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演題 「産声」

弁士 高?由布子(営1)

東京都で出産をまじかに控えた妊婦が病院をたらいまわしにされたあげくに、死亡するという悲しい事件が起こりました。この事件は母親たちの最後の砦といわれている東京の「総合周産期母子医療センター」でも産婦人科医不足が深刻であることを示しています。産婦人科医が確保できないことによりこの事件は引き起こされてしまったのです。
東京で亡くなられた妊婦の方は他の妊婦と同じように問題なく出産を終え、元気な赤ちゃんと出会えることを心待ちにしていたでしょう。出産とは新たな命がこの世に生まれるというとても神聖な出会いの場です。もちろんすべての出産が無事に済むということは難しく、医学が進んでも防ぎきれないことはあります。

しかし、この新たな命が生まれる場を適切な環境に整えることはできます。
出産というものは医師や助産師が適切な人数を確保されていれば、安全が確保できるからです。けれども、現状を見るに東京という医師が比較的多い地域の病院でも適切な人数を確保するのが難しくなっています。
もちろん、産婦人科だけでなくさまざま科で医師不足が問題とされているのも現状です。
医師不足を解決するために厚生労働省は医学部定員を1.5倍にするという政策を打ち出しました。この政策により産婦人科以外の科では人数が増加し、いずれは問題の解決に向かうでしょう。
けれども、ほかの科と異なり産婦人科医は10年連続減少していて、新たに産婦人科医になる人は7年前と比べ15パーセントも減少しています。
このままの状態で産婦人科医不足が進行すると出産の安全を脅かす問題が発生していきます。人材不足によって病院が閉鎖され、ハイリスク妊婦への対応の悪化や検診身受信妊婦の増加、衛生面で問題のある自宅や車内での出産の増加が発生します。そして、最終的には富裕層向けの環境の整った病院しか医師を確保できなくなり富裕層しか子どもを産めなくなるというお産の格差が起こります。

本弁論の目的は人材不足を解消し安全な出産が行える適切な環境を用意することです。

では、どうしたら適切な環境を用意できるでしょうか?
それには産婦人科医療にかかわる人材を増加させることが必要です。しかし、現状のままでは若い医師は産婦人科医になりたがりません。
なぜ、若い医師は産婦人科を敬遠するのでしょうか?
その理由は過重労働と高い訴訟リスクという2つに理由に集約されます。
産婦人科の勤務状況を以下に述べます。土日の勤務や夜間の当直回数から考えると内科や外科と比べ3倍、救急関連の2倍の当直日数です。拘束時間も医師の平均が月280時間であるのに対し、産婦人科医は341時間にも上ります。そして、働き手である30代の医師になると505時間にも上ります。このことからも産婦人科医は他の科と比べて過重労働であることがわかっていただけると思います。
訴訟リスクに関しても医師平均の2.5倍であり最も高い訴訟リスクであります。

私はこの原因を解決して産婦人科医を増やすために2つの政策を提言します。

まず過重労働を解決するために全国の産婦人科を」開設する自治体病院に院内助産院を設置します。
院内助産院とは、産婦人科とは別に検診と出産を取り扱う場所のことで助産師が主体となり運営していきます。助産師とは正常な出産の介助と検診を取り扱う女性のことです。正常な出産であるならば医師の立ち会いは必要とされません。もし検診や出産開始後に異常だったことが判明した場合はすぐに同じ病院の産婦人科医のもとに搬送します。このように助産師が扱う出産と産婦人科医が扱う出産を分けて仕事のすみわけを行います。そして、院内助産院によって産婦人科の過重労働を解決し、また、産婦人科医がいることによって院内助産院の安全性が確保されます。院内助産院と産婦人科医という2本の柱によって過重労働を解決し、安全な出産の環境を確保するのです。

次に訴訟率減らすための政策について説明します。訴訟率を減らすために訴訟前に産科メディエーターによる産科メディケートの義務付けを行います。
産科メディケートとは患者側と医師の間に問題が発生した時に対話によって問題の解決を促し不必要な訴訟を減らすための仕組みのことです。そして、産科メディエーターは患者と医師の間を取り持ち、対話の場を確保し、話し合いを有効に進めるための存在です。高齢化によって実務を行うのが困難になってしまった助産師や産婦人科医を事務作業と出産時の説明を担う人材として、国が自治体病院に派遣する形での運営を考えています。
産婦人科医を訴える理由は、なぜ、赤ちゃんや妊婦が死んだのか?なぜ、子どもに障害があるのか?という事実の確認をしたいからです。
しかし、医療裁判では、多額の費用をかけても原告が求めている事実の確認はなされていません。
産科メディケートは医師側と患者側の段階的な話し合いを通して、情報開示をし、事実確認を院内で行います。
第一段階として患者とメディエーターの二人で問題についての話し合いを行い、患者側が求める情報開示情報提供、患者側の考えの確認を行います。
第二段階は第一段階では解決されなかった問題をメディエーターと患者側で面談を複数回行い、患者側が求めていることを医師や看護師に調査をし結果報告を行います。
第三段階では実際に患者を担当した医師と面談をさせて、今まで解決されなかった問題をメディエーターを仲介役として3人での話し合いを行います。
もちろん、第三段階での結果に不満を持った場合は医療訴訟を行うことができます。
この制度は医療訴訟の多いアメリカで始まった制度で、アメリカでも十分に効果が出されています。ピッツバーグ大学付属病院では77件の問題が発生しましたがメディケートによって68件が解決しました。同じように日本でも訴訟件数の減少につながります。
また、私はアメリカでのメディエーターの仕事に加え、出産の説明の一環として治療指示書の作成を行います。治療指示書とは、出産時特有の問題に対しての処理を妊婦とその家族に示してもらうものです。問題発生時に母体と赤ちゃんのどちらを優先させるかといったことなどを産科メディエーターが妊婦とその家族に話し治療指示書に書き込みます。その結果、医師は問題発生時に判断を悩まなくて済み、患者との処置に関するズレを回避できます。そして、この治療指示書を書くことによって妊婦は正常な出産であろうと予測されても万が一のことがありうることを感じ、それがすぐに産婦人科医を訴えるということへの抑止力になります。
このように出産の前と後に患者側にアプローチすることによって訴訟件数を下げることにつながるのです。

このように私の提言する2つの政策を行えば過重労働と訴訟率を減少させることにつながり院内助産院と産婦人科という二つの柱によって安全な出産の環境を用意することができるのです。

お母さんの苦しそうな声が赤ちゃんの産声に変わったとき、出産に立ち会った医師はほっと胸をなでおろします。
お母さんも元気な産声とともに生まれた赤ちゃんに感謝の気持ちを抱きおおきな仕事を成し遂げた達成感を感じるそうです。
そんな幸せに満ちた出会いの場が今、崩壊の危機を迎えようとしています。
日本の未来を担う子供たちを元気な産声とともに誕生させるための適切な環境を今から整えていくべきではないでしょうか?

ご清聴ありがとうございました。


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