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演題 「小さな叫び」

弁士 後藤和也(法2)

(導入)
約4万2千件、この数は2008年に児童相談所に通告された児童虐待の件数です。この数は年々増え続けており、今、この瞬間も多くの子供達が苦しんでいます。
皆さんはそれぞれさまざまな幼少時代を過ごしてきたかと思います。
活発であったり、おとなしかったりと、性格はさまざまであったとしても、大人へと成長していくには子供の時の身体的精神的成長は欠くことができません。子供の時に十分な時間をかけて他者との係わり合いや社会で生きていくために必要不可欠なさまざまなことを学びながら成長していくのです。

しかし、今現在、その成長が「児童虐待」という、あってはならない行為によってさまたげられているのです。
殴る、蹴るなどの暴力や食事を与えられないことによって、多くの児童の体にも危害が加えられ、さらには長い間、心にも大きな影響を与えてしまうのです。本弁論の目的は、虐待に苦しむ子供達を1分1秒でも早く救うことです。

では、児童虐待とは具体的に何なのでしょうか?
児童虐待とは、保護者が監護する児童に対して行う次の4つの行為を言います。
1、暴行して外傷を加える身体的虐待
2、わいせつな行為をしたり、させたりする性的虐待
3、食物を与えない、長時間の放置などの養育放棄、ネグレクトとも言います。
4、 暴言や拒絶、暴力などを見せたりする心理的虐待
このような虐待により多くの子供達の体や心が傷つけられ、場合によっては学校にも行けなくなってしまい、通常の教育が受けられず、発達が阻害されてしまうのです。

1つデータを示しますと、児童虐待専門外来がある、あいち小児保健医療総合センターで診療した575名のうちで、20%に注意欠陥他動性障害が見られたのをはじめとして54%、実に半分以上の児童に何らかの発達障害が見られました。このように、児童虐待はその時だけの傷ではなく十分な発達を阻害して、彼らが大人になった時に必要なコミュニケーション能力などが育たなくなってしまうのです。このことによって自分が仕事や子育てをする時に誰にも相談できずに、再び児童虐待をしてしまうという負の連鎖に陥ってしまう可能性があるのです。

(現状分析)
このような現状に対して、政府は児童虐待防止法の改正などにより、児童相談所の介入権限を強めるなどの虐待後の対応は強化されました。このような対策により児童相談所が関わりながら児童が亡くなった事例というのは減ってきております。しかし、虐待がおきている数は増加の一途をたどっており、虐待は止めることができておりません。

では、虐待を止められないのはどこに問題があるからでしょうか?
私は、以下の2点に問題があると考えています。
「虐待の発生を予防すること」と「虐待を発見した場合に通報すること」の2点です。

(問題点(1))
まず、1つ目の「虐待の発生予防」についての問題ですが、虐待の件数はここ数年大きく伸び続けており多くの子供達が苦しんでいます。これに対して、国では、親子の交流の場を作る地域子育て支援拠点事業や生後4ヶ月以内の赤ちゃんのいる家庭に訪問するこんにちは赤ちゃん事業などの政策、多くの自治体や病院でも両親学級や定期健診などの支援策や地域の児童委員の方々による活動が行われています。このように育児支援策拡充が進められて親の負担を少しでも減らそうと努力が重ねられています。

(原因分析(1))
では、こうした努力にも関わらずどうして虐待は増え続けているのでしょうか?その原因としてスクリーニングができていないということが言えます。スクリーニングとは、一般的な家庭の中で虐待の危険性の高い家庭を把握してその家庭に対して集中的に対応を行うというものです。先ほど述べたさまざまな支援策も子育て支援としては有効ではあります。しかし、1つデータを示しますと、虐待で亡くなる児童の中で関係機関との係わり合いが無かった事例の割合が増えており、現状では虐待の危険性のある家庭を把握しきれず、さまざまな支援策と支援を必要としている家庭がつながらず、虐待の可能性のある家庭が見逃されてしまっているのです。

