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演題 「明日のために」

弁士 早川賢太(商1)

高等教育。つまり大学や短期大学というものは、高度な知識・技術をもつ人材の育成を担っているとともに、研究機関として日本の技術・文化を支えています。文部科学省の調査では、地方の国立大が消費や雇用を通して、1大学あたり年間400億~700億円の経済波及効果を地域に及ぼすと試算しています。つまり、日本の国公立大学176校だけで単純計算で7兆円以上の経済効果を生み出しています。私立大学580校も入れれば、この数はさらに大きなものとなるでしょう。また、高等教育への高校生の需要は増大し続けており、大学・短期大学への進学率は56%まで上昇しています。しかし、そのように大学への需要が高まる中で、現在家計のひっ迫による経済的な影響で大学に進学できない人や希望する進路先に進学できない人がいることを皆さんはご存知でしょうか。親の経済力という、子供には絶対不可避な要因により、教育機会の平等が侵害されているのです

本弁論の目的は、そういった経済的不平等による進学断念を回避し、どのような家庭に生まれた人であっても自らの意志と能力に応じて進路の選択ができる社会の確立を目指すことです。

これからは、現在の大学の学費の現状を見ていくとともに、どのくらいの人が経済的理由により進学を断念あるいは進路先の変更をしているのかをみていきます。

それでは、大学進学にかかる費用はどのようになっているのでしょうか。大学の授業料は値上がりを続けています。国公立大学は1972年までは低授業料政策をとっていました。しかし、私立大学との格差是正の目的で、1972年の大幅値上げを契機に、1975年からは授業料と入学金を毎年交互に値上げするパターンが形成されました。現在の国公立大学の学費は1972年に比べ15倍までになっているのです。
これによって、私立大学の学費も国公立大学に追従するかたちで、どんどんと上昇していったのです。
国公立大学は、とりわけ地方における高等教育機会を提供する重要な役割を果たしてきた。しかし、先に挙げた国公立大学授業料の値上げにより、低所得者層に対して相対的に安価な高等教育機会を果たしにくくなることが予想されるのです。

それでは、このような高等教育の高騰に対し、家計の状況はどうなっているのでしょうか。総務省統計局の「全国消費実態調査」では、大学生のいる世帯では可処分所得より消費支出が多く、赤字となっています。また、金融資産純増率もマイナス8、3%と貯蓄を切り崩して大学の費用にあてています。

しかし、これだけでは本当に子供が経済的理由によって進路を変更・断念しているとは言えません。さらに詳細に分析していきます。
高校生の親が子供に望む進路についてのアンケートで、「経済的余裕があったら」と仮定したとき「就職より進学」が16%、「短大専門学校より大学進学」が17%となっています。また就職者の約3割の親は経済的余裕があったら「就職よりも進学させたかった」と回答しています。同様に、短大進学者の3割、専門学校進学者の親の2割は経済的余裕があったら大学に進学させたかったと回答しています。これは、実際に金銭面の影響で希望進路を変更せざるを得ない状況を表しています。

それでは、このような状況を解決する手段としてどのようなものがあるのでしょうか。
第一に挙げられるのが奨学金制度であります。日本学生支援機構がその運用にあたっています。奨学金には返済義務のない給付奨学金と返済義務の生じる貸与奨学金があります。学生支援機構では、有利子と無利子による貸与奨学金のみを実施しています。そして、給付奨学金は各大学が自大学で独自に実施しているといった状況であります。奨学金への需要は近年高まっており、学生支援機構の奨学金の受給者は1990年代までは20%台を推移していましたが、2004年には40%を超えるまでになっています。このように奨学金への需要は高まっていますが、ここに2つの問題点があります。
1つ、貸与奨学金の回避
2つ、給付奨学金の未発達
であります。

まず、1点目の貸与奨学金の回避について説明します。貸与奨学金はローンのため、将来返済義務が生じます。そのため将来の返済の負担を恐れ、貸与奨学金を回避する人がいるのです。文部科学省の「保護者調査」によれば、年収400万円以下の低所得者層のうち、「ローンはこどもの負担になるので借りたくない」という質問に、40%が「そう思う」または「強くそう思う」と回答しています。さらに、政府は新たに奨学金返還の滞納者をブラックリスト化するなど、返済滞納への不安はさらに高まっています。奨学金は高等教育の機会を拡大するのが目的であります。しかし、逆に将来の負担を恐れて、ローンを借りないために進学を断念することもありえます。そうなってしまえば、奨学金の目的からしても本末転倒なのです。

次に2点目の給付奨学金の未発達について説明します。現在、給付奨学金はまだまだ規模が小さく、十分に機能していないということです。
高等学校におこなったアンケートで「大学独自の奨学金制度は今のままで十分機能している」という問いに対し、「思う」または「強くそう思う」と回答したのは全体の12%にしか過ぎません。

このように、高等教育機会を拡大することができる奨学金に
1つ、ローンが返済できるか心配で貸与奨学金を敬遠する
2つ、大学独自の給付奨学金の規模が小さい
という二つの問題が確認されました。

そして私はこの問題を解決するために2つの政策を提言します。

1つ、所得連動型ローンの導入
2つ、大学への寄付金に対する優遇税制の実施
以上の2点であります。

まず1点目の所得連動型ローンについて説明します。これは、「過去に応じて援助を受け、未来に応じて支払う」という制度で、ローン受給者の将来の所得によって毎月の返還の金額を変更する制度です。また、所得が一定以下では返還延期措置がとられたり、返済義務がなくなったりもします。この政策は所得に連動しているので、国税庁と協力して、所得から返還分を差し引きます。そのことによって、現在問題になっている奨学金の見返還問題も解決します。この政策によって、ローンが返還できるか心配だと敬遠していた人たちの不安を取り除き、ローンを借りやすい環境ができあがるのです。

次に2点目の、大学への寄付金に対する優遇税制について説明します。
そのうえで参考にするのがアメリカの事例であります。アメリカの大学独自の奨学金が充実している背景には、大学が多額の寄付金を集め、それに基づく大きな基金を有しているということであります。有力な私立大学ではその基金は何兆円にものぼります。例えば、2006年でハーバード大学は約3兆5000億円、イェール大学は約2兆2000億円の基金を有しています。大学はその基金の運用収益の一部を大学独自の奨学金にあてています。

これらの制度を日本でも促進し、大学が寄付金を集めやすくするように、寄付金への優遇税制を実施します。
このことによって、大学独自の給付奨学金の規模を拡大し、教育機会の拡大を図ることができるのです。
これらの制度が確立されれば、低所得者層も高等教育を受ける機会が与えられ、自分の努力が正当に評価され、自分の能力に見合った進路の選択が可能となるのです。

今、私は奨学金を得て大学に通っています。しかし、その学習機会を与えられていない人たちがいる。夢をかなえたくても叶えられない人がいる。彼らは己を取り巻く状況によって、スタートラインにすら立てず、夢をあきらめている。そのような人たちが正当に教育機会を与えられ、彼らが希望に満ちたゴールまで、自分自身の力で歩んで行けるように。いざ行かん。明日のために
ご清聴ありがとうございました。


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