このページを閉じる
演題 「寒暖の地」

弁士 吉田昌弘(商1)

導入部分
「私は大学を卒業したら企業に就職し、その後独立して自分の企業を持ちたい」
「その企業で日本経済を支える一片になりたい」
「それが私の将来の夢であります」

2007年のサブプライムローン問題に端を発した、世界同時金融危機が起きてから丸2年がたちました。しかし、依然として日本国内において失業率は5%を超え、さらに倒産企業数はすでに1万1千件を超えて、昨年を上回る見通しすら出ています。こうした社会的に望まれない現象が、大企業だけでなく、中小企業を巡り起きています。

現状・重要性
日本経済における中小企業のウエイトは対大企業構成比において、99.7%と日本経済の根底を支えているのは中小企業であることは言うまでもありません。
中小企業の役割としては、(1)就業者数全体の7割といった雇用の担い手としてだけでなく、(2)企業間競争による成長産業の創出といった日本経済の発展に大きくかかわっています。
また、(3)地域産業の担い手としても地場産業としてその土地に根付き、関連する産業に経済効果を与えたり、親企業からの下請企業としても中小企業はなくてはならない存在です。
すなわち、中小企業は日本経済に欠かすことが出来ず、日本がこれからの国際化を生き抜くには中小企業の役割なしには不可能といえます。

問題点
しかしながら現在、日本経済を支える中小企業は非常に過酷な状況…そう!極寒の地に立たされています。

それが、中小企業の運転資金をめぐる中 小 企 業 金 融 問 題であります。
企業が存続するうえで、欠かすことのできないものが運転資金です。とりわけ、中小企業は30%を超える運転資金を金融機関からの借入金に頼っています。
この結果、借入金は中小企業の疑似資本と化しており、仮にこの借入金がなくなると、その企業は運転資金不足により事実上倒産となります。

それにも関わらず、(1)間接金融の性質上、企業の倒産リスクを回避したい金融機関は、担保や連帯保証人、貸出の高金利設定などの負担を借り手側に寄せています。
また、最近は(2)企業に対しての貸出の拒否や、貸出基準を厳しくされる“貸し渋り”や“貸し剥がし”といった金融機関の突然の横行による、返済の強制をされた企業は3割にも上っています。
この結果、例え経営成績が良くてもその場の手持ち資金がないことで、返済が滞り黒字倒産に陥る企業もあるのです。
また、倒産に至らなくても、借入金の減少は中小企業の経営に大きく影響し、それが地域経済の疲弊を招き、後に日本経済の衰退へと波及するのです。

つまり、中小企業金融における中小企業側の不利の現状を打破しない限り、日本経済を支えることが出来ないのです。そのために従来の間接金融を見直し、新たな融資方法が必要なのです。

現状分析
では、中小企業が不利な原因は何でしょうか?
そこには、中小企業金融特有の原因があるためです。

それが、“中小企業を評価しにくい”ということです。
中小企業を評価しにくいとは、中小企業の規模が小さいために財務諸表を正確に作れなく、企業の経営状態を判断しづらいことです。この判断がしづらいために、元来、地域金融機関が積極的な関係を持つことで、その財務諸表の不備を補完してきました。

けれども、昨今の中小企業金融は、財務諸表による短期的な融資をする傾向が強まっています。その理由は、金融機関の貸出のコスト削減や円滑化のためです。
しかしながら、財務諸表による融資だと、サブプライムローン問題後からの中小企業向貸出残高の減少から分かるように、安定的な貸出がなされないのです。
なぜなら、財務諸表の融資は、短期的な経営状態の善し悪しだけで判断するため、景況に左右されやすい中小企業には不向きなためです。すなわち、中長期的な視点での企業の評価が必要なのです。

また、中小企業を評価しにくいことで、金融機関は貸出に消極的になっています。なぜなら、金融機関は倒産リスクを避けたく、大企業の傘下にある比較的安全である中小企業に積極的な貸出を行うためです。
その結果、安全でない企業には、金融機関は物的担保や連帯保証人に依存しています。また、依存しなければ、金融機関の自己資本比率の低下を招き、今度は金融機関の破綻が危ぶまれてしまうのです。
しかし、物的担保は、土地価格の下落などにより担保としての価値がなくなってきています。そのため、新しい担保を見出すことも必要でしょう。