(問題点(2))
次に、2つめの「虐待の発見・通報」の問題に関して説明させていただきます。
今現在、児童虐待防止法や児童福祉法には、児童虐待を受けたという事実が分からなくても、その可能性があると見られた場合は、そのような児童を発見した者、特に学校、福祉関係者、病院などの児童と直接ふれあっている団体に対して、自治体の福祉事務所や児童相談所に通報することを義務付けています。しかしながら、昨年の死亡した児童の中でも3割が関係機関と接点があったにもかかわらず対応がなされず亡くなってしまったというデータが示すように虐待を発見したら即通報して知らせるという流れになっていないのです。せっかく虐待を発見しても、通報されなければ、どんどん虐待はエスカレートしてしまい、子供達はより大きな傷を負ってしまうのです。このような事を防ぐためにも早期に通報して対応することが必要なのです。

(原因分析(2))
では、なぜ通報することが難しいのでしょうか?
普段から被害児童の保護者の人と接することが多い学校や病院などの団体は、通報すると、通報した人が誰であるかは、ばれることがないのですが、保護者が疑心暗鬼となってしまい、「お前が通報したのか」、などというような脅迫を受ける可能性が高いのです。埼玉県医師会が2005年に行った調査によりますと、「虐待または不適切な養育」発見後、関係機関に通告・連絡を取ったのは小児科で48.9%、産婦人科で14.2%しかなく、抵抗感があることが分かります。実際に、「保護者に訴えられないか心配」などといった声があがっており、通告をちゅうちょしてしまっています。このように通告が遅れてしまうと、どんどんエスカレートしてしまい、より対処が難しくなってしまうのです。

以上にあげた問題点をもう一度整理いたしますと、
1、虐待の可能性のある家庭に対してのスクリーニングができていない
2、虐待を発見したとしても通告にちゅうちょしてしまい早期に対応ができない
という以上の2点が挙げられます。

ではこの問題点の解決のために2つの政策を提示したいと思います。
1つ目が、「子育てアンケートの義務化」、2つ目が「通告された保護者に対するカウンセリングの導入」です。

(政策(1))
まず、1つ目の「子育てアンケートの義務化」について説明します。これは、定期健診時、または家庭訪問時に保護者に対して経済的状況や生育環境、子供の状況など20前後の質問を義務付け、その結果をもとにリスク要因を点数化します。そして、点数が高かった保護者に対しては、その情報を地域の児童委員や学校・病院が把握して、普段からの関わりを強くして、地域子育て支援策や両親学級などに積極的に参加させていくことにより、少しでも虐待の危険性のある保護者に対してアプローチを行います。この政策により、今まで虐待の危険性が高いことが外からは見えにくかった家庭に対して、情報把握がすることができます。さらに、その情報に基づき虐待のする危険性が高い家庭に対して現状にある子育て支援策を積極的に活用してもらうことで、育児における孤立や不安を解消し、根本から虐待をなくし、虐待の発生を0に近づけていくことが可能になります。

(政策(2))
2つ目の「通告された保護者に対するカウンセリングの導入」について説明します。これは、虐待の恐れがあると通告された保護者に対してカウンセリングを実施することによって、誰が通告したのかと疑心暗鬼になるのを防ぎ、通告したのは家庭を苦しみから救うためであるということを伝えることができます。この制度の導入によって、保護者の逆恨みの危険性が無くなり、今まで通告をちゅうちょしてしまっていた人が、安心して通告できるようになり、もし虐待がおきたとしても1分1秒でも早く対応することが可能になるのです。

以上の2つの政策により、今行われているさまざまな育児支援策を本当に苦しんでいる人々へ差し伸べることができ、虐待の数が減ります。もし、虐待がおきても早期の対応も可能になるのです。

(展望)
皆さんはさまざまな環境で育ってきたかと思いますが、子供の時に体、そして心に大きな傷を受けて今でも苦しみ続けている人達がいます。抵抗することのできない子供達が小さな、小さな叫びをあげているのです。今こそこの声をしっかり受け止めなければならないのです。
ご清聴ありがとうございました。


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