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演題 「親と学校と子供と教育」

弁士 会田良明(法1)

いじめ、不登校、学級崩壊、学力低下・・・みなさん、これらはいったいなんでしょうか。これらは今の学校が抱えている教育問題です。
教育は人間にとって、非常に重要なものです。特に、ここにいる皆さんも受けた、義務教育は、人間の人格形成、社会性にとって、非常に重要な地位を占めており、日本の未来を担う子どもたちの、大人になるために、基盤を形成するものです。
そんな重要な教育の質を低下させる以上の問題は、早急に解決しなければなりません。
しかし、以上の問題は学校のみが解決しようとして解決するのは難しいです。
子どもへの教育を成り立たせる2つの要素、それは学校と親です。
以上の問題は学校教育と家庭教育の双方が協力して解決していく必要があります。
「学校」「親」そして「子供」、この「教育トライアングル」によって、子供たちへの適切な教育は成り立っているのです。

しかし、親と学校という教育を構成する非常に重要な部分に今問題が生じ、子どもたちの学校教育に悪影響を及ぼし、結果、教育全体の質低下を招いている現状があるのを、皆さん知っているでしょうか。
そう、その問題とはモンスターペアレントです。
モンスターペアレントとは、学校側を相手取り「うちの子には自宅で掃除をさせていないので、学校でもさせないでほしい」「自分の子どもが風邪でテストを受けられないので、代わりに自分が受けに来る」といった、学校側では解決不可能な、理不尽なクレームを突きつける親のことです。
モンスターペアレントによる学校への被害は近年増加傾向にあります。まずクレームの件数では、江戸川区教育委員会では、苦情電話件数が、02年度に59件、04年度に96件、06年度に206件、というように増加していき、2007年度には3ヶ月で約90件というように、過去五年で6倍にもなっています。
また、クレーム内容としましては、東京都が2007年に調査したところ、・学校では解決が不可能、かつ、長期間にわたって行われたトラブル・クレームは、234校で、計326件発生していました。
その手段も悪質なものが多く「深夜に教員の自宅に数時間に渡って電話をする」「教員の家に脅迫めいた文章を送る」などがあげられます。
また、このうち75パーセントは1ヶ月以上、25パーセントは一年以上も続いているクレームとなっており、教員の仕事を増やし、精神的なストレスの種となっています。
また、これは長期間と限定したものであるため、実際に学校に来る理不尽なクレーム件数はもっと多いと考えられます。
また、こうした被害は学校教育の質に悪影響を与えます。
理不尽なクレーム対応による雑務の増加は授業準備時間を減少させ、それに伴うストレスは教員の余裕を奪います。
全国の小中学校校長を対象とした「親の理不尽な欲求が教育の阻害になっているか」というアンケートでは「深刻」が8割、その内「非常に深刻」は3割となっています。
また、近年、親への対応の電話相談件数が急増しており、教師を辞めたいという人の8割が親からの攻撃を主原因としています。
また、相した要因で精神疾患となり、休職する人は年々増加傾向にあり、その場合、臨任教師に対しての引継ぎなど、仕事が更に増えていきます。
現状で「授業の準備時間が足りない」と訴える教員は小中学校で7割以上に及びます。
増加傾向にある親からの理不尽な欲求、学校側との押し問答、それらに伴う仕事雑務の増加、それによる教員の精神的ストレスの増大、ただでさえ少ない授業準備時間のさらなる減少、結果としての子どもの学校教育の質低下・・・本来支えあうはずの親が学校教育に悪影響を与えているのです。


こういった現状に対して政府はどのような手をうっているのでしょうか。
全国2000ある教育委員会のうち、モンスターペアレント対策を行っているのは、大阪市教育委員会のクレームマニュアルなど、20しかありません。
現状をみても、被害は拡大していく一方です。もはや社会問題とも云われるモンスターペアレント。喫緊性、重要性の点から考えても、国が全国に何らかしらの対策を打つ必要があると考えます。

では、以上の問題の原因はなんなのでしょうか。
まず、私はこういった現状における原因を、親側のみから導き出そうとするのは間違っていると考えます。
これは、1つの歴史的背景と、親、親と学校の関係、学校の3つの現代の要因が段階的に原因となっている、いわば一つの現象なのです。
以上の点を踏まえ、モンスターペアレント発生までの過程を示しましょう。

まず、歴史的背景としては、
・1980年代以降のいじめなどの校内暴力の顕在化
が考えられます。
昔は教師は尊敬の対象でしたが、いじめなどの問題の顕在化により教師への信頼は低下しました。
実際、生徒の反応を確かめずに一方的に授業を進めるといった教育指導力不足の教員は2004年の566人を最高に増加傾向にありました。
理不尽なクレームが1990年代後半から増え始めた点からも、この背景に起因する学校不振が考えられます。
モンスターペアレント発生の最初の段階となる要因は親側の要因である・子育て上の親としての知識不足と・教育ストレスの蓄積です。
従来は親の親や地域の人々との交流は、教育をする上での知識を付与したり、教育ストレスの分散といった機能を果たしたりと、地域社会が個々の親の不満の緩衝材となっていました。しかし現在では核家族化・孤立化が進み、そういった機能が働かず、クレームが出やすい状態になっているのです。