政策分析
では、こうした現状に政府はどのような政策をしているでしょうか?
現在の政策では、公的資金や先日、衆議院を通過した中小企業金融円滑化法案などがあります。
しかしながら、公的資金の注入を行うと、本来ならば倒産すべき企業まで救うことになり、かえって日本経済の発展の阻害要因となります。さらに、安易に公的資金を注入すると国の補てんを膨らませることもなります。
また、円滑化法案も企業に返済猶予を与えることになり、金融機関は返済がされないことで消極的になり、貸し渋りや貸しはがしを起こすという懸念があります。
結局、現状の政策はその場しのぎのものが多く、根本原因に目を向けていないのです。そのため、根本原因である企業を評価して、それに見合うだけの貸出を行う新しい融資方法、言うなれば“直接的間接融資”が必要なのです。

解決策
以上を踏まえて、中小企業側の不利を打破し、温暖の地へ導くために以下に解決策を3つ提言します。
1つ目が、企業評価制度の導入
2つ目が、評価担保融資の実施
3つ目が、市場仲介機関の創設
以上の3つです。

1つ目の、企業評価制度とは、企業の価値をその企業独自の強みの観点から評価する制度のことです。例えば、製造業なら技術力であり、サービス業なら情報といったものです。この制度により、中小企業側は正確な財務諸表ができなくても、実力に見合った融資を受けることができるようになります。

しかし、この制度を導入しても金融機関のインセンティブがあまりありません。なので、2つ目の評価担保融資を実施します。
この担保方法は、1つ目の制度で評価された価値ある技術や情報を担保にする方法です。とりわけ、この技術や情報は中小企業が開示していないものが多いため、排他的でありかつ価値のある技術や情報です。
この担保方法により、1つ目の解決策と相まって金融機関が積極的な貸出を行うようになります。その理由は、企業の価値が正しく見抜けると、金融機関は金利の適切化や安定した貸出を行うことができるためです。さらに担保にできると、倒産リスクの回避につながるためです。
中小企業は、今まで負担となっていた物的担保がなくなり、技術や情報が評価されれば更なる発展のモチベーション向上にもつながります。
また、仮に企業に倒産された場合でも金融機関側に技術や情報が残ることで、これらの消滅を防ぐことができます。

では、以上の制度や融資方法をどのように運用するのか?ということで、3つ目の解決策、市場仲介機関の創設に移ります。
この仲介機関は地域金融機関の人員と資金で構成される機関です。そして、この機関の役割は以下の3点です。
1点目、評価員の育成
2点目、担保の保証
3点目、買い手の斡旋
以上の3点です。

1点目の評価員の育成とは、現在の銀行員に足りないものは企業を評価する力です。そのため結果として、価値の評価がしやすい物的担保に依存しているのです。
なので、評価する力を養うために中小企業診断士や弁理士のような教育を仲介機関の人員に指導します。さらに、その人員による指導を金融機関の従業員にすることで、中小企業の価値を評価できるようになります。

2点目の担保の保証とは、地域金融機関は評価した技術や情報の価値を担保に貸出を行います。そして、その担保を仲介機関が保証します。しかし、安易に保証するのではなく、仲介機関もその技術や情報を評価することで、適正な価値の担保のみ保証することができます。それにより、地域金融機関の安易な貸出の防止も出来ます。

3点目の買い手の斡旋とは、仮に企業に倒産された場合、担保として保証した技術や情報の買い手を探すことです。とりわけ、技術や情報の市場は大きくないので、金融機関のネットワークを駆使して仲介することで売却ができます。これにより、地域金融機関は倒産リスクを回避できます。

以上、3つの解決策により、中小企業金融に新たな間接金融を見出すことができます。

展望
日本経済に欠かすことのできない中小企業。
しかし中小企業はいま、極寒の地に立たされています。寒さに耐えきれなくなった中小企業は倒産するしかないでしょう。
中小企業に運転資金が与えられる温暖の地に向けて今こそ新たに動き出さなくてはならないのです。
ご清聴ありがとうございました。


▲ページトップへ
このページを閉じる