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演題 「架橋」

弁士 野田悠輔 (政1)

私たちは今までどんなに医療にお世話になってきたでしょうか?病院で生まれ、乳幼児期には定期健診を受け、小中学生期には予防接種を受け、病気になれば医師にかかり、これからも死ぬまで生活とは切っても切れない関係であり続ける事は間違いないでしょう。
今日、私たちは世界最高水準の医療を受けられる中で生活しています。このことは私たちに大きな安心をもたらし、安定した生活の基盤を作ってきました。
しかしその医療が崩壊しつつあります。それは医師の労働環境の悪化によって起きる医療の質の悪化です。

それでは、現状として医師の労働環境はどのようなものなのでしょうか。それは大変厳しいものであります
厚生労働省の「医師の需給に関する検討会」の調査では、平均的な医師でも月90時間以上は時間外労働をしており、地域によっては3割もの医師が100時間を超える時間外労働をしています。これは同省の過労死認定基準を大幅に超えています。
また、日本の医師ひとりが、年間に診察する患者数は、8,500人でOECD平均が2,400人なので欧米の3.5倍の患者さんを診察していることになります。
これらの労働環境の悪化は集団退職や救急科、小児外来といった診療科の閉鎖、機能不全の原因ともなっています。
不足する労働力の中、過酷な労働を強いられ退職、一人の医師が退職するとさらに厳しくなり次々と集団退職をしたり、さらには後任の医師が見つからず診療科の閉鎖、機能不全になるという事例は多々あるのです。
これにより救急患者の受け入れにも影響が出ており、特に問題視されている4回以上の受け入れ拒否は年2万回以上に上ります。さらに、11回以上の受け入れ拒否も2千回以上に上り、多くの患者さんが早期に適切な医療が受けられない事態にあります。

では、これらはなぜ起きているのでしょうか。その原因は、
1つ、「医師全体の絶対数の不足」
2つ、「地域偏在」
3つ、「診療科別の医師数の不足」     というものが影響しています。

まず、1つ目の医師全体の絶対数の不足についてですが、例えば先ほどの、救急患者のたらい回しの原因は消防庁の発表によりますと約4割は医師の不足によるものです。
また、日本の医師数を国際比較してみると、日本の医師数は、ドイツの6割、アメリカの7割という状況です。
これは、昭和61年に厚生労働省により医師の削減が決定され、今日に至るまで医学部定数が削減されて来たことが大きく影響しています。ですので、現在、政府は医学部定数を増やす方針を明らかにしています。
しかし、どの位増やすかは具体的に決まっていませんし、ただ増やすだけでは増加分が再び都市部に集中してしまうだけなのです。これでは2点目に挙げた「地域偏在」につながってしまいます。

続いて2つ目の医師の地域偏在ですが、厚生労働省の調べによると、都道府県別にみた人口10万人に対する医師数は、1番多い県が273人なのに対して、1番少ない県は136人とその差が140人近くにも上ります。
また無医師地区も平成16年の調査で約800か所に上ります。このことは約16万5000人の方々が風邪、おう吐といった軽症状を取り扱う通常医療から緊急性を伴う症状を扱う救急医療まで医療全般を適切に、早期に受けられないことを示しています。
この地域偏在も不足地域の労働環境の悪化を引き起こし、医療の質の悪化を招くのです。
これは、地方の病院に自主的に勤務するインセンティブは無いことが原因です。勤務状況によっては、根本的な医師不足により、ほぼ24時間365日の拘束を要求する病院もあり、「給与が割に合わない」、「体が持たない」と、辞めるケースもみられます。
ですので、一部の地方大学では、「学費を免除する代わりに定められた期間をその大学がある県で働く」という条件の下、特待生制度を導入しています。
しかし、それでは、行なわれている県とそうでない県で格差があること、重点的に医師を配置しなければならない地域に柔軟に医師を派遣できないことといった問題があります。

最後に3つ目の診療科別の医師数の不足についてですが、昨今盛んに報道されております、産婦人科は眼科・精神科の医師が増える一方で全国の大学病院とその関連病院に勤務する産科医は合計4739人で、たった2年間で8%も減り、お産を扱う病院も1009か所から914か所に10%も減少しました。
これによりおよそ2万8千名もの方が安心して出産に臨めないといった事態になっています。
このような診療科別の不足は、産婦人科、小児科といった、給与は他の科とあまり変わらないのに、時間外労働が多く、労働環境が厳しい科であったり、訴訟等のリスクを負いやすい科で起こりやすく、そのような構造がさらなる不足を呼ぶといった負の連鎖を引き起こしています。しかし現在有効な政策を打てていない現状があります。

ここで先述の問題、政策の穴を解決するために次の政策を提案します。
1つ、全国各大学の医学部定数に「800名の特待生枠」を設ける。
2つ、「人材バンク」を設ける。
3つ、「診療報酬による差別化を図る。」 この3つです。

まず1つ目の特待生枠についてですが、奨学金を与え学費を免除する枠を設け、医師の絶対数の増加を行います。しかし先述のように数だけ増やしても意味がありません。

そこで2つ目の政策として、全国各大学の医学部で奨学金を受けて卒業した学生を一元的に管理する人材バンクを厚生労働省に設け、卒業後9年間学生を全国、適材適所に派遣する権限を与えます。
この際の奨学金負担は派遣を受けた人数分に比例する形で都道府県が行い、一定額国も負担します。
また、人材バンクの2つ目の役割として都道府県別の不足診療科、地域の調査を行います。と言いますのも、不足診療科、地域というものは都道府県ごと、さらに細かく言うと病院ごとに異なるからです。これで、より実情にあった派遣を行えるようになります。

最後に3つ目の政策、「診療報酬による差別化を図る」についてですが、医学部卒業後と九年間の義務年限の終了後の人材バンクへの定着を促すために人材バンクに登録している医師に限り、患者を診察した際の診療報酬1.2倍とし、給与を引き上げます。
また診療科の偏在を是正するためにまず不足診療科に所属する医師は1.3倍、救急科に所属する医師は1.4倍にそれぞれ診療報酬を引き上げ、給与を引き上げます。
この際に二つ目の政策で述べた人材バンクが調査した都道府県別のデータが活用されます。
この診療報酬とは医師の収入ではなく病院の収入になりますので、勤務医に対しては診療報酬の引き上げが給与の引き上げがつながらなくてはなりません。 
ですので、人材バンクに登録している医師を雇用する病院には雇用した医師の給与の引き上げを義務づけ、その監視も人材バンクが行います。
実際に、以前眼科医が減少していたのを、診療報酬の引き上げで、回復させた実績があります。

まとめますと、まずこれらの政策により、医師の絶対数を底上げする事ができます。そして地域に派遣する権限を与えることで、医師の配置を柔軟に、実情に合ったように行えるようになり、無医師地区、医師不足地域を削減します。さらに、診療報酬による誘導で、不足診療科の削減ができ、最終的に医師の労働環境の改善につながり、医療の質も向上します。
以上の政策によって医療の質を低下させる要素を排除し、安心して暮らせる世の中になるでしょう。

私たちは今までどんなに医療にお世話になってきたでしょうか?皆さんもこれからずっと高いレベルで医療を受けたいと思うでしょう。そして未来の世代へも受け継がなければなりません。私の政策が架け橋となることを願って本弁論を終了します。
ご静聴ありがとうございました。


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