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演題 「朗々介護」

弁士 梶田晴之(政1)

2500万人。現在の日本の高齢人口の数です。
65歳以上のいわゆる高齢人口は増加を続けており、その割合は2007年に総人口の20パーセントを突破しました。さらに60、70歳という比較的若いお年寄りだけでなく80、90歳あるいはもっと高齢な人々の数が増えていくことが予想されます。そんな、高齢者が増えてくる社会において考えなくてはならないこと、とは何でしょうか。

それは介護制度です。
つデータを示しますと、介護保険制度がスタートした2000年当時に支給を受けた人の数は218万人であったのに対し、2008年には455万人と二倍以上に増えているのです。このように、介護を必要とする人は年々増えており、これからも増えていくことは間違いないでしょう。

では介護に必要な要素とは何でしょうか。私は二つの要素があると考えています。すなわち、
一つ目が実際に介護サービスを提供する人材
そして二つ目が、介護を受ける上でかかる金銭的な負担の支援です。

まず初めに現在の日本の介護制度の柱である介護保険制度について考えてみたいと思います。
介護保険は40歳以上の全ての国民が対象となり、徴収を受けます。そして要介護認定という認定を受けた人が介護サービスを1割の自己負担で受けることができるという制度です。
この要介護認定というのはその個人の介護の必要度によって差があり、軽いものから、要支援1.要支援2、そして要介護1から要介護5まで全部で7つの段階に分かれています。
例えば要介護2と認定された場合、月に19万4800円までのサービスを1割負担で受けることができ、目安として週3回の訪問介護を受けることができるというわけです。
このように介護保険制度は基準がかなり細かく分かれていて、個人個人の必要度に見合った金額が支給されています。介護保険制度の導入により、高齢者の金銭的な負担はかなり減っていると言えるでしょう。

では先ほど述べた要素の残りの一つ、人材についてはどうでしょうか。
現在、介護サービスを行っている人材は117万人います。そしてその内わけは大きく分けて2つの職業、
一つが介護福祉士、もう一つが訪問介護員、いわゆるホームヘルパーです。ここでみなさんに注目してほしいのは介護福祉士です。
介護福祉士は国家資格であり、資格取得のために介護学校や福祉専門学校のような専門機関で2~3年という長い期間教育を受けています。介護福祉士はまさに、介護のプロなのです。そのため、介護の必要レベルが高い老人ホームのような、施設介護の現場において、介護福祉士は特に重点的に用いられています。
しかし現在、その介護福祉士の人材の確保が難しくなってきている現実があります。介護の仕事は「きつい」「臭い」「暗い」の3Kとも呼ばれ、肉体的にも精神的にも過酷な労働環境にあります。それにもかかわらず、介護福祉士の初任給はおよそ17万円という低い数字でした。大卒社員の初任給が20万円前後であることを考えると、介護福祉士の月収の低さがよくわかります。
この過酷な労働環境に見合わない低賃金が、介護福祉士の職の敬遠という問題を引き起こし始めてきているのです。

では安定的に人材を確保するために政府はどのような政策を打ってきたのでしょうか。

一つにインドネシアやタイ、フィリピンなど海外の介護福祉士を受け入れるということを行っています。しかしこれはあまり上手くいっていません。
例えば日本はインドネシアとのEPA(経済連携協定)により介護福祉士600人を二年間で受け入れる予定でした。
しかし実際に受け入れられたのは半分以下292人だけでした。これには、日本と現地の介護制度にはかなりの違いがあり、
日本語教育と介護研修を並行して行うのは難しいという理由、
そして人材を受け入れる企業、そして高齢者が受け入れに消極的であるという理由の二つが挙げられています。
海外からの受け入れという政策は、これから、数十万人の介護福祉士の増加を必要とする現状には対応できないのです。

そしてもう一つ、介護士の低賃金を改善しよう、とする政策が最近になって新たに打たれています。介護報酬の引き上げです。
今年の4月に介護報酬が3%引き上げられました。先ほど私は介護福祉士の初任給は17万円だったと述べましたが、それが現在では19万円ほどにまで上がってきているのです。介護報酬の引き上げ分がきちんと従業員の月給に回るのか、という懸念もありますが、私はこの政策が介護福祉士の志望者数を増やしてくれると期待しています。
しかしこれで低賃金という問題が本当に解決し、安定的な人材の確保ができるでしょうか?いや、無理です。なぜなら、政府は重大な要素を忘れているからです!

