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演題 「いかで省庁、協調せざらむや」

弁士 矢野佳祐(政2)

(導入)
時まさしく現代。地方分権が叫ばれる中、我が国大船の舵を取っているのは未だ中央である。この中央省庁の現在に、我々は安心しきって舵取りを任せて良いのであろうか。

(具体例)
・平成11年、農林水産省が、植物防疫法によって規制されていた外来生物の輸入を緩和、外国産クワガタなどが我が国に持ち込まれた。
・しかし、数年後、外国産クワガタは我が国の生態系に害を与えるという
事が判明した。過去に、ニホンジカやスズメを保護した結果、生態系が悪化した事例があったにも関わらず、農水省は環境への影響を十分に考慮しなかったのだ。
・また、以前噴火した雲仙普賢岳に対し、国土交通省により2つの資料館が、一方で環境省により、1つの資料館が建設された。だが、いずれの施設も似たり寄ったりで、さらに普賢岳の裾、半径2キロ以内に、すべて建てられたのである。本来ならば一つの施設で事が足りるものを、複数の施設を乱立したのである。
・なんと杜撰なることか。一国の行政がかくのごとく杜撰で良いのであろうか。

(現状分析)
なぜ、杜撰な政策や法案が省庁で立案されたのであろうか。省庁での政策や法案の立案過程を説明いたします。
まず、各省庁が統計から課題を把握し、課題について、調査団を結成したりシンクタンクに依頼をしたりして、課題の調査と研究を行う。課題の  解決策となる 政策や法案の原案を作成するのである。
この作成された原案は、各省庁が、課題の種類ごとに設置している審議会にて、有識者や関係諸団体の代表者らによって審議される。
続いて、審議会を通過した原案は、政策はそのまま、法案は内閣法制局を経てから、与党の審査を受ける。そして事務次官会議に提出され承認を  得て、閣議決定を受けて国会にて審議される。

(問題点)
以上の省庁による立案の過程を分析しますと、冒頭に挙げた事例の原因である3つの問題点が浮き彫りになります。一つ目、立案に際して省庁の官僚同士が協議をする場が、公式につまり法的根拠の元に存在しないこと、
二つ目、あまたの省庁の管轄に跨る総合的な政策や法案を審議する場が無いこと、
三つ目、立案過程における議事録が記録されないため、全体的に不透明で公平性に欠けること。

一つ目の、「立案に際して省庁の官僚同士による協議の場が法的根拠の下に存在しない」
ことだが、審議会では、原則として官僚が会議に参加する事は一切禁じられている。また、事務次官会議があるが、これは法的根拠がない。事務次官会議は原案に許可を与える場であり、原案を修正する場では無い。この会議に先立って調整も行われているが、それらは非公式に行われている。
また、平成10年に出された「中央省庁改革基本法」では、内閣府主導の下に各省庁が政策や法案の立案過程において、協議をする場を作ろうとしたが、10年を経た 現在もなお進展が無い。

二つ目の、「あまたの省庁の管轄に跨る総合的な政策や法案を審議する場が無い」ことだが、一つ目の問題とあいまって、省庁の管轄の壁を越えて協議する機会が無い。実際に、農水省が提出した政策や法案が農水省の管轄の   範囲内で妥当ならば、与党の審査でも国会でもこれを否決する権利は無い。従って提出された政策や法案が農水省の管轄で妥当であっても、環境省の管轄では妥当ではないまま通過されている。

三つ目の、「立案過程における会議の議事録が記録されないため、全体的に不透明で公平性を欠く」
ことだが、互いの省庁が、立案過程にある政策や法案を公式に知る事が出来ない状況の中、立案しているのである。

以上の問題点が、冒頭に述べた事例を引き起こすに至った説明をいたします。
環境省の官僚は、農水省が立案した外来生物の規制緩和を、施行前に知る事が出来なかった。また、農水省はその管轄内でしか議論をしなかった為に、環境省と共に生態系への配慮を伴った輸入の解禁が行われなかったのである。
また、普賢岳の施設乱立は、国交省と環境省が互いの計画を知らぬまま立案し、重複した計画が施行されてしまったのである。

(解決策)
我が弁論におきましては、省庁の政策及び法案の総合的な協議を行えるようにし、不透明なる立案過程を透明にすることを目的とし、ここに2つの提言をいたします。
それは、
1、他の省庁の官僚との法的根拠に基づいた協議の場を置く事、
2、立案過程のすべての議事録を定期的に公開するよう規定する事、
である。

この1番目に掲げます「他の省庁との会議」について説明いたします。
ある省庁で立案される政策や法案が、他の省庁の管轄に跨る場合、審議会を通過した後に当該の省庁の官僚と話し合う会議である。国家行政法を 改正し、法的根拠のもとに設置する。党審査や事務次官会議、国会に先立って、事前に政策や法案の不備や欠点を是正するのである。
従ってこの会議は、審議会と事務次官会議の間に置かれる。構成員は審議会同様、有識者や諸団体の代表らに加えて、議案に関わる当該省庁の官僚である。

2番目に掲げた「議事録の公開」は、官報に議事録を掲載するものである。審議会における審議と、新たに設置する省庁の協議での議事録を記録し保存する事を義務付ける。何が話し合われたのかが第三者に常にわかるようにするため定期的に公開する。

(展望)
以上の私の提案を以って、政策や法案の立案過程における各省庁の連携が行われることで、どのような展望が開けるかを申し上げます。
法令に準拠した協議において、省庁は管轄の垣根を越えて立案が行えるようになる。よって一方の省庁で妥当な原案でも他方の省庁からすると妥当ではない、といった原案は、立案の段階で修正可能となる。
また、議事録の定期的公開で、いかなる根拠を以って法案や政策が立案されたのかが、国会議員にも明白となるため、国会にてより有意義に審議が可能となる
そして、一方の省庁が他方の省庁の立案過程を知ることで、施行されれば自分たちの省庁に不利益が生じるようなものは積極的に是正するようになる。
以上述べましたように、私の提案で、従来のような杜撰な政策や法案は  通過しないようにするのである。

(結び)
・将来、深刻化が予想される環境の悪化に対し、環境省が他の省庁と連携を緊密にする場合、あるいはアスベストや食品偽装など各省庁に管轄の跨る総合的な課題が生じた場合。
・各省庁がそれぞれ管轄の範囲内でのみ対処するのではなく、協調して総合的に解決策を講じてゆけるようにするため、省庁の協議とその透明化はしなくてはならない。
そもそも我が国の行政を担い、国を背負い動かしている官僚たるもの、なにゆえにか、このような杜撰なるまつりごとが成せるのか。彼ら官僚が行政の

大船の舵を取り間えば、国は傾くのである。いかで省庁、協調せざらむや!!!


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