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演題 「切に願う」

弁士 吉田昌弘(商1)

「労働は商品ではない」、この言葉は1944年のフィラデルフィア宣言にて取り決められた、労働における根本原則です。その一方で、「労働が多様性を失ってはならない」この二つの原則をめぐる渦中にある問題、それが昨今の登録型派遣です。

なぜ登録型派遣を扱うかというと、リーマンショック後から昨年末までの失業者の半分が登録型派遣であり、雇用が不安定であるということ。そして、その理由から登録型派遣の存亡がかかっている今だからこそ、登録型派遣の必要性を訴えなくてはならないためです。

まず登録型派遣とは、派遣会社に登録しておき、必要な時に期間を定めて働く就労形態のことです。この登録型派遣は、1985年の労働者派遣法の制定以来増え続け、今では200万人を超すまでになっています。
派遣労働は、企業にとっては、割安な経費で迅速に労働力を確保できること。労働者にとっては、働きたい日時や仕事内容を選べること。この労働力の需要と供給、両者のニーズが相まって進展してきました。

しかしながら今、この登録型派遣がなくなろうとしているのです。
それが、政府が固めた、「派遣法改正案」であります。

この改正案には、(1)26の専門的な職種や高齢者派遣を除く、登録型派遣の禁止。また、(2)工場などの生産現場への派遣を3年間の猶予を持たせて原則禁止、といった記載がされています。
しかし、改正により最大で44万人もの失業者が生まれ、経済的損失は1兆円以上になると予測されています。それだけでなく、登録型派遣を雇う理由は賃金が安いためで、なくなると他の就労形態で雇う資金がありません。この結果、改正を行うことで企業経営を圧迫し、倒産により更なる失業者が生まれてしまうのです。また、派遣労働者に行ったアンケートンの7割が登録型派遣は必要な就労形態であると答えています。
このことから登録型派遣は、労働力の調整弁ではありますが、なくなると今までよりも失業者が増え、他の就労形態をも不安定とさせてしまうのです。
いわば、就労形態のセーフティネット、それが登録型派遣なのです。

以上を踏まえて本弁論の目的は、登録型派遣の禁止を阻止し、労働のセーフティネットとしての登録型派遣を守ることであります。故に、現在抱えている問題点を洗い出し、解決策へと導きます。

まず、登録型派遣の問題点は何でしょうか?それは、以下の二つです。
一つ目、雇用の不安定さによるリストラ(ワンテンポ)
二つ目、リストラ後のセーフティネットの不備(ワンテンポ)
以上の二つです。

一つ目の、雇用の不安定さによるリストラとは、弁論の冒頭で述べた「労働が商品と化している」ことを指します。本来ならば、労働は雇用契約によって成り立ちます。しかし登録型派遣では、労働者と派遣先の使用関係によって成り立つために、突然のリストラに対して労働契約法や労働基準法による処罰がされないのです。
そのため、登録型派遣は企業にとって労働力の調整弁となっています。その結果、不況時になると、派遣契約の打ち切りによる「派遣切り」が横行するのです。

しかしながら、調整弁は必要なものであり真に問題なのは二つ目の問題点です。
二つ目の、リストラ後のセーフティネットの不備とは、リストラ後の住居や再就職といった制度が整っていないものです。つまり雇用が不安定であるにもかかわらず、その不安定さを埋めるだけの制度が整っていないのです。
現状では、登録型派遣はリストラされると、収入がなくなってしまいます。その結果、住居がなくなり「雇用保険」に加入できなくなるといった負の循環に陥っているのです。

ではこれらの原因は何でしょうか?原因は以下の三つです。
一つ目が、使用者責任の不明確さ(ワンテンポ)
二つ目が、雇用保険の不適用(ワンテンポ)
三つ目が、労働市場の硬直化(ワンテンポ)
以上の三つです。

