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演題 「白と黒」

弁士 真崎博瑛(法1)

あなたは、日本の有罪率を知っていますか?
現在の日本における有罪率は、約99パーセント。簡単に言うと、一度起訴されてしまうと、ほとんど全員の人が有罪となる、ということです。
いくらなんでも、この有罪率は高すぎる。これは異常なことだ。日本の司法は何かがおかしい。もしかして、えん罪があるのではないのか?この数字を知ったときに、私はこう思いました。そして同時に、これが、私が本弁論を作った直接のきっかけでもあります。

さて、日本の司法制度についていろいろと調べてみて、わかったことが一つあります。それは、‘えん罪は誰の身にも降りかかる可能性がある’ということです。

何故、誰の身にも降りかかる可能性があるのか。それには、警察の起訴の段階に一つと、裁判の際に一つと、二つの原因があるのです。
それは、
一つ、自白の強要。
二つ、証拠開示の不徹底。
この二つです。

さて、一つ目の自白の強要とは、被疑者にたいして、密室で連日・連夜、執拗に強引な自白が追求され、絶望感からやってもいない罪を認めるということです。
この、自白の強要において、もっとも問題視されているもの。それは、所謂、「代用監獄」です。今でこそ、この単語は、法律の改正によって姿を消しましたが、この、代用監獄とは何たるか、簡単に説明しますと。被疑者を留置施設に置く際に、警察の取調室を代用の留置所として機能させ、そこに被疑者を留置する、ということです。
これは、都道府県警察の設置する留置施設が刑事収容施設として公認されることに起因するものであります。そして、これによって、被疑者に対して長期間、執拗なまでに強引な取調べが執り行うことが可能となり、結果、やってもいないことを認めてしまうようになるのです。
皆さんもご存知かと思われますが、日本には、四つの、死刑判決が下されたえん罪事件があります。それぞれ、「免田事件」、「財田川(さいたがわ)事件」、「島田事件」、そして「松山事件」。この四つです。
例えば、この内の一つである免田事件における、免田さんにたいする取調べは、想像を絶する厳しさで、2日間はまったく食事をさせず、不眠は3日間。取調べでは、殴る・蹴るはもちろんのこと、「地獄に落としてやる!」、「早く自供して楽になれ!」などと、肉体のみならず、精神的な面からも、免田さんを脅迫したのです。不眠4日目、暖房の無い極寒の独房室で免田さんは、意識がもうろうとしていきます。もう、限界で楽になりたいという気持ちから「犯行を自供」してしまったのです。
たとえが古すぎたかもしれませんが、今のたとえで皆さんに理解していただきたかったのは、「えん罪によって死刑判決がくだされることもある」ということです。えん罪は、人の人生、いや、人の生死までをも変えてしまうのです。
また、最近の例ですと、高野山放火事件、という事件があります。
これは、ある少年が、3件の放火をおこしたとして有罪判決が下されたものの、後々、1件については無罪であると判明した事件です。
この事件での、警察による被告に対する取調べは、なんと3ヵ月半も続き、やはり、殴る・蹴るなどの暴行がなされました。
具体的に、どのように取り調べがなされたのかというと、まず、髪の毛を引っ張られる・わき腹を殴られる・肩や頭を殴られる、などの暴行。
次に、「殺すぞ」「認めなかったら、いつまでも外にでられない」「弁護士の言うことを聞いていたら罪が重くなる」などの脅迫。
そして、被告が絶望感に打ちひしがれているところへ「認めたら保釈できるが、否認したら出られない」という利益誘導。
アメとムチを上手く使い分けた、洗練された取調べにより、少年は、自白してしまったのです。
これらの事件に共通すること。それは、どの事件でも、被告にたいして殴る・蹴るなどの暴行が加えられ、かつ、人権侵害にもあたる暴言によって脅された、ということです。
また、えん罪のみならず、このような過酷な取調べによって、全く関係のない事件の罪までも認めさせられ、結果、本来負うべきよりもはるかに重い罪となったケースも存在します。先ほどの、高野山放火事件などがこれに当たります。
このような現状のもと。皆さんは、「逮捕されても自白しなきゃいいんでしょ?」と、悠長に構えていられますか?

