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演題 「情報の戦い」

弁士 内田賢吾(政1)

我々は紛争やテロなど巨大な 脅威から身を守るにはあまりにも小さい 存在であり、故に国家は国民と国益を脅かす脅威に対処することを 第一に考えねばなりません。
脅威を未然に察知し対処することが安全保障の理想であり、国家にとって情報は生命線なのです。
情報は、1つ目に政策立案のために情報を収集し、分析すること、2つ目に情報を漏洩から守り、軍備機密などの流出を防ぐこと、において重要であります。

しかし、この2つの情報の重要性を日本は見過ごしているのです。
情報収集に関して冷戦時代までは、世界一の情報収集能力を持つアメリカからの情報提供に頼っていればよかったのですが、しかし、冷戦以後、脅威は多極化し核兵器は大国による管理の手から漏れ、今や北朝鮮のような独裁国家が核兵器を保有しているのです。また先進国を標的とした国際テロの脅威は日々高まってきています。このような現状において、日本とアメリカの利益が必ずしも一致するわけではなくなりました。日本は独自で情報を集め外交や安全保障を行うべき時代になったのです。
しかし、日本の情報管理体制の現状を見ると各々の情報機関を統括する存在がなく、収集した情報を一元的に分析する機関がないことにより、政策決定の場に不明確な情報を与え、大きな混乱を生んでいるという批判が閣僚経験者や情報機関の責任者から上がっています。
情報漏洩に関しては、2008年の一月、内閣情報調査室の職員が 10年間にわたり、ロシア大使館職員と接触、金銭の見返りと引き換えに外交情報を提供していた事件や、2004年に上海領事館にて、機密文書を取り扱っていた電信員が自殺、その遺書から中国の情報機関に脅迫されていたという記述が見つかった事件が起こりました。

このように外務や国防に関わる情報収集と保護が 健全な形でなされていません。では、日本の情報管理体制が持つ問題点はどこにあるのでしょうか?

外務・国防に関わる情報の収集を担当している機関は、主なものとして各省庁から出向して成り立つ内閣情報調査室 外務省の国際情報統括官室、防衛省の情報本部、法務省の外局である公安調査庁などが挙げられます。2週間に一度、首相官邸で行われる合同情報会議で各部署のトップが事務担当の内閣官房副長官を中心にして情報交換をおこなっていますが、しかし、各部署にとって、この会議は表層的な意見交換の場であり、個別のブリーフィングによって官邸に情報を持ち込み、自らの部署の存在感を高めることを重点的に行っています。こうして、各々の機関に集められた情報が一元化されず、また分析の段階まで達していない情報がバラバラに 官邸へ情報が届けられ、政府の意思決定の場に 混乱を与えているのです。
そして、政府による情報機関への命令系統も 確立されていません。これにより、政策決定者は情報に対して受身 になっています。

また、収集分析した情報や兵器情報など国防に関わる機密の保護において、自衛隊以外の一般公務員にする情報漏洩の罰則が弱いため、抑止の効力を果たしていません。スパイ防止に関する法律が過去に提出されたこともありましたが、民主主義的観点から観て容認できないという声が国民から多くあがり、結局、法整備はなされませんでした。

さらに、情報漏洩を防ぐには罰則なのです。先ほど述べました、上海大使館員の自殺事件、更には2006年に発覚しただけでは 不可能、中国へ無断渡航を繰り返し、現地で女性と関係を持っていた海上自衛官が何度も部外秘情報を持ち出そうとしていた事件など、外国でいわゆるハニートラップ、女性関係を通じて脅迫を受け、情報漏洩に至る構造は罰則だけでは 防げません。
防衛省の職員は公務以外で海外渡航を行う場合、その目的や日程、場所などを届け出ねば、渡航許可がおりないのですが、しかし、2~3回程度であれば、罰則も軽いため、実際には無断渡航が横行しています。そして、一般公務員に対してはそういった義務は存在しないのが現状です。

まとめますと、問題点として、
一点目、情報の一元化と命令系統の不足
二点目、一般公務員の漏えいに対する弱い罰則
三点目、公務員の海外渡航に対する把握不足が挙げられます。

これらの問題を解決するために次のような政策を提言します。
一つ、内閣情報調査室の 改革
二つ、一般公務員の情報漏洩に対する 厳罰化
三つ、防衛省職員並びに機密情報を持つ一般公務員の海外渡航報告の 徹底化 以上の3つです。

一つ目の政策、内閣情報調査室の改革について説明します。
内閣官房の内閣情報調査室は本来、日本の情報機関を統括し調整するための機関でした。
しかし、その権限は合同情報会議における事務を担当する程度に留まり、また調査室の出向者が警察庁出身者に偏りすぎ、幹部の多くも警察庁出身者に占められていたため、各省庁の反発を生み、その機能を十分に果たせませんでした。
この内閣情報調査室に各情報機関と省庁に対して情報開示権を与え、また各情報機関の分析官を集め、各省庁の人員を広く受け入れることで、これらの問題点は解消されます。今まで個別に報告されていた分析情報が一元化され、政策決定者に対して分かりやすいものになります。また合同情報会議の出席者に総理大臣を始め外務大臣や防衛大臣など、安全保障に関わる閣僚も同席させ、情報機関に対する命令系統を確立します。

2つ目の政策、一般公務員の情報漏洩に対する罰則の制定について説明します。現在、防衛省職員の漏洩に対して、故意の場合は5年以下の懲役、過失の場合は一年以下の懲役あるいは三万円以下の罰金、共謀などの場合は三年以下の懲役が科せられているにもかかわらず、一般公務員の漏洩に対しては、一年以下の懲役、又は三万円以下の罰金のみで、漏洩に対する抑止効果も 軽くなってしまっているのです。両者とも、同じ国民の命と国益という重要な情報を取り扱っているにも関わらず、このような差が生まれているのは 不自然であります。
そこで、一般公務員に自衛隊法の情報漏洩に対する罰則と同等の罰則を科し、一般公務員に対する情報漏洩を 予防します。

3つ目の政策、渡航報告義務の徹底化については、防衛省の報告義務を、機密情報を所持した一般公務員にも 拡大、さらに2、3回でも無断渡航を行った場合には 停職など厳しいペナルティを科します。海外、特に中国では情報機関の手が民間まで伸び、情報提供と引き換えに、摘発などを見逃すことが行われていて、過去に同じ店で複数の職員がハニートラップに引っかかるなど、事前にその地域の危険性を伝えておけば、防ぐことのできた事例もあります。
職員がどこへ、いつ、渡航を行うのかを把握し、危険性の高い地域であれば、注意を促す。そういった体制を作るのです。また常に現地に滞在する大使館員に対しては、外出の際に同じような報告義務を科すことで、予防します。

以上の政策により、政策決定の場への一元化された情報の提供、情報漏洩に対する予防が実現し、日本は情報を生かし、守る国へと生まれ変わります。

危険性を増し、より複雑化していく脅威を前にして、安全保障の根幹である情報管理の重要性はより高まってきています。
情報をめぐる静かな戦いは もう既に始まっているのです。

ご静聴ありがとうございました。


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