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演題 「食糧自給率から見えるもの」

弁士 杉本篤彦(政2)

・ テーマ・現状/重要性
「日本の食糧自給率39パーセント!」
この数字を見て皆さんはどう思われるでしょうか。内閣府の調査では国民の約8割が日本の食糧自給体制に不安を抱えているとされています。この数字からわかるように世間での関心は高く、食品産業・NPO・マスコミ・国会・そして私たち学生に至るまで、食糧自給率問題について、大規模化・減反政策・国産PR・流通革命・ブランド化など多種多様な視点から議論や取り組み行われてきました。
しかし、これらの議論や取り組みにも関わらず日本の食糧自給体制の根本を支える農村は厳しい現状にあります。

・現状分析
現在、日本の農業従事者の約7割が65歳以上の高齢者であり、農家の約8割が生産効率の悪い零細農家であります。また農地は従事者の高齢化に伴い耕作放棄地が増大し、現在その数約39万ヘクタール、さらに毎年1万ヘクタールから3万ヘクタールもの農地が転用により失われ、ここ50年間で見ますと、なんと実に約250万ヘクタールの農地が消滅しているのです。
私たちの食糧自給体制の源である農村には大きな役割が二つあります。 
まずひとつ目に、農村の水田や畑がもたらす多面的機能が挙げられます。日本学術協会の試算によると一年当たりの効果として、水田や畑の持つ機能を金額ベースで計算すると、洪水防止・土砂崩れ防止・水資源の涵養機能などで8兆円もの経済効果があるとされています。
そしてふたつ目に、食糧安全保障が挙げられます。先行き不透明な世界の食糧需要と供給の伸びや、おととしの穀物価格高騰により輸出国が相次いだ輸出規制をおこなったことなどによって、食糧危機が叫ばれたのは記憶に新しいでしょう。政府の「食料・農業・農村基本計画」では、食糧安全保障の最低ラインを470万ヘクタールの農地維持としています。

もう一度農村の現状をみてみましょう。日本の農村は高齢化が進み、多くが兼業農家という現状において水田・畑の管理体制を維持するのは困難であります。耕作放棄地の増大がそれを物語っているでしょう。また多くの農地が毎年消滅し続け、現在の日本の農地面積はなんと食糧安全保障の最低ラインを下回る463万ヘクタールにまで減少しているのです。
そこで近年新たな農業の形として注目されているのが農業経営体の大規模化であります。大規模化は規模や地域によって差異はあるものの生産効率を向上させ、生産コストの削減と労働時間の短縮をすることができます。ここ5年間で3ヘクタール未満の零細農家の経営体は軒並み減少し、3ヘクタール以上の経営体は軒並み増加、10ヘクタール以上の農地を持つ大規模農家と呼ばれる経営体は3.4パーセント増えました。
また農業生産法人・集落営農体・一般企業等の大規模農業体に新規に雇用される人の約6割が39歳以下の若い就労者なのです。
近年農業経営体の大規模化が農地の有効利用と若い担い手の確保に貢献してきたのは間違いないでしょう。

しかし、現状をまとめますと高齢化率の増加・耕作放棄地の増加・農地の減少には歯止めがかっていません。食糧自給体制の源である農村の役割が十分に発揮されない状態では、新しい日本の農業の担い手である大規模農家の促進の大きな障害になり、いくら農産物貿易保護を行っても、農家に補助金をばら撒いても、無駄な財政支出を増やし、日本の農政をますます混乱させるだけなのであります。

・ 問題点
以上のような現状を踏まえて以下に3点の問題点を挙げたいと思います。
1)多くの零細農家が農地を貸さない。
2)零細農家が耕作放棄地を増加させ、さらには農地を減少させる。
3)農地データの分散により新規参入が難しい。 
の3点であります。

