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演題 「亡穀」

弁士 杉本篤彦(政1)

・テーマ・現状/重要性
皆さん、食料は、人間の生命の維持に欠くことのできないものであり、健康で充実した生活の基礎として重要なものであります。
食料の安定供給を確保することは、社会の安定、及び国民の健康と安心の維持を図る上で不可欠なものなのです。
このことを再確認しなければならないのが、食糧供給の六割を海外に依存している日本の現状なのではないでしょうか。
なぜなら、世界ではまさに今、食糧需給逼迫による食糧難の時代に直面しているのです。

世界の人口は急速に増大し、2050年には現在の約1.4倍の92億人に達すると予想され、さらには、世界的な消費水準の高度化による飼料穀物などの需要の急増に対して、
供給面では農業技術による生産効率向上や、農地拡大による生産量増加が頭打ちとなっており、国連食料農業機関の世界農業予測においても、今後需要の増加に供給が追いつけないという深刻な予測をしています。
食糧供給の六割を、生産国で余った食料を輸入することでまかなっているわが国日本。
近年では、穀物価格の高騰や、主要生産国の相次ぐ輸出規制といったことが食糧難の時代の前兆として世界各国で起こっている中で、目下、日本国内の農業はどうなっているでしょうか。
現在、日本の食糧自給率は四割以下に落ち込み、安定供給に不安要素が多い今日において、危機的な状況にあります。

しかし、わが国の食料自給率向上を担う、農村の現状を見てみると、耕作放棄地は農地全体の約1割まで膨れ上がり、また耕地面積は農地の転用により、ピーク時から見て約22パーセント減少してしまっています。政府は土地集積による生産力向上を図っていますが、耕作放棄地や非農地は増える一方です。
また、農地の担い手の高齢化は止まらず、農業人口全体における六十五歳以上の割合は約六割を占めています。よって今後を見据えて新たな担い手も確保しなければなりません。
ゆえに、わが国は来るべき食糧難の時代に備え、国内に持続的な農業を確立しなければなりません。

・現状分析(原因)
では、わが国の農業の現状はどうなっているのでしょうか。
政府は現在、進まない農地集積による農家の大規模化を促進させるために、農業政策の見直しを検討しています。これは、規模拡大のために農地取引の仲介制度を原則すべての市町村で導入し、農地を集積して新たな担い手に貸す体制を築き、また企業の農地賃借規制を緩和し、新規参入を促進するというものです。
大規模化は、農地の集積を行い、農業の生産効率をあげ、担い手の労働環境を改善し、担い手を確保するためにも促進せねばなりません。
農水省は農地流動化により農産物のコスト半減が可能であると論じています。また実際に、一部の地域で稲作労働時間が約5割短縮、稲作の生産費が約4割低減等の効果もあがっています。
一見、この政府の政策により土地集積が加速され、新規参入もしやすくなるような気がしますが、しかし本当にこれで農地は集積され、新規参入者は増えるのでしょうか?
答えはNOであります。

我々はなぜ、今まで農地が流動化しなかったことを問わねばなりません。

そして、私は一点の問題点を指摘したい。
それは、農家が農地を手放さないということであります。
現在、全国の耕作放棄地は約38万ヘクタールありますが、そのうち42パーセントは農地の所有権を持ちながらも農業を行わない「土地持ち非農家」が所有しているものであります。彼らの農地は耕作放棄地であっても、相続税・固定資産税がやすいため、農地を所有するコストは低くなっています。このため多くの農家が農外転用で得られる莫大な収入のために転用機会を待ち続ける現状があります。
農地を農外転用する際には、国や都道府県、農業委員会の許可を得なければ転用はできません。このように、一見、厳格そうな転用規制でありますが、実際には都道府県や市町村長、農業委員会の許可は甘く、違反に転用されているのは確認されているものだけで年間約1万件にものぼっています。
転用規制が曖昧であるのは、まさに農地行政の組織的な問題なのであります。
農地行政の末端を担う農業委員会は、在住農家の互選で選ばれるため、農家の意向が強く反映されます。営農意欲の低い零細農家が圧倒的多数を占める農村の現状では、農業利益よりも、転用によるキャピタル・ゲインに迎合した規制の運用がされがちであります。また権限者である市町村長、都道府県知事にしても公共事業を誘致せんがために、また圧倒的に多い零細農家の意向を汲むために転用規制が甘いのです。
さらに、近年では地方分権という流れのもと、転用許可権限が都道府県知事から市町村長、さらに農業委員会への委託が可能となり、違法な転用に歯止めがかからない状態に陥っております。
よって零細農家の転用期待はますます高まり、耕作放棄地は増え、転用による耕地面積の減少は進む一方なのであります。
農業収益の82パーセントに値する、転用による収益が出てしまっている現状は、まさに「日本農業の最大の生産物は農地である」ということではないでしょうか。
これではいつまでたっても、わが国では農業に専念できる環境は作られず、大規模化は進まず、さらに新たな担い手も現れないのです。

・政策
そこで私は、次の二点の政策を提示したいと思います。
まず一点目、農地転用機会を減らし、耕作放棄地を減少させるために、新たに農林水産省の下に「農地資産保有監査委員会」を設立し、都道府県、市町村、農業委員会の農地転用許可権限を、委譲させる。
二点目、耕作放棄地に対しての優遇税制を見直し、耕作放棄地への固定資産税課税を一般住宅地と同水準にまで引き上げる。
以上二点の政策を提示いたします。

一点目の政策により、農地転用の法規制がされているのにもかかわらず、違法な転用を黙認し、公共事業を行う都道府県と市町村、
在住農家から互選でえらばれ、零細農家の意向が反映されやすい農業委員会の農地転用許可権限を、新たに設置する「農地資産保有監査委員会」に移し、原則として非農地への転用を禁止することによって、法にのっとった許可体制を構築することができます。
また二点目の政策により、農地の貸借、または売却によるメリットを、転用するメリットより大きくすることにより、農地の流動化が促進されます。
この二つの政策を打つことにより、現在政府が行おうとしている農地貸借の仲介制度が土地集積機能を十分に発揮し、新規参入や、また規模拡大が促進され、大規模農家が増えていくのです。
農地転用規制を厳格化・透明化し、市場経済の競争メカニズムを回復させることこそ、農業活性化の途であります。
農地転用規制の歪みを放置したままでは、どれだけ農産物貿易保護をしても、農家の所得保障をしても根本的な解決にはならないのであります。

今こそ農地に目をむかなければ。
食糧難が世界で叫ばれる中で、わが国が限りある農地を有効に活用し持続的で安定した食糧供給源を確保するために。
迫りくる食糧難の時代に、日本が食料によって、まさに亡穀とならぬよう願い、本弁論を終了させていただきたいと思います。

ご清聴ありがとうございました。


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