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演題 「再出発」

弁士 後藤和也(政1)

人々は古来より、他人に害を与えた者にその報いとして罰を与えてきました。そして今日の日本においても法律に違反したものには刑罰を与えて矯正し、再教育をした後、ほとんどは再び社会へと戻ってきます。しかし、刑罰を与えた後の矯正する人や機関に問題があるため、矯正、再教育が十分でなく出所者がどうしていいか分からず、生まれるはずのなかった第二、第三の被害者が生まれてしまっています。約6割の事件は、再犯者のひきおこしたものであり第2、第3の被害者の方が多くなっています。刑罰だけでなく、矯正、再教育ができなければ社会でどう生きていけばいいのか分からないまま再び罪を犯してしまうのです。ここ2、3年、犯罪は減ってきていますが、年間3百万件近くの犯罪が起こっている今、私達1人1人が犯罪者と向き合わなければ、今度はあなたが被害を受けることになってしまうかもしれません。

2001年に浅草でレッサーパンダ事件というのがおこりました。この事件は路上で歩いていた女性がレッサーパンダの帽子をかぶった32歳の男に刺されて殺されたという事件です。この犯人は知的障害を持ち何度も軽微な罪で捕まっていたにもかかわらず、障害者雇用助成制度があるのも知らず、障害者手帳すら持っていなかったのです。
この事例から分かることは、このような公的支援などのアドバイスである矯正・再教育が不十分であることです。
また、2006年1月にはJR下関駅で放火事件が起こりました。この74歳の犯人の男は、刑務所から出所して路頭を迷ったあげく、わずか8日後にこの事件をおこしました。寒さと飢えで苦しんでいる中、事件の半日前、役所に生活保護を申請しに行きましたが、住所がないと駄目といわれ相談にものってくれなかったそうです。この事例から言えることは、生活基盤である住居がないために再犯を犯してしまう、ということです。

この2つの事例から、刑務所段階での矯正・再教育ができていない、住居の確保である生活基盤が十分でない、という大きな問題が生まれていることが分かります。

本弁論の目的は、再犯の起きやすいシステムの改善でこの問題をなくすことです。

この問題はどの段階で生まれるのでしょうか。矯正・再教育は本来矯正機関である刑務所において行われるべきなので、受刑段階に問題があります。住居の確保は出所後の生活に関わるので出所段階に問題があります。
では、段階に応じて問題を見ていきます。

1つ目は受刑段階の問題です。
この問題は、1つ目の事例であった矯正・再教育が現在ほとんど行われていないということです。受刑者は毎日の生活の中で決められた労役作業を行っています。その生活の中で外部の人々と接する機会はほとんどなく、一番身近にいる刑務官の方々も刑罰は平等に加える、という観点から個別に相談することができないのが現状です。このような中で、受刑者1人1人と向き合える人がいないため出所前の段階で、出所後にどうすればいいのか、出所した後にどのようなスキルを得ればいいのか、ということを知ることができていないのです。

2つ目は出所段階の問題です。
この問題は、2つ目の事例であった出所時において数万円という作業報奨金のみのため、家も借りることができず、再び路頭に迷ってしまう、という問題です。
数万円という金額で生活を再建していくことが可能でしょうか?おそらく不可能でしょう。というのもある程度の期間は生活していけますが、生活保護等での一定の収入を確保しなければ生活は再建されません。住居の確保は必要なのにもかかわらず、確保できていないため生活の再建が困難になってしまいます。

以上の問題を解決するために、2つの政策を提示いたします。

1つ目の政策は保護司の拡大です。
まず、保護司について説明をします。保護司は保護観察中の者に対して就職などの助言を行う人々で、主な役割は3つあります。
1つ目は今述べた保護観察の面談をつうじての適正な状況把握。
2つ目は今収容されている者が、釈放後にスムーズに社会復帰できるよう釈放後の帰住予定地の調査、引受人との話し合い等を行い必要な受け入れ態勢を整える環境整備。
3つ目は世論の啓発や地域での薬物乱用防止教室などを通しての犯罪予防活動です。この活動を行う保護司は全国に4万8000人ほどいます。任期は2年ですが再任は妨げられません。
私の政策は、このうちの2つ目の役割である環境整備に対して、出所前段階における受刑者とのつながりを強化していくことをかかげます。
これは釈放される2ヶ月前の時点で、保護司との面談を義務化して受刑者と保護司とのコミュニケーションの充実をはかります。
これにより、1つ目の問題であった受刑段階においての相談体制を整備することができるのです。刑務所外の人々である保護司との就職、住居の紹介などのアドバイスにより問題の中でとりあげた外部とのつながりも持つことができるのです。

2つ目の政策は公営住宅の確保です。
まず、公営住宅について説明します。公営住宅は全国に約219万戸あり、住宅困窮者に対する住居の確保を目的としています。しかし、7%ほどは収入基準を超えていながらそのまま暮らしています。
私の政策は、月収に応じたポイント制による公営住宅の入居の選考です。
これは、月収の額に応じて0~2万円が0ポイント、2~4万が1ポイントというようにポイントをつけて、3ヶ月ごとに審査してポイントが多い、かつ収入基準を超えている世帯には住居の明け渡しをさせます。そして、空き室の部分を住居のない出所者に優先的に確保させます。
この政策により、住居のない者に対して一定数の住居を確保することができます。しかしながら住居の確保には限界があるため、身寄りのない満期釈放者自体を減らさなければなりません。このためには、親族に犯罪者が生まれたときにすぐに縁を切ってしまう、という環境を変えなければなりません。

そのためにわたしは、さらにもう1つの政策をうちたいと思います。
それは、犯罪者意識教育の導入です。これは悪いことはしてはいけない、という親から教わる当たり前のことに対し、意思、イメージがまだ柔軟な中学生段階において、犯罪者に対する認識の改善を教えていくものです。
犯罪者に対する認識とは、罪を犯した人が懲役を受け出所しようとする時に親族がもう関わりたくない、と見捨てているという認識です。
どのように教えていくかというと、1,2ヶ月に一回、道徳または総合学習の時間において先ほどの事例のような身寄りのない再犯者が起こした事件の具体例をとり上げていくことにより、もし自分の親族に犯罪者が生まれてしまっても見捨てるのではなく支えることによって新たな再犯を防ぐことにつながる、というように教えていくのです。
この政策により犯罪者に対する身内の意識を変えていくことができるのです。

3つの政策により、受刑段階において、出所後の生活における保護司からのさまざまな公的支援の紹介や就職、住居のあっせんなどのアドバイスを受けることができ、教育で意識の部分においても変えていくことにより出所後身内の元に戻ることができる、それでも住居がない場合には公営住宅の提供により再犯者を減らしていくことができるのです。

「刑務所に戻りたかったから火をつけた」こう言ったのは先ほどの放火事件の犯人です。刑務所に戻るためには再び犯罪を起こさざるを得ません。

再犯は理由が分かっているにも関わらず防げなかったのです。なぜ罪を犯したのかということをしっかり考えていかなければ再犯者を減らすことができません。こういった1度罪を犯したものが再出発できる日を祈って弁論を終了したいと思います。

ご清聴ありがとうございました。


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