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演題 「灯火」

弁士 会田良明(法1)

子供。それは私たちの希望であり、未来への象徴です。
子供たちはこれからの日本、そして世界を担っていく存在です。
しかし、子供はか弱く、社会へと羽ばたくまでには長い年月守らなければいけない存在でもあります。
一人で羽ばたけるその日まで、子供たちを守るものは何でしょうか。
私は「家庭」であると思います。
子供はそこで、親との交流により人格形成や基本的社会性をみにつけます。
家庭が子供の後生に与える影響は、聴衆のみなさんも身をもって理解いただけると思います。

では、そのために家庭は如何にあるべきでしょうか。
私は、「安心できる場」である必要があると思います。
子供が安心して失敗し、学び、笑える場。
そんな家庭が子供には必要であり、それを作るのが家庭を持った現代人の未来への役割であると考えます。

しかし、今現在、家庭にある問題が蔓延し、希望・未来の象徴である子供たちを養うべき家庭が、絶望、無力感にさいなまれている現状があるのを、みなさんご存知でしょうか。
そう、その問題とは、児童虐待です。
児童虐待とは、保護者が自身の子供に対して、暴力や育児放棄など、発達阻害となることを行うことです。
児童虐待は子供の発育に大きな悪影響を与えます。アフターケアをしても情緒的・心理的問題をはじめ、日常行動の問題、強い攻撃性、知恵発達の遅れなどの複数の後遺症が現れてしまう児童は6割以上に及びます。
虐待を受けた子供の4割以上が犯罪で逮捕されるという調査もあり、
自身の子供に対して虐待をしてしまう確率も一般の6倍になるといわれます。
そして虐待をうける子供は増加傾向にあります。
児童相談所の虐待相談件数は平成2年に1100件、12年に17700件、平成19年には43000件と、17年間で40倍にもなっています。
また、子供の数は減っているのに虐待死亡者は例年50人前後を推移し、昨年は71人と例年にない上昇。割合が増えていることがわかります。
「私は子供を愛していた。」
虐待をした親はいいました。

「けど、虐待をしてしまったみたい・・・」
「安心できる家庭」を築くためには、児童虐待はあってはならない問題です。
先ほどの親の言葉からも分かるように、児童虐待はほとんどの場合親の悪意はありません。
しかし、虐待は発生し、深刻化しています。

なぜこのような悲しい問題がうまれてしまうのでしょうか。
虐待をした親に対して虐待の理由を調査した結果、2つの原因が明らかになりました。
1つ目は経済的困難、2つ目は地域からの孤立です。

経済的困難とは、お金がないことによる不安、仕事の忙しさが親の負担となり、子供に虐待してしまうものです。
虐待をした4割の一人親にその傾向は強く、平均年収は200万円台でした。

地域からの孤立とは、地域の人との交流がないことで、負担の共有化・分散化ができず、家庭の問題を一人で抱え込み、孤立感による不安が生まれ、親の負担が増大。虐待に至ってしまうものです。

虐待をした親の1割しか「地域との交流があった」と答えなかった点、「地域との交流があった」の回答が多い地方ほど虐待発生率が低い点からも、この原因が伺えます。

なるほど、ではここに直接、解決策をうてばいいのか。みなさんそう思うかもしれません。
しかし、実は「一人親経済支援サービス」や、「子育てサロン」などはすでにサービスで行われているのです。
しかし、現状虐待は解決しません。

実は虐待問題は、この2つを根本原因に、効果的に解決策が機能しない問題をはらんでいるのです。
その原因は2つあります。1つは「親の無知」、2つめは「受動体質」です。

まず、「親の無知」について説明します。
東京都では経済支援や電話相談を行っていますが、東京都での育児サービスを何か知っているという新生児の親はわずか3割でした。
また、虐待を行った親では経済面や育児面でそういったサービスを知り、受けていた親はなんと1割だけでした。
サービスを知らないために問題を抱え込み、虐待にいたってしまうのです。

次に「受動体質」について説明します。
これは政府の虐待防止政策を示したものです。
政府の政策を見てみましょう。
国では児童虐待防止法を制定、法務省は虐待での親権停止をすすめ、児童相談所の強制立ち入りには法的権力を付与しました。
また、虐待防止ネットワークという、子供にかかわる地域の専門家をつなぎ、情報共有をはかり、早期発見を進めようとしています。