まず1点目、多くの零細農家が農地を貸さないということですが、
現在農地法により農地は一般住宅と比べ相続税・固定資産税が低く設定されているため、農地を所有するコストは低くなっています。このため多くの農家が農地を公共事業やショッピングセンターなどに転用することで得られる莫大な収入のために転用機会を待ち続ける現状があります。よって農地の流動化が進まず、あまり農業に意欲の無い農家でも農業を続け大規模による効率化が図れないのです。

続いて2点目、零細農家が耕作放棄地を増加させ、さらに農地を減少させるということに関してですが、
そもそも農地の農外転用は、農地法・農振法によって厳しく制限されています。限りある農地を農地所有者の思うままにむやみに転用されてしまうと、二度と農地に戻れない土地が増え生産効率が落ちるのです。
しかし農地の転用規制や監査を行う農業委員会は、在住農家の中で選ばれます。営農意欲の低い零細農家が圧倒的多数を占める農村の現状では、農業利益よりも、転用による収入に迎合した規制の運用がされがちであります。また権限者である市町村長、都道府県知事にしても公共事業を誘致せんがために、また圧倒的に多い零細農家の意向を汲むために転用規制が甘いのです。
よって零細農家の転用期待はますます高まり、耕作放棄地は増え、転用による農地面積の減少は進む一方なのです。

最後に三点目、農地データの分散により新規参入が難しいということですが、農地の情報は農業委員会や土地改良区等の関係機関が限定的な情報をバラバラに保有しています。よって農地の貸付・売却物件について、どこに、どんな農地が、どんな条件でなどの情報が不足しているため、地縁的つながりの無い新規参入者が把握・整理された農地情報を手に入れにくい現状にあります。今までの農業の大規模化はその土地に住む農家によって行われてきました。今後、農地貸借の規制緩和によって増える新規参入者に整理された農地情報を提供することは急務であります。

・解決策/理由・根拠

以上の問題を解決すべく私は以下に2点の政策を述べたいと思います。

1)転用機会を待つ農家の耕作放棄地に対して優遇税制を見直し、耕作放棄地への固定資産税課税を一般住宅地と同水準にまで引き上げる。
2)「農地監査委員会」の新設による転用監査の強化と農地情報のデータベース化。

1点目の政策により農地を耕作放棄地にすると高い税負担となるため、農業に意欲的でない零細農家が農地を大規模農家に貸借するメリットを、転用に期待するメリットより大きくすることができます。これにより転用に期待して農地を貸さず耕作放棄地が増える現状が改善され、農地の流動化が促進されます。

そして2点目の政策、「農地監査委員会」の新設による転用監査の強化と農地情報のデータベース化ですが、まず農地転用の法規制がされているのにもかかわらず、違法な転用を黙認し、公共事業を行う都道府県と市町村、在住農家の中から選ばれ、零細農家の意向が反映されやすい農業委員会の農地転用許可権限を、この新設する「農地監査委員会」に移し、原則として非農地への転用を禁止することによって、法にのっとった許可体制を構築することができます。農地の有効利用と保全を目的とする監査委員会の委員は環境NGOなどの有識者で構成し第三者機関とします。
また「農業監査委員会」が農業委員会や土地改良区が分散して持つ農地情報をデータベース化することにより、転用規制体制を強化するとともに、大規模農業に取り組もうとする新規参入者に対する情報提供が可能となります。

以上2点の政策により、初めて耕作放棄地の増加・農地の減少に歯止めがかかり日本の食糧供給源のである農村の土壌が肥えて、若者が担い手の大規模農業が芽生えるのです。

・ 展望
私たちの食糧供給体制の根本を担う農村が今衰退の危機にあります。食糧安定供給の源である農地と担い手に救いの手を差し伸べなければ。
健康な生活、健やかな家庭や社会、農業という産業、美しい国土、農業に携わる人々に、そしてなによりもずっと食べていかなくてはならないこれからの子供たちのために。
「食糧自給率から見えるもの」、それが輝かしい日本の農政であることを願い本弁論を終了させていただきます。
ご清聴ありがとうございました。


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