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演題 「防人のその手には」

弁士 福田直人 (政1)

戦後日本は、我々の身を守るために、自衛隊を保有してきた。
国益を、国民を守るための最終手段としてだけでなく、私たちが毎日平和に暮すために、最近では、国際貢献といった、外交の手段として、時代を経るにつれ、自衛隊の役割は変化・増大していった。
ところで、自衛隊が、この役割を果たす上で欠かせないものがある。
それは、「正面装備」だ。これはつまり、戦車や戦闘機といった、兵器である。例えば、安全保障においては、領空侵犯を阻止するために、年間300回も、戦闘機が発進している。国際貢献においては、インド洋での給油活動などが挙げられる。このように兵器である、正面装備が活用された例は多々あるのだ。

では、これら「正面装備」、さらには自衛隊を支えるものとは何であろうか?
それが、「防衛産業」である。日常の業務から、防衛のための様々な装備、衣服さらには食糧まで、多種多様なモノを自衛隊は必要としている。特に、正面装備は、この民間企業が中心の、防衛産業の力が大きい。

このように、自衛隊、ひいては日本国の安全保障全体に関わる防衛産業であるが、聴衆の皆さまはご存じだろうか?
今、防衛産業から撤退する企業が、確実に増えている事を。
さらに、それによって、正面装備の生産を支える、重要な、人材や機械などの「技術基盤」が失われていることを。
この技術基盤は、日本の安全保障にとって必要不可欠なものである。我が国国土の特性、特有の事情にあった装備を作り輸入の難しい製品を提供したりするだけでなく、その装備品の能力向上も可能にする。また、技術基盤が積み重ねる経験によって、新しい技術が出ても対応することができるのだ。
さらに、突発的なアクシデントにも強い。
2007年に、アメリカでF15という戦闘機が空中分解事故を起こし、日本の、同じ型の戦闘機202機に対し、飛行停止令が出された事があった。
日本を空から守る上での主力の戦闘機が、その役目を果たせなくなってしまったのだ!しかし、日本は独自に調査し、原因を把握し、すぐにF15を飛ばせるようになった。これも、技術基盤が維持されてきたおかげである。
平時であっても、装備品には確実に運用ができることが求められる。そして、先の例のように運用には技術基盤がある事が大きく影響するのである。

それでは、防衛産業の現状はどうなっているだろうか。
日本の防衛産業の特徴として挙げられるのは、
一つ目に、市場の小ささに対し、関連企業は多いこと
二つ目に、個々の装備品で見た場合、製造できる企業は少なくなる
この二つが挙げられる。

まず一つ目について
現在、日本で防衛装備品の製造に関わる企業は非常に多い。
防衛省のアウトソーシングだけを見ても、戦闘機では1200社が、護衛艦では2500社が関わっているとされている。
その一方で、国内では防衛省がほとんど唯一の需要である小さい産業だ。にも拘わらず、戦車や戦闘機などの兵器に、かなりの数の装備品、部品が使われているため、関連企業は多くなる傾向にある。

そして二つ目。
これら個々の装備品、つまりは戦車の砲身などの、兵器のひとつひとつの部品を製造できる企業は少なくなる傾向にある。メーカーは一社~数社に絞られ、そのほとんどが中小企業である。

つまりは、防衛産業、技術基盤を支えるのは、中小企業なのである。
そんな中で、現在、防衛産業からの企業の撤退が始まっている。
戦闘機関連の企業では、燃料タンクや、航空機用のゴムタイヤなどを製造する企業のうち、20社が事業から既に撤退、あるいは撤退する事を決めている。戦闘車両関連では、油圧部品、ギア・シャフト、電装品全般などを製造する企業のうち、13社が倒産し、35社では技術が失われつつある。
こういった中小企業の撤退により、今後喪失が懸念される技術基盤は非常に多い。さらに、一度失われた基盤を復活させることは難しく、多大な時間もかかってしまう。
仮に、技術基盤がなくなったらどうなるだろうか。
まず、装備品の運用が不安定になる。修理、補給にも悪影響を与え、装備品の開発、製造もできなくなり、海外に頼らざるを得なくなる。つまりは、安全保障において、多大な悪影響を及ぼしかねないのである!

