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演題 「働けど」

弁士 梶田晴之(政1)

努力して働けばそれに見合った報酬を得る、これは資本主義の大原則です。しかし働いても働いても、それを評価されることもなく苦しい生活を送っている人々がいます。そう、みなさん御存じでしょう。ワーキングプアと呼ばれる人々です。
現在日本において明確なワーキングプアの定義はありません。しかし目安として、フルタイム、または正社員として働いているのに、200万円以下の賃金しかもらえないという基準があります。年収200万円とは生活保護と同等の生活水準です。現在この基準に当てはまる労働者は400万世帯ほどいると言われています。
このような労働者の生活水準は大変厳しいものがあり、日々の生活費を払っていくのが精いっぱいという現状です、貯蓄もほとんどすることができず、将来家庭を持ち子供を育てていく為の十分な資金を確保することもできません。
いつ体調を崩し、仕事を失ってしまうかという恐怖に怯えながらの生活を強いられているのです。このようなあまりにも大きな格差というものは決して放っておいてよいものではありません。この弁論では今のワーキングプアの現状を分析し、彼らを救うための方法を考えていきます。

まずみなさんは、なぜワーキングプアの人が少ない賃金しかもらえないと思いますか。その大きな理由として、非正規雇用での採用が多い、ということが挙げられます。非正規雇用者はフルタイムで働いても、正社員と比べてその待遇自体が悪くなっているのです。
では、正社員として雇ってもらえばいいじゃないかということなのですが、それは簡単なことではありません。

ワーキングプアの人々が非正規雇用でしか雇ってもらえない、その理由が二つあるのです。
一つ、彼らがスキルを持っていないということ、二つ、企業が行っている正社員の求人自体が少ないこと、この二つです。まず一つ目について説明します。

ワーキングプアの人々は通常、スキルを持っていません。そのために営業、製造業のような、非正規雇用での採用が多い仕事でしか採用されないのです。技能を持っていないということはキャリアを持っていないということであり、このことが長い年数働き続けても低い年収のままという事態を生んでしまっています。

しかし、スキルさえ持っていれば正社員として雇ってもらえるというのは間違いです。ワーキングプアが正社員になれない理由には、先ほど述べた二つ目の理由、企業の正社員の求人自体が少ないということがあるのです。ここで興味深い例を挙げたいと思います。それは、キャリアを持っていても正社員として雇ってもらえない人々の事です。そのような人々の事を高学歴ワーキングプアと言います。
高学歴ワーキングプアとは、大学院課程を卒業したにもかかわらず、ワーキングプアになってしまっている人々の事です。高学歴ワーキングプアになってしまう理由には自分の資格を生かせる職種が見つからないという理由があります。後者について説明すると、例えば司法試験に受かったのに法律事務所などの就職先が見つからないために、大学で手伝いを行い続けたり、アルバイト生活を続けて生計を立てているということです。
高学歴ワーキングプアの存在はまさに、たとえキャリアを積んでいても、企業が正社員として雇いたいと思わなければ正社員にはなれないということを示しています。

ここまでで、ワーキングプアが生まれてしまう原因を分析してきました。では、次に現在政府がどのような対策をしているのかを見ていきたいと思います。

政府がワーキングプアに対して行ってきたことは大きく分けて二つあります。一つが最低賃金の引き上げともう一つが職業訓練の実施です。

最低賃金の引き上げとは文字通り、最低賃金を引き上げることによって、労働者にある程度の賃金を確保させようとするものです。実際にワーキングプアが生まれてしまっている以上、現在の最低賃金は十分な賃金を保障しているとは言えません。しかし、最低賃金を引き上げていくことは企業にとってはマイナスでしかありません。したがって最低賃金をこれ以上上げようとすると、企業は雇用に対して消極的になってしまう可能性があり、それは日本の経済全体に負の影響を与えてしまいます。最低賃金の引き上げのみによってワーキングプア問題を解決しようとするのは、不可能であります。

政府が行っている政策のもう一つ、職業訓練の実施とは、近年になって行われている政策です。これは、ワーキングプアの人々に対して、資格取得などの職業訓練を行い、その期間の生活費を保障するというものです。
私はこの政策はある程度効果があると考えています。職業訓練を行うことで、ワーキングプアはスキルを得ることができるからです。
しかし、政府は企業側からの視点からものを見ていません。たとえワーキングプアがスキルを持ったとしても、先ほど述べた問題点の二つ目、企業の消極的雇用という問題を解決しなければ、スキルを持ったワーキングプアを生んでしまうだけになる恐れがあるのです。

ここで私は、企業の正社員の消極的雇用という問題を解決するための政策を一つ提示します。それは、本来は非正規雇用として雇う人材を正社員として雇う代わりに、労働者はその企業に10年間の勤労の義務を負うというものです。

どれだけ正社員として雇い、どれだけ非正規雇用として雇うか、そんなものは企業の自由じゃないか、みなさんはそうおっしゃるかもしれません。それはもちろんその通りです。しかしみなさんはご存知でしょうか、企業が人材の確保に苦労しているということを。
企業に対して行ったあるアンケートによると、63%もの企業が、人材の確保ができていないと回答しています。そしてその内訳は営業や製造業といった非正規雇用の人材が多い部署だけでなく、事務など正社員の割合が多い部署でも起きています。
企業がこのように回答した理由は何か、それは正社員を雇ってもすぐに辞めてしまうからなのです。現在の労働市場では、正社員として雇われても3人に1人が職場を辞めてしまいます。企業からしてみれば、せっかく正社員として雇っても労働者はすぐに辞めていってしまうのです。
このことが、企業の正社員の消極的雇用につながり、本来なら正社員を雇い、一人の人材で固定させたい部門にまで非正規雇用者を雇い入れる現状を生んでしまっているのです。私の政策により、労働者に10年間の勤労の義務を課すことにより、企業は正社員で雇うメリットを取り戻し、積極的に正社員を雇うことができるようになるのです。
つまり、今まではしぶしぶ非正規雇用として雇っていた企業と、しぶしぶ非正規雇用として働いていた労働者が居ました。しかしそれが、企業は正社員を雇い、人材を安定させることができ、労働者は正社員として雇ってもらえるようになり、ワーキングプアという問題が解決するのです。

働けど働けどわが暮らし楽にならざりじっと手を見る

これは石川啄木が明治時代に詠んだ句です。働いた人には働いただけの対価が得られる社会を願ってこの弁論を終わります。ご清聴ありがとうございました。


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