そして、第二の段階となる要因は、親と学校の関係の要因である学校と親の教育の認識のずれです。
学校と親のコミュニケーションは十分かというアンケートに対して、学校は6割が十分と回答したのに対して、親側はわずか2割しか十分でないと回答しました。
また、PTA活動の参加も昔と比べて低いといわれ、今は約3割の参加率で推移しているところもあります。
両者の関係不全のため、双方の役割が共有化できず、そのズレがクレームをうむと考えます。

そして第3の段階となる要因は、学校側の要因である学校のクレーム対応力不足です。
ほとんどの民間企業がクレームに対して研修制度を設けているのに対し、同じように人を扱う教員たちはそういった能力を向上させるための制度がありません。
段階2で生じたクレームを適切に処理することができず、結果として多くの時間、精神的余裕を削り、学校教育に悪影響を与えるモンスターペアレントとなるのです。

では、この問題を、如何にして解決していけばよいでしょうか。

まず、背景である指導力不足教員に対しては、各都道府県が人事管理システムを導入し、その数は2008年に360人と、年々減少傾向にあります。
しかし、そうした背景の変化にもかかわらずクレーム被害は上昇しています。
これは子の背景から生まれたモンスターペアレントが現代の要因で肥大化し、結果として従来での適切な教育を行ったとしてもクレームが生じてしまうようになったためであると考えられます。

以上の点から、モンスターペアレントを肥大化させ、実質的に発声させたとも言える現代の3つの要因を解決することがモンスターペアレントを解決する手段になる、と私は考えます。

現代の3つの要因に対して、私は2つの面から政策を示したいと思います。

まず、理不尽なクレームが北場合の対処法、事前策として
・各都道府県に専門委員会の設置
を行い、ここでは
1クレーム対応のための教育研修制度
2学校での解決不可能、かつ複数回にわたるクレームの処理
を行います。
ここでの専門委員会のメンバーは、臨床心理士、弁護士、教師とします。

1は、さまざまなクレームに対していかに対応すべきかという方法を研修会で身につけさせるものです。小中学校の新人教員が各学校に配属されるまでのプロセスに制度として導入し、既存の教員に対しては、各学校に専門委員会のメンバーを派遣して、研修を行います。
2は2007年から神奈川県が行っているもので、これにより、東京都で300件以上あった長期間にわたって行われる理不尽なクレームを早急に解決することが可能となります。また、調停にいたり、指導力不足など教師側に非がある場合は学校に指導を行います。

次に、そもそも理不尽なクレームが発生しないことを目的とする、事前策として
1.親に対して小1、小4、中1の4月に複数回にわたっての教育指導講習会の開催
2.その他の期間は2ヶ月に一度のクラスごとのPTA全体会の開催
を行います。

1に関しては、臨床心理士、学校教諭、そして、親学アドバイザーの3つの専門家による、これからの3年間を、親として、いかに子供と接していけばよいか、また、親と学校の関係は、いかにあるべきか、を複数回にわたってレクチャーする、というものです。
親学アドバイザーとは、財団法人親学推進協会が認定する、親としての総合的あり方をしめす資格のことです。具体的には、育児ストレスの対処法、親と学校との連携の対処法、などに関しての専門知識を持っています。
また、4月にまとまって、複数回にわたってレクチャーを行うことにより、親同士の交流も深まり、それからの3年間を過ごす上での仲間を作る機会となります。
2に関しては、1の終了後も継続的に1と同様の専門家たちとの交流を持つことで、親同士、そして学校との教育に関する意識の共有化が図れます。
これらの日程は学校の独断ではなく、一度親側に都合のあう日を聞き、それらに基づき最も多くの親が参加できるように日程調整をします。

参加は任意としますが、PTAの日程を親の都合に合わせ、活動に子どもへの教育などの明確な意義を持たせた学校ではPTAの参加率が8割をこえた例や、親学アドバイザー研修を行った際に「親の苦情によりも協力する体制を強められた」と効果を指摘した点を考えても効果的であると考えます。
また、事後策とのリンクとして、調停の段階で自身に非があると判断された親に対しては、教育指導講習会やPTAへの参加を促す通知を行います。

以上2つの面からの政策により、モンスターペアレントが解決し、学校教育力の向上になり、また、同様に学校との協力体制を構築し、家庭教育力を向上させることとなり、結果、教育力全体の向上につながり、不登校などの問題に対して効果的な手を打てるようになります。

義務教育は、子どもたちの未来を左右します。そして、その教育をうけた子どもたちが、日本の未来を切り開いていきます。
学校と親、子の2本柱が互いに支えあうことで、子どもたちによりよい教育を受けさせることができるようにと願いつつ、この弁論を終えたいと思います。
ご清聴、ありがとうございました。


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