では、企業が撤退する原因とは何であろうか?
答えは簡単だ。儲からなくなってしまった、あるいは儲かりそうになくなったからだ。
そもそも、防衛産業は、その特徴から、コストが高くなりやすかった。
それでも、今までは確実な需要があったため産業が維持されてきた。
しかし唯一の需要である防衛省の予算の変動が大きく影響した。
5年以降、主要装備品契約額、つまり、戦車や戦闘機などの装備品を調達した、新規契約の額は、平成二年の1兆7百億円をピークに、平成19年には7千4百億円まで減った。
その一方で、装備品の修理、整備等にかかる予算は増大している。
平成2年には4千7百億円だったのが、平成19年には7千5百億円まで増えた。これは要するに、儲かるほうの需要が減って、儲かりづらいほうの需要が増えたということだ。

しかし、現状を放っておいて、国内の技術基盤が失われることで、日本の安全保障が脅かされる事態は絶対に避けられなくてはならない。
だからこそ、今必要なのは、防衛産業、特にその裾野に広がる中小企業の維持、再編なのである!

そこで私は以下に政策を述べたい。
政策は主に二つ。
一つ目に、防衛産業に参加する企業に新たな資格を交付すること。
二つ目に、防衛産業の中小企業を主な対象としたあっせん介入制度を設けること

まず一つ目について。
これは、最終需要者が防衛省、つまり、防衛省に装備品の供給を行っている企業に対し、「防衛産業参加企業」という資格を交付する。その際、その企業が何をどれだけ製造しているか、防衛省向けの需要、利益などのデータを定期的に提出させる。この、データ提出の際は、防衛省から支援を受けられるようにもする。
仮に、資格を保有する企業が防衛産業から撤退する場合は、提出されたデータを基に、防衛省が企業撤退の許認可を決める。
つまり、防衛産業から撤退しようとしても、防衛省から許可が下りないと撤退できないようにするのである。
しかしながら、これでは撤退する企業にとっては負担である防衛部門を無理矢理維持させ続け、悪戯に企業を痛めつけるだけである。

そこで二つ目の政策に企業の斡旋制度を挙げたい。
これは、先のデータを基に、撤退することが望ましくないとされた企業が撤退する場合に使われる。具体的には、撤退を希望する企業に対し、他企業との事業統合、あるいは、技術基盤の受け入れ先をあっせん、それが難しい場合は低金利融資や資金注入等を行う。
これにより、特に収益の出にくい修理、整備を中心に行う企業を統合し、再編を進め、全体的な体力増強を目指す。
合理化、再編を進めてもなお、企業経営が好転せず、さらに、国防上必要と判断した場合には、低金利融資あるいは資本注入を行い、技術基盤喪失により安全保障が脅かされる事態を防ぐ。
さらに、この斡旋制度は、先の資格を保有する企業のみが使えるようにし、一点目の政策の、資格の取得を促す。

以上二つの政策により、防衛産業の動向を把握し、企業の撤退に介入することで、技術基盤の喪失への予防策を打てるようになり、さらに防衛省主導の産業再編が行える。そして、技術基盤を維持し、安全保障全体に悪影響を及ぼすことを防げるようになるのだ!

戦後60年、大きな武力衝突に巻き込まれることもなければ、日本本土が攻撃を受けることもなかった。しかし、平時での安全保障から、国際貢献に至るまで使われてきたように、防人のその手が扱ってきた装備品は無駄なものであるどころか、絶対に欠かせないものなのである。
防人のその手には、日本の安全、安心、そして威信が握られている。
だからこそ、その防人を支える防衛産業の変革が、今こそ必要なのである!
ご清聴ありがとうございました。


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