二つ目の、証拠開示の不徹底とは、警察が発見した証拠のうちで、被告に有利な証拠を提出しないということです。
捜査機関はその強大な力を使ってありとあらゆる証拠を収集します。弁護側との力の差は、象とアリほどもある、と言っても過言ではありません。
それにも関わらず、現在の日本では、証拠の全面開示ではなく部分開示でよい、となっているのです。
現在の法律では、弁護人は、検察官が捜査中に収拾したり、作成したりした証拠類の開示を求め閲覧・検討することができないのです。
また、先ほど取り上げた免田事件でも、犯行で使われたとする凶器や、免田さんが犯行時に着ていたとする血痕が着いているズボン、マフラーを熊本地検で保管中に破棄するなどの、証拠隠滅が行われたという例もあります。
このような、意図的に被告をおとしめるような法律は、即刻改正すべきなのです。

また、以上二つの問題点からは、有罪マンネリズムという、新たな問題点が生まれます。この、有罪マンネリズムとは、裁判官の有罪志向のことです。
裁判官による裁判では、その異常なまでに高い有罪率から、有罪志向が出て、無罪推定の原則が貫徹されない傾向にあるのです。
裁判官は来る日も来る日も自白事件の審理で過ごすことが少なくなく、否認事件を処理してもほとんどが有罪となるような現状。このような事態では、裁判官は有罪の予断を持って当たり前です。
このように、密室で、殴る・蹴るなどの暴行や、暴言を浴びせるなど、人権を侵害するような取り調べが行われ、裁判の際は証拠開示が徹底されず、裁判官も、「どうせこいつがやったのだろう」という予断を持ったまま裁判が行われる、このような現状のシステムでは、先に述べたとおり、えん罪が発生する可能性が多分に含まれているのです。

本弁論の目的は、このように、誰にでもえん罪が降りかかる現状を打破し、一人でも多くの、司法による被害者を減らすことです!

では、私の政策を以下に述べます。

まず一つ目の、自白の強要について。
初めに、代用監獄は禁止します。
次に、取調べの内容の、全過程を録画・録音することを義務付け、公判でその状況が明らかになるようにします。また、被疑者が要求すれば、弁護士の同伴を認めることします。
何故、私はことさらに、「全過程」であることを推すのかといいますと。現在、取調べの内容を録画・録音しろ!という風潮が芽生え、それに答えて、警察が取り調べの一部録画・録音の試行がなされました。
しかし、取調べにおいて録画・録音された部分は、被疑者が自白している部分のみだとか、検察側に有利な場面のみであり、その自白に至った経緯が、ビデオや音声からではわからないのです。
このように、自分たちに有利な部分のみを録画・録音し、公開することで、逆に、えん罪の発生を助長する形になってしまうので、私は、全過程の録画・録音を推すのです。
また、これにより、本来負うべき罪よりも重い罪までも負わされる、ということもなくなります。

次に、二つ目の証拠開示の不徹底については、公判前に弁護側に捜査機関が持っている証拠を開示する制度を設けます。
現にアメリカなどの先進諸国では既に設置されている制度であり、これにより、弁護側と検察側は対等となり、より対等な裁判が行われるようになります。
以上、二つの問題点を解決しました。

昔、このような判決文が下されたことがあります
「警察の立証には多少の疑いが残るが、自白があるので有罪である」という旨のものです。このような判決は、有罪マンネリズム、及び自白の弊害を如実に表しています。
しかしながら、以上二つの問題点が解決したことで、自白による弊害はなくなり、また、裁判官も、常に無罪推定の原則を心がけるなど、心情面で大きな変化が起こるでしょう。
以上の私の政策により、開かれる展望。それは、日本が、誰にとっても真の意味で平穏に暮らせる国となることです。

例えば、あなたが事故にあったとき、頼りとするのは司法でしょう。
はたまた、プライバシーを侵害されたとき、遺産相続でもめたとき、詐欺にあったとき。あなたが、最終的に頼りとするのは司法でしょう。
しかしながら、その最後の砦である、現状の司法には、大きな問題点があるのです。この問題点を解決せずに、真の平穏は訪れないのです。
これは、えん罪事件の一つ、八十島事件の被告である小崎さんの姉が、最高裁に当てた嘆願書です。
「弟と私達一家、暗く永い冬のような日々を、どんなに淋しくすごしたかわかりません。気立ての優しい一番下の弟はそのために気が変になり、私は主人と別れ、母は数週間も泣き明かしたので、眼を悪くして三回も手術を受けました。……私達が住み、呼吸をし、食物を食べ、妻を愛し、子を育て、親兄弟を養い、多くの人達を交際し、希望に満ちて日々の生活を営んでいる、生きた私達の真実は、法廷ではその生きた力を持たないのでしょうか。」
「白黒はっきりつける」という言葉が、日本にはあります。
しかし現状では、白の人までもが黒とされているのです。今こそ、真の意味で白黒はっきりさせるときなのです。
もう二度と、悲劇が起きないように。

ご清聴、ありがとうございました。


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