一つ目の、使用者責任の不明確さとは、派遣先の使用者が派遣労働者をリストラしても責任の所在がないことを意味します。つまり、派遣先がリストラを行っても、違法性がないのです。この結果、派遣先はいつでも労働力を調整することが出来るので雇用が不安定となっているのです。
なぜなら、登録型派遣は労働者と派遣元が雇用契約を結び、派遣元と派遣先が派遣契約を結び、労働者と派遣先が使用関係、つまり三面関係となっているためです。この結果、雇用契約ではない使用関係ではリストラしても他の労働者がいるという考えから「労働が商品」として扱われているのです。

二つ目の、雇用保険の不適用とは、現行の雇用保険では登録型派遣に則さないことを意味します。つまり、現行の雇用保険では同じ事務所で6カ月間働くことで適用されるため、短期間の就労を基本とする登録型派遣では加入できないのです。なぜなら、これは基本的に、正規労働者を対象にした雇用保険制度であるためです。
さらに、派遣先により就労期間を調整されることで、雇用保険に加入できない場合もあります。そのため、雇用保険を登録型派遣も受けやすくする必要があります。

三つ目の、労働市場の硬直化とは、失業してから次の就職先が見つからないことを意味します。つまり、派遣労働の最大のメリットである働きたい日時や場所を選ぶことが出来ないのです。
なぜなら、今までは派遣労働者は即戦力として雇われてきました。しかし、昨今の登録型派遣は、単純労働が多い飽和状態な市場となっているからです。そのため、この硬直化を改善しなくてはなりません。

以上の原因分析を踏まえて、以下に解決策を三つ提言します。
一つ目、登録型派遣基金の創設(ワンテンポ)
二つ目、職業訓練併用の雇用保険(ワンテンポ)
三つ目、雇用保険給付期間の延期(ワンテンポ)
以上の三つです。

一つ目の、登録型派遣基金の創設とは、登録型派遣を雇い入れる派遣先が資金を出し合って作る基金です。この基金の目的は、登録型派遣の雇用の安定にあります。つまり今までは、派遣先は自社の経営の悪化を防ぐために登録型派遣のリストラをしてきました。
しかしながら、それでは派遣先は何も責任を果たしていないことになります。そこで、この基金に積み立てをしておくことにより、派遣先の内部留保を高めることになり、不況になっても基金の蓄えから、もしくは基金からの借り入れにより登録型派遣の賃金を支払うことを義務付けます。これにより、派遣先は労働者の雇用の安定を守ることが出来るのです。また、積み立てを行うことで、雇用保険への財源とすることもできます。

二つ目の、職業訓練併用の雇用保険とは、今までの雇用保険は就業している日数を数え、その日数を満たすと雇用保険に加入できました。しかしそれでは、働く意思があっても、働けなければ加入できないため、就業していない日でも職業訓練を受けることで、雇用保険の対象にするというものです。
これにより、同じ場所で働かなくても、就業と職業訓練、この二つの基準から新たに雇用保険に加入できるようになります。この結果、短期的な就労がメリットの登録型派遣でも雇用保険に加入できるようになります。

三つ目の、雇用保険給付期間の延期とは、今までの給付期間は登録型派遣では4カ月間保証されていたのを2年に引き延ばします。この2年というのは、専門的な技能や知識を身につけ、その結果8割もの再就職に成功している高度職業訓練の修了が2年間であるためです。
これにより今までは、その日暮しであった登録型派遣の労働者も、飽和している単純労働の市場ではなく専門的な職業に就くことが出来るのです。この結果、新たな労働市場が開拓され、労働市場の硬直化が防げます。

以上から、一つ目の解決策により不当な雇用調整がなくなり、登録型派遣の今日の不安定さが解消されます。そして、二つ目の解決策で、短期的な登録型派遣のメリットを最大限に生かせ、三つ目の専門的な技術や知識を身につけることと併せて、セーフティネットが構築されるのです。

登録型派遣の存亡がかかっている今現在、私の解決策によって労働者の「切なる願い」が叶うことの手助けになれば…
そして、労働者が「派遣切りの切に労働の願いを込めるならば…」
登録型派遣は労働のセーフティネットであり、なくしてはならないのです。
「切に願う…」
ご清聴ありがとうございました。


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