政府が忘れているもの、それは離職率です。
施設介護の現場に勤める介護福祉士の離職率は、なんと25%でこれは一般職の離職率が17%、訪問介護員ですら18%ですから高すぎる数字だと言えるでしょう。
現在介護福祉士の資格保有者は平成19年度時点で64万人ほど居ましたが、実際に介護関係の職に就いている人は43万人でした。20万人もの人が資格を保有しているにもかかわらず、介護の仕事を辞めてしまったのです。
離職者を対象に行ったアンケートによると、その理由の上位三つは、「仕事がきつい」25%、またそれにより「体調を崩した」20%、「給与等の待遇が不満」32%、「となっており、やはり一つ目に過酷な労働環境、二つ目に低賃金が大きな問題になっていることがわかります。

ではそもそも、なぜ施設で働く介護福祉士にばかり負担がかかるのでしょうか。
それは、現在の介護体制において「介護の分業化」がなされていないからなのです。
現状を分析してみると、施設には介護必要度が高い人と低い人が混在しています。介護必要度が低い人に、本当は必要のないサービスまで提供しているのです。このことが、介護士の仕事量を増やし、負担を重くしています。そしてまた、施設介護の依存を強めたために、老人ホームの入居待機者数38万5千人、という、施設が高齢者を抱えきれなくなった、新たな問題も起こってきています。
施設に入所する必要のない人は、訪問介護やデイサービス施設を利用する、これにより介護の効率が上がり、介護福祉士の負担も減るのです。そしてこの体制の確立には在宅介護という柱が必要となります。つまり在宅介護の推進によって、過酷な労働環境という問題点が改善できるのです。
そして実は、「住み慣れた自宅で一生を終えたい」といった理由から、6割もの高齢者が、自宅での介護を望んでいます。在宅介護を希望する人は、決して少なくないのです。そして比較的軽い介護必要度だと診断され、基本的に歩行ができ、日常生活を送ることのできる要介護認定者の割合は6割以上に上ります。また、金銭的な面からみても在宅介護は施設介護に比べて負担が軽く、高齢者の家族にも大きなメリットがあるのです。
しかし、現状として在宅介護は進んでいません。在宅介護は、制度は存在していても、十分な実施がされていないからです。そしてその理由はやはり介護福祉士の人材不足に帰結します。
訪問介護を行っている事業所の6000社を対象に行ったアンケートでは、半分以上の事業所が、優良な人材の確保が難しいと回答しています。在宅介護の需要はあっても、人材不足のために事業所は経営不振に陥り、企業は、在宅介護産業への参入を断念してしまうのです。これでは在宅介護の推進は図れません。在宅介護の推進のためには、まず人材確保なのです。

ではどうやって人材を確保していくのか、そのためには離職率の原因、低賃金を解決しなければなりません。そこで私は一つの政策を提示します。
それは勤続年数に応じた介護福祉士の昇給制を導入することです。
これは、先に述べた介護職員の給料19万円を、勤続年数3年で22万、6年で25万円にまで引き上げる制度です。月給25万円というのは年収にすると400万円ほどになり、20代後半から30代前半の平均年収に近づきます。これにより、低賃金という問題が解消されるのです。財源に関しては、保険料の引き上げで賄うこととします。この引き上げは、人材問題という問題の解決に必要なものであり、決して無駄なものではないと考えています。
安定的な人材が確保されることで、介護産業は活性化され、在宅介護の体制が確立されます。そして、私の目指す介護の分業化、効率化を実現することができ、3Kと言われていた、介護福祉士の過酷な労働環境が改善し、結果、人材問題が解決するのです。こうして高齢者、家族、介護福祉士、誰にも負担が偏らず、誰もが望む介護の形が出来上がるのです。

介護とは大変苦労する問題です。最近では老老介護という言葉も生まれているように、介護は高齢者の家族にまで大きな負担となり得ます。国による介護サービスの提供は、不可欠なものであるのです。
介護保険により一人ひとりに合った在宅介護の制度はできました。それを実行できる体制を確立すること、それが今の日本の介護に求められているのです。


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