入を支援します。
こうすることで、購入した森林からまとまった収入が入るまで、金銭的負担の軽減を図ります。

以上の3点の政策により、利益を出せない小規模林業家、後継者のいない林業家、不在村森林所有者は森林売却が容易になり、一方、規模拡大目指す林業家は森林購入が容易になり、森林の流動化が図れます。
こうすることで、大規模林業家に森林が所有され、林業で利益が出るようになり、森林に間引きがされます。そして当弁論の目指す、間引きされていない、不健全な人工林を無くすことができるでしょう。
そして、我が国において、不健全な人工林を引き金とした自然災害の多発は回避されるでしょう。

間引きされていない人工林、そこは外から見れば緑豊かに見えます。しかし一歩足を踏み入れれば、そこは光差し込まぬ暗黒の世界。そんな人工林が私の政策によって光満ち溢れることを祈って……当弁論を終わります。ご静聴ありがとうございました。


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