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演題 「麻薬対策に新たな手」

弁士 吉田昌弘 (商1)

2008年11月、諸大学において麻薬の所持や使用による逮捕者が続出した。
私は、同じ大学生となった今、私たちの安全を脅かす麻薬に、どう立ち向かうかを考えた。

初めに、麻薬の現状を知らなくてはならない。
平成19年の薬物犯罪の検挙者は、約15,000人。そして、この薬物事犯者の内、6割弱(7,800人)が再犯者である。薬物事犯者は、検挙者全体がほぼ横ばいであるのに対し、再犯率は10年前から伸び続けている。
薬物事犯者が、再犯をしてしまうのは、「クスリなしでは生きていくことができない」、「何よりもクスリが一番大事」という依存性が関係している。
薬物事犯者は刑務所に入り、そこで依存症から一度脱却するはずである。
ところが、再犯率は減少するどころか、むしろ増加している。これは、本当は依存症から脱却できていないからではないだろうか?
つまり、このことは、現在の再犯防止策では効果がないことを表しているのだ。
薬物依存は、一人では治すことのできない“病気”なのである。
だからこそ、薬物事犯者を“処罰”の対象として扱うのではなく、薬物の依存症から脱却できない “病人”として扱い、“治療”することで、再犯防止に繋がるのである。

では、現在はどのように再犯防止策がなされているのか?
現在、刑務所内において、“薬物依存離脱指導”という、「薬物の再使用にいたらないための方法を考えさせる」グループミーティングを、週1回から月1回程度で行っている。しかし、これは刑務所内という、麻薬から隔離された世界で行われている再犯防止策である。刑期を終え、麻薬のある世界へ戻り、ストレスを感じると、再び麻薬へ走ってしまうのだ。

以上のことから、薬物再犯防止に必要なのは、麻薬のある世界で薬物の誘惑に耐えることである。そこで初めて耐えられてこそ、薬物の依存症から脱却できるのである。

では、麻薬のある世界で治療する方法があるのか?

ズバリ、その方法が“ドラッグ・コート”なのである。

“ドラッグ・コート”とは、一般の刑事司法手続ではなく、治療的な手続に乗せ、裁判官が監視するという特別な裁判所である。そして、ドラッグ・コートを卒業できれば、起訴や拘禁を回避できる制度である。ドラッグ・コートは、裁判官、検察官、弁護人が協力して、薬物事犯者に再犯をさせない“治療”である。
実際のドラッグ・コートはその裁判所ごとに行っている内容は違うが、“10のキーポイント”の下、週2,3回の強制的尿検査や、自助グループへの参加、月1~3回の裁判所への出頭が義務付けられている。

刑務所内という、麻薬から隔離された世界ではなく、麻薬のある世界で更正するドラッグ・コートには、柔軟な対応をするために、症状の重さによって、3つに分類される。
1つ目が、外来治療である。これは、比較的症状が軽い人向けである。週に数回、施設に通って薬物を断つプログラムを受ける方法である。
2つ目が、通所である。これは、症状が家にいても問題がない人向けである。毎日施設に通って薬物を断つプログラムを受ける方法である。
3つ目が、入寮である。これは、症状が重い人向けである。施設に入所して薬物を断つプログラムを受ける方法である。

ドラッグ・コートは1989年からアメリカのマイアミ市で始まり、現在ではアメリカ全土で約2,300箇所の裁判所で運用されている。アメリカで始まった背景には、刑罰をもっても再犯者が減少しなかったことにある。そこで、薬物依存症という“病気”であるのだから、根本原因の薬物依存症を刑事司法手続に取り込めば、再犯者が減少すると考えられ始められた。アメリカ国内でドラッグ・コート修了者と、受けていない者の再犯率を比べると、修了者は、約16%であったのに対し、受けていない者は、約48%と3倍も高い数値を示した。
日本の司法は、現在、薬物に対して厳罰化の傾向へと流れている。しかし、実際、再犯者は減少していない。それは、刑罰をもってしても、薬物事犯者を依存症から脱却させることができないからである。
依存症から脱却させるために今、薬物事犯者に必要なのは、“治療”なのだ。

そこで「ドラッグ・コート」を用いれば、薬物事犯者の回復を第一目的としているため、依存症から脱却させ再犯者を減少させることができる。さらに、再犯者を減少させることができれば、薬物事犯者全体の減少へとつながる。

しかし、現行制度に比べ優位性があるにもかかわらず、
現在、“ドラッグ・コート”を取り入れるためには障害がある。

それが、福祉施設の不足である。

なぜ薬物に対する施設が不足しているのか?

それは、薬物対策を刑務所に頼り、施設が重視されていないからである。
確かに、刑務所には医療刑務所といったものも存在するが、それでも収容定員には限りがあり、薬物事犯者だけを治療するということは難しい。だからこそ、再犯防止に施設が必要なのだ。

さらに、福祉施設が重視されていないことによる、資金不足や、職員不足などの問題がある。
ドラッグ・コートを行う場所は、裁判所と福祉施設であり、施設がなければ、ドラッグ・コートを行うことができないのである。

この解決策を以下に述べる。
福祉施設の不足に対して、薬物依存症リハビリ施設である、ダルクの拡大を行う。ダルクは日本に約50ある施設である。同じ薬物による悩みを持つ人間が、互いに更正するために、自分を見つめなおし、今後自分がどうなるべきかを考える“12ステップ・プログラム”と呼ばれるものを行い、自助グループに参加する施設である。
しかし、このダルクであるが、資金援助を受けているのは、40%も満たない。ほとんどの施設が、通所している者や入寮している者からの資金で成り立っている。この理由は、ダルクの認知度の低さが考えられる。ドラッグ・コートにより薬物事犯者が「病人」であることを、広く知ってもらうことができれば、福祉施設の重要性を知り、政府から資金援助を受け、施設の拡大ができると考えている。
また、ドラッグ・コートを行えば、現行制度よりコストの削減ができるという試算も出ている。現行制度では、薬物事犯者、1人当たり約1,300万円コストがかかるのに対して、ドラッグ・コートを用いれば、約1,000万で済むとされている。段階的に、ドラッグ・コートへ移行していけば、十分に施設の拡大ができると考えている。

そして、職員の不足については、ドラッグ・コート修了者を充てる。薬物依存者が、依存症から回復した人間の近くにいることにより、依存者自身がドラッグ・コートを修了しようとする気が起こると考えている。
こうすることにより、施設の不足を解消できるのである。

最後に私の考えをまとめますと、現在、刑務所内で行われている“離脱指導”では、薬物の依存症から脱却させることができない。それゆえ、結局再犯者は減少しないのである。
しかし、ドラッグ・コートは、麻薬のある世界で更正させるので、依存症から脱却できるのである。その結果、再犯者は減少するのである。
それにより、麻薬依存者が社会へ復帰できる環境になるのである。

麻薬対策に新たな手、それは、処罰から治療への転換である。

ご清聴ありがとうございました。


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