確かに政府の虐待対策は、児童相談所がかかわった虐待事件の死者数の割合が減少傾向にあることからも、すばやい対応を可能にしました。
これら全てにいえることは、虐待からの要請がない限り、機能しない、受動的なものであるということです。
はたしてそれは適切でしょうか。次のようなデータがあります。
東京都福祉保険局は「虐待が深刻化するにつれて親は外部に助けを求めなくなる傾向がある」
「虐待をした親の3割強は「自身の行為を虐待と知りつつ、助けを欲していたが、助けを求められなかった親である」という調査結果を示しました。
また、昨年度の死亡者71人のうち約40件は児童相談所の関与も外部の通告もなかったものでした。
現状の政府の政策・サービスは全て受動的なものですが、積極的に関与していかなければ助からない人々も多くいるのです。

以上の原因分析をまとめます。
児童虐待とは、虐待の根本原因となる「経済的困難」、「地域からの孤立」、その解決策の効果を阻害する「親の無知」「受動体質」という4つの要因が重なり発生しているのです。
安心できる家庭。それを作ることは現代人の未来への役割であると考えます。
そして、これらの原因を解消し、児童虐待を解決することは、私たちの責任です。

では、以上の原因をいかに解決すべきでしょうか。
児童虐待を解決するには、以上の4点に包括的に手を打つ必要があると考えます。
虐待における政策の機能には、虐待の発生防止の「予防機能」、早期発見の「防止機能」があります。
私は以上の2つの次元の機能を取り入れた政策を2セット示したいと思います。

まず、1セット目の政策は、
出産前教育の義務化
です。ここでは
1.地域の行政サポートの総合ガイダンス
2.虐待としつけの違い、虐待に関する法律の説明
3.3歳までの児童心理と育て方
を学ばせます。

現状の出産前教育は任意制で、教育内容は出産方法が中心でした。参加率は減少傾向にあるとされ、0歳から6歳の子供に虐待をした親の出産前教育の参加率は1割弱となっていました。

1点目にかんしては、現状行われている有効な行政サポートの認知度を上げることになります。これにより、困った際の自発的救済を促すことになります。

2点目に関しては、虐待を行ってしまうことに対しての親の自己抑制作用を促すことができます。これはアメリカの一部の州で行われ、児童虐待に対しての減少に大きく効果を示したとされています。

3点目に関しては、虐待死亡の割合が最も高く、かつ外部の教育機関をもたない0歳から3歳の児童心理とそれにあわせた教育方法を最低限度学ばせることで、親の育児に対しての不安を取り除くことができます。

2セット目の政策は、事前機能と予防機能を兼ね備えるものとして
・既存の公民館、児童館・地区会館などにファミリー支援センターを組織
を行い
1.0歳から6歳までの第一子を持つ親の定期通所・家庭訪問義務
2.虐待防止ネットワークへの組み込み
を行います。

ファミリー支援センターは、従来の既存の公民館・児童館・地区会館などを拠点とし構成員を地域の主婦・老人と専門職員とするものです。
ここでは、一時託児、カウンセリングを中心に行います。
カウンセリングでは悩み相談や教育方法、一人親に対する経済支援、産後ボランティア派遣サービスなどの行政サービスを積極的に紹介し、児童相談所など既存の福祉施設のサービスの玄関としての役割をはたします。
また、一時託児は地域住民と専門職員の共同のものとします。
一時託児のニーズは高まっており「近くにあれば使う」「使いたい」といった新生児の親は8割にも及びます。
共同一時託児はアメリカで行われ、地域住民と親の交流を深め、孤立を防ぐ機能があるといわれています。
また、従来あった既存の福祉施設を利用しない理由として「近くにない」という回答も半数以上あった点からも、このシステムが有用であることが分かります。

次に1点目の義務に関して説明します。
児童虐待が始まるのは第一次反抗期の4,5歳が最も多く、その時期を親がうまく過ごせないために反抗期がのび、後に虐待にいたってしまうといわれています。
この時期に積極的にカウンセリングを行うことで、虐待の芽を摘むことができます。

2点目のネットワークに関しては、従来のネットワークにかけていた、虐待をするハイリスク要因の多い家庭の情報をあらかじめ周知することができ、動きがあった場合に即座に対応できるようなり、早期発見にもつながるようになります。

以上2セットの政策により、「親の無知」「受動体制」を解消、「経済的困難」「地域の孤立」という原因の核心にも手を打つこととなり、児童虐待が解決されるのです。

現代社会において、未来は何が起こるかわからない、「真っ暗」なものです。

そんな未来を照らす小さな希望の光、それが子供たちです。
希望という名の灯火は私たちを明るい未来へと導いてくれるはずです。
本政策により、児童虐待問題が解決し、家庭が安心できる場になることを期待しつつ本弁論を終えたいと思います。
ご清聴、ありがとうございました。


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